万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

選挙公約は民主主義に対する封じ手?

2024年07月02日 10時01分53秒 | 統治制度論
 東京都知事選をはじめとして、目下、アメリカ、イギリス、フランス等において今後の政治を占う重要な選挙が目白押しです。普通選挙の実施は、民主主義のメルクマールでもあり、民主主義の制度化は、選挙制度に始まると言っても過言ではありません。このため、人々は、有権者が複数の政党や候補者から自由選択が可能な普通選挙の存在だけで、既に民主主義が実現しているものと安心しがちです。しかしながら、本当に、普通選挙の実施は、国民自治という意味において民主主義を具現化しているのでしょうか。

 何れの組織にありましても、決定機関の人事は極めて重要です。ましてや、それが政治的ポストの人事権ともなりますとなおさらのことです。有権者となった国民は、選任者として為政者の‘上部’に位置することとなるからです。この意味において、民主的選挙こそ、為政者と国民との旧来の上下関係をひっくりかえした‘革命’とでも表現すべき統治機構上の大転換、あるいは、画期的な大改革なのですが(暴力革命よりも遥かに平和的で理性的・・・)、国民は、選挙権並びに被選挙権を獲得した時点で、国民主権が遂に実現したものとして満足してしまったのも無理からぬことなのです。

 かくして民主的選挙の導入によって、国民は、政治ポストに対する人事権を得たのですが、近現代以降、政治における左右のイデオロギー対立を背景として、選挙における有権者の選択は、政党の選択、即ち、政治信条、価値観、あるいは、世界観をめぐるものへと比重を移してゆきます。否、‘人選び’から‘党選び’へと人々の投票の重点が変化したため、むしろ、前者への関心が低下してしまったとも言えるかも知れません(議院内閣制の国では、政権選びともなる・・・)。政治家の個人的な質が劣化したのも、選択の対象が政党へと移行したことに起因するのでしょう。そして、選挙には、さらに‘政策選び’が加わることとなります。‘政党選び’から派生して(各政党とも、政策綱領が作成されている・・・)、候補者の各々も、当選した暁にはその実現を有権者に約する選挙公約を掲げるようになったからです。今では、候補者が提示する公約は、有権者にとりましては投票先を決める重要な判断材料となりました。

 選挙に際して政策まで選べるようになったのですから、有権者が選択できる対象が広がり、間接的ながらも、国民が政策の決定権を握ったにも等しいようにも思えます。選挙に勝利してポストに就いた政治家は、もはや‘決定者’ではなく、公約を誠実に実現する‘実行者’に過ぎなくなるからです。この側面だけを切り取れば、確かに、民主主義の制度化がさらに進化・発展し、国民の参政権の内容はさらに充実したかのようにも見えます。

 しかしながら、統治制度全体を見ますと、各候補者や政党による選挙公約の提示が、必ずしも民主主義の進化・発展を約束するわけではありません。その理由は、公約とは、各候補者や政党側が作成するものであって、‘国民の声’ではないからです。極少数の国あるいは地方自治体レベルでは国民発案の制度が導入されているものの、現行のシステムでは、発案権は政治家や政党に半ば独占されており、‘国民の声’は同システムにあって遮断されているのです。

 この結果、どのような事態が起きたのかと申しますと、政治家や政党が、敢えて国民の要望や世論が支持する政策等を公約から外し、自らの利益となる政策や当たり障りのない政策のみしか公約に掲げないという、一種の民主主義封じの横行です。例えば、先日、自民党総裁選挙への出馬に意欲を示す自民党の茂木幹事長が、総理になって「やりたい仕事があるのは間違いない」と述べて、具体的な政策として「ライドシェアの全面解禁」と「副業の解禁」を挙げたそうです。同‘公約’は、SNSでは国民感情を逆なでしているとして批判を浴びたのですが、この発言も、茂木幹事長が、‘国民の声’ではなく、‘別の声’を聞いて政策を提示しているとすれば、‘さもありなん’ということとなりましょう。

 ‘別の声’とは、おそらく世界経済フォーラム等をフロントとする世界権力なのでしょうが、この一件は、‘国民の声’が無視され、政治家の大半がグローバリストの代理人となっている日本政治の現状をよく表してもいます。そして、現状における公約の悪用とも言うべき民主主義に対する逆行作用を考慮すれば、今日、民主主義国家の国民に必要とされている政治家とは、‘国民の声’を公約とすると共に、同問題を解決に導くべく制度改革を公約に掲げる政治家なのではないかと思うのです。

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