万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

北朝鮮の米朝首脳会談キャンセル警告-金正恩委員長は逃げ腰なのでは?

2018年05月16日 15時34分15秒 | 国際政治
北朝鮮「一方的に核放棄強要なら米朝首脳会談再考」米をけん制
 先月27日に板門店で開催された南北首脳会談は、北朝鮮危機の話し合い解決に向けた流れを巧みな演出によって造りだした観がありました。しかしながら、注目の米朝首脳会談を凡そひと月後に控えた今日、北朝鮮は、南北閣僚級会談を中止すると共に、米朝首脳会談のキャンセルをもする示唆するキム・ケグァン第1外務次官の談話を発表しています。

 北朝鮮が米朝首脳会談の再考を言い出した理由について、マスメディアは、対米牽制ではないか、と憶測しております。この説に従えば、アメリカから一方的に核放棄を強要される会談となるならば、金正恩委員長は、開催しない方が‘まし’と見なしていることとなります。つまり、キャンセルへの言及は、北朝鮮にとっての核・ミサイル開発とは、アメリカをはじめ国際社会から利益を引き出すための手段であって、見返りなき核放棄は受け入れられない、とする立場表明となるのです。

 北朝鮮は極端な自己中心主義の国ですので、首脳会談開催の決定権は自らのみにあると見なしている可能性は大いにあります。いわば、‘上から目線’で、アメリカが見返りを提供しなければ、交渉の席には着かないと脅迫していることとなるのですが、これまでの経緯を考慮すれば、この強硬姿勢は奇妙でもあります。何故ならば、米朝首脳会談を最初に提案したのは、金委員長自身に他ならないからです。トランプ米大統領は、北朝鮮側の意向に応えたに過ぎず、自らがイニシアティヴをとって金委員長の米朝首脳会談への参加を取り付けたわけではないのです。

 アメリカにとっての米朝首脳会談開催の意義とは、北朝鮮に対して‘見返り’を与えるためではないはずです。むしろ、北朝鮮に対し、米軍による軍事制裁ではなく、平和的手段による解決チャンスを与えることが目的であり、いわば、‘温情’であったはずなのです。つまり、北朝鮮が首脳会談の席に着くつもりがないならば、アメリカには、金委員長の意向を思い止まらせる動機がないのです。あるいは、ノーベル平和賞の授与が取り沙汰されているように、トランプ大統領の名誉心に訴えているのかもしれませんが、国家犯罪を繰り返してきた北朝鮮に‘見返り’を与える行為は、真の意味において名誉ある行為とは言い難く、その効果にも疑問があります。

 金委員長もまた、自らが首脳会談を一方的に放棄できる立場にないことは、内心、十分に承知していることでしょう。となりますと、金委員長は、既に米朝首脳会談に対して逃げ腰なのかもしれません。仮に、同会談において両者が決裂した途端、即、米軍による軍事制裁もあり得るからです。以前、中国の習近平国家主席が訪米した折に、トランプ大統領は、同主席をテーブルの隣にしてシリア攻撃を即断しております。また、イラン方式が無理であることが判明した、あるいは、アメリカを再度騙そうとしたことが既に‘ばれ’てしまったため、同会談を開く意味を失ったからかもしれません。

金委員長は、米朝首脳会談が開催されれば、合意が成立するにせよ、決裂するにせよ、北朝鮮にとりまして不利な結果しかもたらさないと判断した場合には、’次善の策?’として首脳会談を見送ろうとしたとしても不思議はありません。事の真偽を確かめるにはより詳細な情報を要しますが、米朝首脳会談がお流れになる可能性は否定できないように思えるのです。

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別の角度から見た北朝鮮核放棄問題-‘植民地化’という代償

2018年05月15日 15時04分20秒 | 国際政治
米朝首脳会談を来月に控え、マスコミ各社は、北朝鮮が要求する核放棄の‘見返り’に言及するようになりました。本来、北朝鮮は違法行為を働いた国家ですので、犯罪行為に報償を与えるような‘見返り’など‘もっての他’なのですが、見方を変えますと、別の意味で北朝鮮が払う代償は大きいとも言えます。

 北朝鮮の核放棄については、段階的廃棄を主張してきた中国の習近平国家主席は、北朝鮮が核放棄に向けた具体的な行動に着手した段階で、経済支援を実施する意向を示しております。乃ち、‘完全、検証可能かつ不可逆的な核廃棄(CVID)’を完了しない段階での支援となりますので、過去二度にわたる対北融和策の失敗を繰り返すリスクが高まることは必至です。このリスクを十分に承知しながら、中国は、北朝鮮に対する経済支援に前のめりの姿勢を見せているのです。

 それでは、アメリカは、どのような姿勢で臨んでいるのでしょうか。アメリカの対北交渉に臨むに当たって大原則は‘完全、検証可能かつ不可逆的な核廃棄(CVID)’なのですが、ポンペオ米国務長官の発言を聞いておりますと、‘見返り’については頭から拒絶はしていないようです。否、拒絶するどころか、むしろ、積極的に提供を申し出ている節さえあります。先の金正恩委員長との会談で示されたとされる‘新たな代案’の内容こそ、この提案かもしれないのですが、電力供給網などのインフラ整備への米民間企業の参加などを念頭に置いているようです。

 対北経済支援の前提条件こそ異なるものの、米中両国は、インフラ部門における対北経済支援を競っているようにも見えます。そして、一帯一路構想の下でインフラ支援を受け入れた諸国が債務の返済に窮し、借金の形に‘植民地化’を受け入れざるを得ない状況に追い込まれた点を考慮しますと、中国の経済支援は、事実上の北朝鮮の植民地化を意味するかもしれません。中国が、親切にも北朝鮮に対して‘見返り’を求めないわけはありません。そしてアメリカも、同国の電力事業等の重要な基幹インフラ産業に米企業を優先的に参入させれば、中国ほどには露骨ではないにせよ、間接的に北朝鮮経済をコントロールすると同時に、軍事面においても北朝鮮の戦争遂行能力を自国の管理下に置くことができるのです。

 経済制裁で資金力に乏しいロシアは対北経済支援競争、否、植民地争いでは蚊帳の外となったものの、経済大国である米中両国は、北朝鮮問題から如何にして自国の国益を引き出すのか、冷静に計算しているのかもしれません。一方、北朝鮮にとっての核開発とは、瀬戸際作戦による脅迫効果によって他国から資金を奪取する手段ではなく、その逆に、自国が植民地化される原因を自ら造りだしてしまったことを意味します。贅を尽くした生活と独裁者の地位さえ保障されれば、金正恩委員長にとりましては、‘悪くはないディーリング’であるのかもしれません。もちろん、米朝両国の思惑は一致せず、首脳会談が決裂する可能性はありますが、仮に、合意が成立したとしても、植民地化という代償を払うとすれば、それは、北朝鮮にとりましては、自己中心主義ゆえの思わぬ誤算となるのではないでしょうか。

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ポンペオ米国務長官の“体制保障”は何を意味するのか?

2018年05月14日 14時17分40秒 | 国際政治
非核化で米ポンペオ長官“安全保証与える”
6月12日に予定されている米朝首脳会談まで1カ月を切った今月13日、アメリカのポンペオ米国務長官は、核放棄の見返りとして「金正恩委員長に安全の保証を与える必要がある」とする見解を示したそうです。マスメディアでは、“北朝鮮の体制保障”と解されておりますが、ポンペオ長官の発言には、以下のような様々な解釈が成り立ちます。

 第一の解釈は、マスメディアの表現通り、建国以来今日に至るまで敷かれてきた金一族世襲による独裁体制の維持を保障する、というものです。同独裁体制とは、共産主義と主体思想が入り混じった特異な全体主義体制でもあり、国民の人権や自由は著しく抑圧されています。言い換えますと、アメリカは、北朝鮮に対して非民主的、かつ、強権的な現行の体制に対して変革を求めず、これを容認する方針に転じたこととなります。また、さらに踏み込んだ体制保障を約したとなれば、北朝鮮国民が同体制に反発し、民主化を求めてその打倒に立ち上がった場合に、自由と民主主義の最大の擁護者であったはずのアメリカが介入して民主化運動を鎮圧するという驚愕の事態も想定されます。

 第二に、ポンペオ長官が使用した‘安全’という言葉に注目すれば、アメリカが保障するのは北朝鮮の国家体制そのものではなく、‘米軍による対北先制攻撃は控える’という意味である可能性もあります。この解釈では、暗に朝鮮戦争の終結による米朝国交正常化を示唆したこととなります。朝鮮半島の南北再統一の問題はさて置くとしても、米朝間における敵対関係の終焉と同時に、アメリカによって北朝鮮の安全保障が確約されたこととなります。

 そして第三の解釈は、保障を与える相手として名指しされた‘金正恩委員長’を重視したものです。この場合は、‘核を放棄すれば、金委員長の一身は保証する’という、北朝鮮に対して相当に厳しい意味合いとなります。アメリカは、北朝鮮に対して圧倒的な軍事力を以って核放棄を迫っていますので、ポンペオ長官の発言は、いわば、強行突入を前にして人質犯に対して投降を勧告する‘命が惜しければ、核を放棄せよ’との、警察官のセリフとなりましょう。あるいは、アメリカ政府は、既に金委員長の亡命先を手配しているかもしれません。

 以上に主要な3つの解釈を挙げました、ポンペオ長官の発言は、その意味するところによって、今後の展開について全く違うシナリオを描くことができます。果たしてアメリカは、金委員長に対して何を保障しているのでしょうか。

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韓国船籍‘瀬取り’事件-北朝鮮の戦争準備か?

2018年05月13日 15時56分25秒 | 国際政治
 先月下旬に開催された南北首脳会談では、‘平和の到来’が効果的に演出され、内外にあたかも朝鮮半島から危機が去ったかのような印象を与えました。しかしながら、その実態は、演出ほどには単純ではなく、南北融和は別の意味で波乱含みのように思えます。

 報道に拠りますと、南北首脳会談の直後に当たる時期に、東シナ海において日本国の海上自衛隊艦艇が韓国籍のタンカーが北朝鮮籍タンカーに接近している現場を発見したため、日本国政府は、韓国政府に対して調査を求めたそうです。現場での‘瀬取り’行為は未遂に終わったと見られますが(もっとも、水面下におけるタンカーの喫水の観察によるので確実ではない…)、未遂であれ、当然に、対北制裁を定める国連安保理決議に違反行為に当たります。

 北朝鮮に対しては、全面禁輸にまで踏み込まなかったものの、主として中国から輸入される原油や石油製品の輸入について量的な上限が定められています。同輸入枠の設定に際しては、おそらく、戦争遂行不可能であり、かつ、人道的な配慮から北朝鮮の国民生活に必要最低限な程度とする判断が働いたのでしょう。となりますと、北朝鮮が経済制裁を掻い潜る密輸に訴えてでも輸入上限を越える量の原油や石油製品を求めているとすれば、それは、特別の使用目的があるものと推測されます。そしてそれはやはり、米朝会談決裂に備えた戦争準備と考えざるを得ないのです。

 瀬取り未遂の現場が東シナ海であることと、南北両国の動きを考え合わせますと、過剰にプロデュースされた南北融和のムードとは裏腹に、国際社会には不穏な空気が漂っていることが分かります。今般の事件では、日本国の海上自衛隊艦艇が発見しましたが、北朝鮮は、中国の人民解放軍や海警局も活動する東シナ海であれば、‘瀬取り’の発覚を回避できると踏んでいたのでしょう。現場の海域から、中国が北朝鮮の‘瀬取り’を黙認している実態が窺えるのです。
 
 そして、韓国政府による自国船籍タンカーに対する‘瀬取り’の取締りが不徹底であった事実もまた、深刻なリスクを提起しております。何故ならば、同韓国船籍タンカーは韓国内に帰港しており、民間船舶とはいえ、韓国政府が厳重に自国船籍の石油タンカーの管理を実施していれば、あり得ない出来事であるからです(仮に、韓国政府の黙認ではなくとも、民間事業者が‘瀬取り’計画を実行できるほど、韓国国内には北朝鮮系の組織が根を張っている…)。このことは、‘南北融和’の裏の姿とは、韓国による北朝鮮に対する軍事支援、即ち、利敵行為になりかねないという忌々しき事態を示唆します。事の重大さを韓国政府がどの程度理解しているかは分かりませんが(韓国政府は、米朝会談が必ず合意に至ると信じているのでしょうか…)、仮に、米朝会談が決裂し、アメリカによる軍事制裁が発動されるに至った場合、米韓同盟が正常に機能するとも思えません。

 韓国籍船舶‘瀬取り’事件の発覚は、6月12日に予定されている米朝会談の如何によっては、南北融和が、実のところ、米韓同盟の動揺と朝鮮半島全域における中国の影響力の拡大、即ち、中朝vs.米韓から中韓朝vs.米国の構図への移行の前触れであった可能性を示唆しています。米朝会談の行方には不透明感が漂っており、日本国政府も、あらゆる事態に適切に対応し得るよう、同事件については徹底的な情報分析を行うべきではないかと思うのです。

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北朝鮮への見返りは不要なのでは?-対北支援の悪しき先入観

2018年05月12日 15時36分33秒 | 国際政治
報道に拠りますと、米朝首脳会談を控え、ポンペオ米国務長官は、北朝鮮が早期に非核化のための具体的な行動を採れば、経済支援を行う用意がある旨の発言をしたそうです。果たして、国際法や国連安保理決議を無視して秘かに核開発を行った北朝鮮に対して、見返りを与える必要はあるのでしょうか。

 北朝鮮への見返り提供は、犯罪者に対して武器を置くことを条件に報償を与えるに等しくなりますので、社会倫理に反することは言うまでもありません。同国の核開発とは人類を人質にとった犯罪とも言えますので、北朝鮮にとりましては、半ばその目的を達成したことになります。おそらく、同国にとっての核開発計画とは、保有に成功すれば軍事的優位と脅迫の手段を手に入れ、放棄すれば見返りとして巨額の資金を引き出せますので、どちらに転んでも自国が‘得’をする国家戦略であったのでしょう。

 こうした北朝鮮の狡猾さを考えますと、迂闊に見返りを与えることは、国際社会において深刻なモラル・ハザードをもたらしかねません。北朝鮮のみならず、他の諸国も同国の策略を模倣する可能性を否定できないからです。放棄に対する見返り目当ての、‘核兵器の拡散’ならぬ‘核開発計画の拡散’も国際社会が怖れるべき事態です。

 そして、ここで考えるべきは、北朝鮮に対する経済支援を当然のことと見なす先入観です。その先入観とは、(1)同国は、目下、国民の大半が飢えに苦しみ、経済が停滞した最貧国である、(2)日朝国交正常化に際して、日本国は北朝鮮に対して巨額の経済支援をすべきである、(3)朝鮮半島の南北再統一のためには、対北支援が必要である、といったものです。これらの先入観が存在する故に、国際社会は経済支援を当然視し、北朝鮮もまた、核問題を梃子にこれらのポケットから最大限の資金を獲得ようと画策していると推測されるのです。

 しかしながら、以上の諸点の何れもが国際法上の根拠があるわけではありません。(1)については、長期に亘り、統制経済を敷いてきた北朝鮮の自己責任であって国際社会に支援義務があるわけではありませんし、(2)についても、冷戦期にあって韓国支援のために締結された日韓請求権協定を先例と見なすとすれば、今日とは状況も政治的意味合いも異なっています。また、(3)に関しては、ドイツの再統一の事例に従えば、第一義的な支援責任は韓国にあります。しかも、それが国家犯罪の見返りとなれば、国際法秩序を揺るがしかねないモラル・ハザードであることは既に述べました。

 しかも、一説によれば、欧州諸国や中国等の対北融和政策の背景には、北朝鮮に埋蔵されているウランを始めとした豊富な鉱物資源があります。イランに対する経済支援が話題とならないように、仮に北朝鮮が、‘完全、検証可能かつ不可逆的な核廃棄(CVID)’を以って核を放棄し、経済制裁が解除された場合には、同国は、鉱物資源の輸出を以って自力で経済開発を行うべきです。見返りとしての北朝鮮への経済支援は、米中対立が先鋭化している中、‘敵に塩を送る’結果となりかねないのですから、この案は見送る方が賢明であると思うのです。

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視界不良な米朝首脳会談-6月12日シンガポール開催

2018年05月11日 10時38分28秒 | 国際政治
非核化検証が課題=「失敗の25年」教訓に―米朝
 注目を集めてきた米朝首脳会談については、6月12日にシンガポールで開催されることが決定されました。通常、首脳クラスの会談では、事前に両国間で裏方による折衝が済んでおり、最後の仕上げとなる象徴的なセレモニーが首脳会談となるのですが、今般の米朝首脳会談については全く以ってその先行きが不透明です。

 この不透明感は、第一に、しばしば指摘されているように、アメリカのトランプ大統領も北朝鮮の金正恩委員長も、共に外交上の慣習的な手続きに従うよりも、即決、即ち、予測不可能な決断を行う傾向にあることに起因しています。特に後者は、国家の全権を掌握している独裁者であり、交渉の場の雰囲気や成り行きによっては、憤慨して交渉の席を蹴る、あるいは逆に、言葉巧みに誘導されて懐柔される、または、威圧されて膝を屈する展開もあり得ます。

第二に、北朝鮮は、相手方を翻弄するためには虚偽の発言や偽情報の流布をも厭わない心理戦を好む点を挙げることができます。昨日も、NHKのニュース9においてポンペオ米国務長官と金委員長との会談の映像が放映されていましたが、その席で、同委員長は、アメリカから“新たな代案”を提示されたと解説されていました。その内容については全く触れられていませんが、あたかもアメリカが従来要求してきたリビア方式とは異なる、何らかの妥協的な案が示されたかの如く、思わせぶりに“新たな代案”の存在を示唆しているのです。アメリカが実際に何らかの新提案を示したのか否か、視聴者はその真偽を知ることはできません。それ故に、この情報に接した人々は、米朝首脳会談においてアメリカが、中朝が主張する“段階的な核放棄”を認めるのではないか、とする懸念を抱くことでしょう(イランへの対応からすればあり得ない…)。

そして、この“新たな代案”についてその真偽を知り得るのは、唯一、アメリカのみです。アメリカは、ポーカー・フェイスを決め込んで、嘘を吐く北朝鮮を泳がせておくのでしょうか、それとも、金委員長の発言は事実であって“新たな提案”を秘密裏に北朝鮮に示したのでしょうか。アメリカから正確なる情報が提供されない限り、国際社会は、米朝首脳会談のその時まで、事の真偽が分からないのです。

 加えて第三として、開催地がシンガポールであることも、不透明感が増す要因です。開催地にシンガポールが選ばれた理由としては、双方が受け入れ可能な中立的な場所を探った結果、消去法として同地が残ったとも説明されております。しかしながら、シンガポールは、米朝両国にとりまして中立的であるように見えながらも、その歴史を辿りますと、イギリスと中国、特に、華僑の影響が極めて強いという特色があります。北朝鮮の急速なる核開発の進展の背景には、両国も絡む何らかの国際ネットワークの存在も窺えますので、表向きは米朝首脳会談であっても、両国のみならず、表舞台には現れない関連する国際勢力が参加している可能性も否定はできません。つまり、利害関係がより複雑になり、結果が見通せなくなるのです。

 かくして米朝首脳会談は視界不良であり、その先行きを現時点で正確に予測することは、相当に困難です。しかしながら、イラン核合意からの離脱を考慮すれば、トランプ大統領が平然とダブルスタンダードを以って同問題の解決を図るとは考えられず、やはり、若干の見返り条件が付く可能性があるにせよ、‘完全、検証可能かつ不可逆的な核廃棄(CVID)’に基づく北朝鮮の核放棄か、交渉決裂かの何れかとなるように思えるのです。

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日中経済関係改善への疑問-隠れた対中譲歩では?

2018年05月10日 15時15分44秒 | 日本経済
 8年ぶりの李克強首相の公式訪日で実現した日中韓サミットでは、経済分野における日中関係の改善が特に進展した分野として報じられています。マスメディア等では、米中関係の悪化を背景とした中国による対日譲歩として説明していますが、その内容からしますと、逆なのではないかと思うのです。

 第1に挙げられる点は、“再開”と表現されているスワップ協定における非対等性と元の国際化への協力です。今般、合意されたとする日中通貨交換協定の仕組みとは、邦銀が金融危機などの影響により人民元を調達できない事態に陥った場合、日銀が中国人民銀行から円と引き換えに元を調達して邦銀に提供するというものです。この仕組みで想定されているのは、元の調達危機であり、その逆はありません(それとも、逆パターンについてはマスメディアが報じていない?)。即ち、円調達に支障を来す事態は想定外であり、このことは、人民元を日中貿易での決済通貨や投資通貨と見なしていることを意味します。つまり、米ドルが国際基軸通貨である故に、他の諸国にとってその発行国であるアメリカとのスワップ協定が極めて重要となるように、中国は、日本国に対して人民元に‘国際基軸通貨’の地位を認めさせようとしているように見えるのです。これまで、日本国政府もまた、円の国際化政策を推進してきましたが、この方針は、中国に対する譲歩によって、事実上、放棄したこととなります。否、日本国政府は、一時頓挫していた人民元の国際化戦略に再度挑み始めた中国に協力していると言っても過言ではないのです。

 第2の懸念される点は、「日中サービス産業協力メカニズム」なる仕組みの構築です。サービス分野とは人の移動を伴いますので、仮に、相互にサービス市場を開放するためのメカニズムであるとすれば、移民問題と直結します。国民監視が徹底した独裁国家である中国の現状を考慮しますと、中国人による日本国での起業や就業が圧倒的に多くなるものと推測されます。言い換えますと、サービス分野での日中協力とは、日本国政府による隠れた移民政策、否、中国人移民受け入れ政策になりかねないのです。

 第3の疑問点は、日中映画協定の締結です。この協定により、日本映画が中国市場に参入しやすくなると説明されていますが、中国では、映画の内容は当局によって厳しくチェックされており、中国の体制を批判したり、共産主義やそれに基づく歴史認識を否定するような映画は上演することはできません。実際に、チャイナ・マネーを呼び込んだハリウッドでは、中国政府に媚びる作品が製作されなど、その弊害が問題視されるに至っています。こうした現実を直視すれば、日中映画協定とは、日本国の製作者に対する‘自己規制’の要求となり得るリスクがあります。

 加えて第4点として指摘し得るのは、中国が提唱する「一帯一路構想」を想定した日中間の第三国に対するインフラ分野での協力です。「一帯一路構想」に潜む中国の覇権主義は既に各方面から指摘されておりますが、今般の合意では、委員会を設置するという踏み込んだ内容となっています。たとえ日本国が僅かなりともビジネスチャンスを得たとしても、他国を中国支配のリスクに晒すような協力は、植民地主義を否定してきた国際社会の倫理に反します。無法国家の利己的な野望に手を貸すことにでもなれば、日本国は、後世に汚名を残すこととなりましょう。

 以上に主要な疑問点を挙げてきましたが、今般の日中協力において特筆すべきは、その手法が制度化を伴っている点です。同合意にはしばしば“メカニズム”や“委員会”という名が登場しており、いわば、中国の統治機構が日本国を絡め取るかのような様相を呈しているのです。一旦、こうした仕組みが設立されますと、行政組織の常として廃絶は困難となりますし、おそらく、これらの制度を介して、中国は、様々な要求を日本国政府に押し付けてくることでしょう。日中関係の改善が日本国に対する中国の介入強化を意味するならば、日本国民の多くは、警戒を強めこそすれ、決して歓迎しないのではないでしょうか。

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米離脱後でもイラン核合意は維持できるのか?

2018年05月09日 15時29分04秒 | 国際政治
英仏独の首脳「遺憾と懸念」 米国のイラン核合意離脱に対し 
トランプ米大統領によるイラン核合意離脱の決断は、イランを含め関係諸国に衝撃を与えております。離脱の報を受けたイランのハッサン・ロウハニ大統領は、早々、アメリカを除く核合意の当事国との間で事後策を協議する意向を示しておりますが、アメリカ抜きで核合意を維持することはできるのでしょうか。

 英仏独の欧州三カ国、並びに、中ロの五か国が核合意の維持を望む背景には、石油、並びに、天然ガスの世界有数の産出国であるイランの経済利権が絡んでいることは疑いなきことです。これらの諸国にとりましては、核合意成立後の経済制裁解除によって獲得した利権は、何としても手放したくないのでしょう。これらの諸国は、NPTに支えられている核不拡散という国際社会の大義を脇に置いても自国の経済的利益を追求しているのですから、この側面においては、トランプ大統領の唱えた“アメリカ・ファースト”以上に自国優先主義であると言えます。

 イラン、並びに、他の五か国は、アメリカが合意から離脱しても、他の五か国がイラン産原油や天然ガスを積極的に調達すれば、何らの問題もないと読んでいるかもしれません。イランには外貨獲得のルートが残されることとなり、経済制裁の効果は著しく薄まると同時に、ロイヤル・ダッチ・シェルなどの欧州系メジャーの石油利権も確保できます。また、経済制裁の再開によって米系メジャーや企業がイランから撤退すれば、欧州系や中ロにとりましては、同地での取引拡大のチャンスとなる可能性も否定はできないのです。

 しかしながら、アメリカなしの枠組み合意維持は、これらの諸国の期待通りの方向に進むのでしょうか。アメリカによる経済制裁の効果については、ロウハニ大統領がウラン濃縮の「無制限」再開を示唆したことからも窺えます。仮に、他の五か国との取引維持によってイラン経済に何らの支障も来たさないならば、核開発再開を脅し文句とした対米脅迫とも解される発言はないはずです(それとも、最初から核開発は再開させるつもりであり、米離脱を口実に本心では合意を破棄したい?)。イランは、アメリカによる経済制裁が自国に与えるダメージの深刻さを熟知しているからこそ、核開発再開を持ち出してまで、アメリカに離脱を思い止まらせようとしているとしか考えられないのです。

 そして、アメリカの離脱決定は、イラン、並びに、他の五か国の核放棄への本気度を試す機会ともなります。仮に、核合意において凍結の期限とされた2025年以降にイランが開発を再開した場合、合意を維持した他の五か国は、アメリカのみならず、国際社会からも厳しい批判に晒されることとなりましょう。また、英独仏は、核合意の不備を問題視してイランに再交渉を求める姿勢を見せていますが、イランが再交渉を拒否する場合には、これらの諸国もアメリカに続いて離脱を決定するかもしれません。

特にアメリカと英仏独は共にNATOのメンバーでもありますので、イラン核合意をめぐる立場の違いは、中ロによる米・欧州分断作戦に利用される可能性もあり、近い将来、安全保障上の理由から欧州諸国がこの件に関してアメリカとの協調と関係改善を迫られる場面も想定されます。もちろん、ロウハニ大統領の発言通りにイランが核開発を再開させれば、即、核合意の枠組は完全に消滅するのですが、何れにしましても、アメリカ抜きのイラン核合意の維持は、極めて困難なのではないかと推測するのです。

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アメリカのイラン核合意離脱が北朝鮮に与える影響とは?

2018年05月08日 15時28分25秒 | 国際政治
トランプ米大統領、イラン核合意巡る決定を8日発表
 トランプ米大統領のイラン核合意に関する決断を明日に控え、メディア等では、仮に同大統領が合意枠組から離脱した場合に北朝鮮に与える影響について取り沙汰されております。大半の予測はマイナス影響なのですが、果たしてこの予測は当たるのでしょうか。

 マイナス影響論の根拠は、タフな交渉にあって譲歩を重ねつつ、ようやく合意に漕ぎ着けたとしても、後から一方的に離脱されるのであれば、北朝鮮は、もはやアメリカという国を信用せず、交渉のテーブルに就こうとはしないであろう、というものです。つまり、イラン核合意からの離脱が米朝首脳会談を前にした悪しき前例となり、同会談を御破算にしかねないことを懸念しているのです。“合意の成立”のみを評価基準とするならば、こうした悲観的な見解も理解に難くはありません。

 しかしながら、評価基準を北朝鮮の“核放棄”に据えるとしますと、上記の見方は変わってきます。何故ならば、オバマ前政権が成立させた米・イラン核合意こそ、“イランの核放棄”を約束していないからです。同合意は、核開発の停止しか意味せず、2025年に設定されている期限が切れば、イランが核開発を再開させることは十分に予測されます。北朝鮮の核・ミサイル問題のケースでは、六か国協議の場を設けながら、結局は北朝鮮が途中で一方的に離脱し、核保有を宣言するに至りましたが、イラン核合意とは、まさにこれと同様の道を歩む可能性が極めて高いと言わざるを得ないのです。この経緯に照らせば、イラン核合意の悪しき前例こそ、北朝鮮による六か国協議からの離脱であったはずです。しかしながら、実際には、この前例を無視して“合意の成立”のみを優先させたため、中途半端な妥協によってイランに核開発の余地を残してしまいました。

 以上から想定し得ることは、仮に、トランプ米大統領がイラン核合意から離脱を決断した場合、北朝鮮は、イラン方式はもはや通用しない現実を思い知ることとなります。つまり、北朝鮮は、リビア式の“完全、検証可能かつ不可逆的な核廃棄(CVID)”か、あるいは、最終的には軍事制裁に至る会談決裂による制裁強化か、の二つに一つを選ばざるを得ない状況に追い込まれるのです。北朝鮮の核放棄という最終目的からしますと、合意からの離脱は北朝鮮に対する強力なる圧力となり、プラスの効果として評価されましょう。

 あるいは、トランプ大統領は、合意内容を修正すべく、イランとの再協議を公表するかもしれませんが、少なくとも、最初のイラン核合意の内容をそのまま維持するとは思えません。そして、アメリカの合意離脱を最も恐れているのは、もはや交渉に頼るしかなくなった北朝鮮なのではないかと推測するのです。一方的な‘離脱’行為をこれまで散々繰り返してきたのは北朝鮮ですので、皮肉な因果応報と言わざるを得ないのです。

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中国による一帯一路構想擁護論の詭弁

2018年05月07日 12時47分15秒 | 国際政治
一帯一路で官民協議会…日中、第三国で共同事業
 最近、頓に一帯一路構想に対する風当たりが強くなったためか、中国は、同構想の擁護に躍起になっているようです。本日も、日経ビジネスのオンライン版で「一帯一路は中国が世界に提供する公共財だ」と題する中国社会科学院アジア太平洋・グローバル戦略研究院院長である李向陽氏の論考が掲載されておりました。

 中国としては、学術的な立場からの擁護論であれば、国際社会からの批判をスマート、かつ、知的な高みから躱せると考えたのでしょう。しかしながら、この一文、読めば読むほど、その詭弁ぶりに唖然とさせられます。読者を迷路に誘い込んで自らが設けた出口からしか出られないようにする書き方は、中国の御用学者に共通した特徴です。

 さて、李院長によれば、国際社会に拡がっている「中国版マーシャル・プラン」、「新植民地主義」、「新時代の朝貢システム」といった批判的見解の多くは誤解であり、一帯一路構想とは、(1)開放性(特に開発途上国が参加…)(2)インフラ整備による相互連結(3)多元的協力メカニズム(相手国によって協力目的を変える…)(4)中核理念としての「義利観」、(5)運命共同体を特徴とする発展主導型の地域経済協力メカニズムなそうです。しかしながら、(2)のインフラ整備については、軍事的目的であれ、政治的目的であれ、一先ずは実態と一致しているとしても、(1)については中国のみを起点とし、かつ、先進国を暗に排除している点で閉鎖的ですし、中国市場の閉鎖性は米中貿易戦争の経緯からも明らかです。また、(3)に関しても、相手国によって協力分野を変えるのは凡そ全ての諸国に見られる経済戦略ですので、特に新奇性はありません。(4)と(5)に至っては、実質的に、中国による政治的介入を意味することにおいて、一帯一路警戒論をむしろ裏付けているのです。

 ここで、李委員長は、中国の経済外交の変遷に話を転じています。同氏は、一帯一路構想の発端が、自国内における東・南部沿岸地域と中・西部内陸地域との開放レベルの差に基づく後者の経済成長の遅れであったと説明し、同構想は、国内問題の解決のために発案されたと述べています。いわば沿線国の利益は二の次であったわけですが、この自国中心主義を解消すべく強調されたのが、2013年に中国指導部が開催した周辺外交活動座談会において習近平国家主席によって提示された周辺外交戦略の理念、「親・誠・恵・容」です(李院長は習主席に阿り、その功績として讃えたかったのでは…)。そして、これらの理念を実現するためにこそ、“新しいプラットフォーム”の構築が必要であると説明しているのです。理念を後付けするこの逆立ちした論理展開には、たとえ“中国の、中国による、中国のための構想”であっても、その理念が沿線国に受け入れられれば歓迎されるはず、とする傲慢な意識が窺えます。

正当化理念の登場によって、一帯一路構想は中国の経済戦略と外交政策が‘有機的’に結合した“経済外交のプラットフォーム”へと転じ、この点について氏は、「経済外交とは、簡潔に言えば、経済のための外交、あるいは外交のための経済…」と述べています。言い換えますと、政治が経済に優先し、「最終的に中国の平和的台頭と(中華)民族の復興に寄与する必要がある。」としているのです。ここでも、中国の露骨なまでの自国中心主義が表明されております。同構想は、“貿易のグローバル化と投資の自由化を促進する新しい手段”とも説明していますが、このメリットも、中国の輸出市場のグローバル大での拡大と人民元圏の形成と読み替えれば、徹頭徹尾、自国優先という意味では主張は一貫しています。

 ここまで読み進めると、上述した(4)や(5)の意味もおぼろげながら輪郭を表してきます。自由貿易主義の旗手を自認する中国自身でさえ、予定調和的にウィンウィン関係となる古典的な自由貿易理論を信じてはおらず、一帯一路にあっても、沿線国との間の貿易不均衡や貿易摩擦、並びに、運命共同体を名目とした中国による政治的介入に対する反発が起きることを想定しているのでしょう。オンライン記事のタイトルにも“最も重要なのは、正しい「義利観」に則って展開すること”とする副題が添えられていますが、「義利観」とは、こうした問題を解決する鍵として準備されているのです。

ところが、李院長に依ればこの用語の学術的な定説はないというのです。それでは、誰がどのように“正しい「義利観」”を判断するのかと申しますと、それは、‘政府’であるとしています(おそらく政府=中国政府=中国共産党=習近平国家主席では…)。李院長は、一帯一路構想の外部経済効果(中国以外の諸国の利益…)の重要性を説いていますが、それが沿線国に利益を分け与えること、即ち、中国が利益の配分権を握る事であれば、これぞ、まさに配分を主たる国家機能とする共産主義的体制に他なりません。

 以上に述べたように、李院長の論考は、一帯一路構想の成否と正当性を、‘正しい「義利観」’という概念を持ち出した時点で、自らの正体を暴露してしまった感があります。詭弁に満ちた一帯一路擁護論は、結局は、国際社会や沿線諸国の懸念を払拭するどころか、むしろ、中国の飽くなき野望に対する警戒心を高めることとなるのではないでしょうか。

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憲法第9条改正問題-自衛隊という表現への素朴な疑問

2018年05月06日 16時04分28秒 | 日本政治
 憲法第9条については改憲問題の核心にありながら、この条文をめぐる様々な問題点が取り上げられ、議論が十分に尽くされてきたとは言えない状況にあります。今般の自民党の改正案についても、自衛隊の合憲性が明記される点が強調されつつも、根本的な問題には踏み込んではいないように思われます。

 当初発表さえた自民党案での第9条の改正条文は、2項を削除した上で1項に2を設け、「…前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない。」と明記した上で、2項(二)として‘国防軍’に関する項を新設するというものでした。つまり、自衛隊の名称は‘国防軍’に変更されており、‘軍’の一文字を以って軍隊であることを明確にしているのです(さらに3項を設け、国の役割として領土等の保全を定めている…)。

 一方、今般の自民党の改正案では、2項の条文がそのまま維持された上で、…

「前条の規定は、我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置をとることを妨げず、そのための実力組織として、法律の定めるところにより、内閣の首長たる内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する。
2 自衛隊の行動は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。」

…とする9条の2が‘加憲’されています。この案では、自衛隊の名称がそのまま使われており、当初案より軍隊としての性格が薄められているのです。ところが、軍隊を持たない国は、ローマ教皇を元首とする宗教国家であるバチカン市国を除いて存在していません。しばしば軍隊の放棄を謳ったコスタリカ憲法が引き合いに出されますが、放棄しているのは常備軍のみであり、全米相互援助条約や攻防の目的のためには、軍隊を組織することが可能なのです(コスタリカ憲法第12条)。

 護憲派は、加憲案は日本国憲法上の原則禁止の例外規定を設けるようなものであり、自衛隊が実質的には制約なき軍隊と化すとして反対しておりますが、この主張こそ、戦後、日本国が置かれてきた国際社会における異常な地位を物語っております。何故ならば、軍隊不保持という憲法上の原則こそ、国際社会においては例外中の‘例外’であり、護憲派による加憲案の解釈に従えば、国際社会の原則が日本国憲法にあっては‘例外’であるからです。つまり、日本国と国際社会では軍隊に対する原則が真逆であり、第9条こそ、日本国の倒錯した軍隊意識を象徴しているのです。

 来るべき憲法改正では、日本国憲法を国際社会の原則に合わせるべきところが、自民党案ではこの捩じれを解消しておらず、このため、護憲派の回りくどい主張が示唆するように、同問題に起因する‘神学論争’は延々と続くことになりましょう。本来、‘自衛隊’という名称の適切さこそ最初に問われるべきであり、防衛軍であれ、日本軍であれ、軍隊という国際社会における当然の表記を憚る心情にこそ、戦後の政界に蔓延った正面から問題と対峙ようとしない‘事なかれ主義’、あるいは、’ダチョウの平和’的な思考停止が垣間見られるように思えるのです。

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日朝平壌宣言の罠-日本国が北朝鮮の核放棄を素直に歓迎できない理由

2018年05月05日 15時29分13秒 | 国際政治
北朝鮮核、拉致解決で協力 首相と主席が初電話会談
北朝鮮、並びに、その後ろ盾である中国は、北朝鮮の核・ミサイル問題を対米取引の材料にすべく、日本国政府にも積極的な働きかけを行っているようです。究極的な目的は、在韓米軍の撤退なのでしょうが、中国・北朝鮮、並びに、韓国が描く“朝鮮半島の非核化”のシナリオにおける日本国の役割とは、日朝平壌宣言の履行なのではないかと推測するのです。

 日朝平壌宣言とは、2002年9月17日に日本国の小泉純一郎首相と北朝鮮の金正日委員長との間で交わされた合意文書です。日本国内で出版されている『国際条約集』等にも収録されておりますが、その性格は限りなく‘密約’に近いものです。拉致被害者の方々の感動的な帰国と家族再会のシーンに隠れて影が薄く、国民一般に広く知られることはありませんでしたが、その内容は、今日読み返しても驚くぐらい日本国にとりまして不利なのです。

 第1に、その歴史観は村山談話を踏襲しており、「日本国側は、過去の植民地支配によって、朝鮮の人々に多大の損害と苦痛を与えたという歴史の事実を謙虚に受け止め、痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明した」とあります。史実は、韓国併合は併合条約に基づくものであり、また、朝鮮半島の人々を搾取するような過酷な植民地支配ではありませんでした。ところが、同宣言では、“歴史の事実”と言い切っており、朝鮮半島側の“歴史認識”をそのまま受け入れているのです。

 第2に、日本国民に是非を問うこともなく、相互放棄としながらも、第二次世界大戦に関連した日本国、並びに、日本国民の請求権を勝手に放棄しているのです。1910年から終戦に至るまでの日本国による朝鮮半島の統治が搾取型ではなかった‘事実’は、日本国からの財政移転を伴う巨額の投資額が証明しております。特に、戦前において工業地帯であった北朝鮮地域には水豊ダムなどインフラ施設が建設されましたし、また、民間企業が残した産業施設や日本人の個人資産も相当額に上ります。冷戦期に締結された日韓請求権協定では、同盟国であるアメリカへの配慮から請求権は相互放棄されましたが、北朝鮮に対しては、日本国側の官民の請求権は残されていたのです。仮に相互放棄するならば、請求権を有する法人を含む日本国民の了解を得るのが筋と言うものです。

 第3として指摘し得るのは、北朝鮮に対する経済支援の約束です。日韓請求権協定時における経済支援は、冷戦下において東側と対峙する韓国支援の意味合いがありましたが、ソ連棒崩壊後も独裁体制を維持し、“東側”に属する北朝鮮に対しては、その必要性はありません。北朝鮮に対する経済支援の根拠は、皆無に等しいにも拘らず、小泉元首相は、対北支援を当然のことのように宣言に書き込んでいるのです。

 以上に述べたように、2002年9月の小泉首相訪朝に伴う日朝平壌宣言では、然したる根拠もなく日本国側による一方的な対北経済支援が記されたのですが、翌2003年8月から、中国主導の下で六カ国会議が始まったことは注目に値します。このタイミングを考慮しますと、中国、並びに、北朝鮮は、1994年の米朝枠組み合意が破綻した直後から、核・ミサイル開発問題を先鋭化させてアメリカを交渉の場に引出し、米朝国交正常化の実現によって経済制裁を解除させて上で、北朝鮮を‘改革開放路線’に転じさせると共に、その資金は、日朝国交正常化に伴う日本国からの莫大な経済支援で賄おうとするシナリオを描いていたとする推測も成り立ちます(もっとも、中国が北朝鮮の非核化には積極的である一方で、北朝鮮は核放棄には消極的であったのでは…)。日朝平壌宣言は、いわば、凡そ20年も前から巧妙に仕組まれていた‘罠’とも考えられるのです。そして今日、中国が日本国への接近を強めている様子からしますと、上記のシナリオに日本国を引き込み、平壌宣言を履行させることで、資金提供国にさせようとしているのではないか、とする疑いが湧いてきます。

同宣言は‘密約’的な色彩が濃く、北朝鮮側が違反行為を繰り返している以上、既に死文化しております。日本国政府には、同宣言を履行する法的義務はないのですから、ゆめゆめ、‘罠’に嵌ってはならないと思うのです。

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問題山積の日本国憲法第9条-交戦権を‘認めない’のは‘誰’?

2018年05月04日 14時37分27秒 | 日本政治
安倍晋三首相「いよいよ改憲に取り組むとき」 自衛隊明記で「正統性が明確化される」
 昨日、5月3日は、現行の日本国憲法が公布された日として祝日に指定されております。しかしながら、第二次世界大戦後の占領期に制定されたため、日本国憲法が抱えている問題は深刻です。

 憲法改正に際して最も焦点となるのが憲法第9条である理由は、その文言が、日本国の国際社会における地位までも左右するからです。占領期にあって、GHQが作成した草案に基づいて制定された日本国憲法は、敗戦国に対する軍備縮小といった戦勝国による制裁的な内容が含まれております。憲法第9条は、平和憲法の礎として評価される一方で、国際社会における独立主権国家としての権限については極めて制約的であったと言うことができます。

 そして、第一に問題点として指摘し得ることは、第9条2項末における「…国の交戦権は、これを認めない」という一文です。英文では、“The right of belligerency of the state will not be recognized.”と表現されており、受動態の一文となります。邦文であれ、英文であれ、この文章には、“誰が”という行為主体が明記されておりません。言い換えますと、憲法において日本国の交戦権を認めないていないのは‘誰’であるのか、判然としないのです。

 GHQが主導した憲法制定過程を考慮して素直に読めば、交戦権を認めていないのは、戦勝国である連合国と解されます。敗戦の結果として、日本国の交戦権は戦勝国によって否認されたこととなるのです。降伏後、戦争法の下で敗戦国が軍事行政下に置かれるのは国際社会の慣例であり、日本国もまた例外ではありませんでした。しばしば、日本国憲法の制定は国際法に反しているとする議論も、「陸戦ノ法規慣例二関スル規則」第四三条が定める‘占領地の法律の尊重’に違反しているとする主張に基づきます。もっとも、日本国政府はポツダム宣言を受け入れておりましたし、当時にあっては戦勝国が国際法に基づいて裁かれることなどつゆとも考えられておりませんでしたので、現時点にあって、その違法性を問うことは困難であるかもしれません。

 占領期における軍事行政は当然としても、講和条約が成立しますと、敗戦国は、独立主権国家の地位を回復します。この点からすれば、サンフランシスコ講和条約が発効した時点で、敗戦国の地位に起因する憲法上の文言は削除されるべきこととなります。第9条2項の交戦権の否認こそ、実のところ、真っ先に修正されるべき個所であったのかもしれません。

 もちろん、この“誰”については、日本国、あるいは、日本国民とする解釈もあり得ます。しかしながら、同じく第9条2項の戦力については“これを保持しない”とする能動態で表現しており、日本国の自発性が読み取れますが、交戦権については、敢えて外部の承認者の存在を示唆する受動態で記されていることには、それなりの意味合いがあったと推測せざるを得ないのです。

 憲法第9条については、兎角に戦争放棄の範囲や自衛隊の合憲性などに議論が集中しがちですが、交戦権に関する表現こそ、実のところ、第9条問題の根の深さを示しております。明治期の日本外交は不平等条約の改正に心血を注ぎましたが、サンフランシスコ講和条約の発効からゆうに半世紀を超えたにも拘わらず、未だに敗戦国の地位を憲法に残すことは、自ら日本国の地位を貶める行為であり、国際社会に対しても無責任ではないかと思うのです。

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憲法改正気運の減退-自民党案も一因では?

2018年05月03日 14時10分31秒 | 日本政治
 世論調査というものは、その質問の設定によって一定の方向への誘導が可能である上に、データ操作によって必ずしも正確に世論を反映しているとも限らないのですが、憲法記念日を迎えるに当たって、憲法改正に関する世論調査を実施した新聞社も少なくないようです。日経新聞の一面にも調査結果が掲載されていましたが、同結果を見ますと奇妙な傾向が読み取れます。

 この奇妙な傾向とは、2012年4月の時点では、憲法改正派が50%に対して現状維持派が30%程の比率であったものの、2014年4月の調査を機にこの比率が逆転しており、現在では、現状維持派が優勢なままさらにその差が開きつつあることです。日本国を取り巻く国際情勢を見ますと、最早鋭い牙を隠さなくなった中国の軍拡著しく、北朝鮮危機も緊迫の度合いを強めております。2012年の時点と比較しますと、今日の方が余程差し迫った安全保障上の危機にあるとも言えます。ところが、世論調査の結果は、現状維持派の方が増加しており、改憲勢力が国会の3分の2以上を占めながら、憲法改正の気運は減退の方向あるのです。

 特に注目すべきは、2017年の調査にあって一旦上昇しかけた憲法改正支持派が、一年後の今年には反転して再度低落している点です。この一年こそ、上述した国際情勢の悪化に見舞われた時期であり、国家安全保障上の危機感の高まりは、憲法改正の追い風にはなっていないのです(北朝鮮の暴発により、日本国も同国の攻撃対象となるリスクは高い…)。その理由を探ってみますと、あり得る要因の一つとして挙げられるのが、自民党の改正案です。同改正案は、追記による自衛隊の合憲性の明記においては現行の第9条の曖昧さを解消しておりますが、軍隊の不保持や交戦権の否認を記した第2項の文言を残しており(一体、誰が、日本国の交戦権を‘認めない’のであろうか…)、占領期にあって敗戦国に科せられた‘ハンディキャップ’を踏襲しています。国際社会における‘一人前’の独立主権国家であることを自ら放棄しており、保守層からは、“かくも中途半端な改正であれば改正しない方がまし”との意見も聞かれるのです。

 無党派層でも現状維持派は52%に達していますが、このことは、自民党案が、保守化傾向が指摘されている一般国民の間からも支持を受けていない現実を示唆しています。否、国民の多くは、公明党を含む国内左派反日勢力のみならず、中国や韓国等の顔色を窺うような自民党の憲法改正案には落胆しているのではないでしょうか。制定から70余年を経て憲法改正のチャンスが巡っては来たものの、それを主権平等を原則とする国際社会における日本国の名実ともの’敗戦国’からの脱却、並びに、正常化に活かせない政界こそ、今日の日本国が抱える最大の問題なのかもしれません。

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北朝鮮の体制保障要求は無理では?

2018年05月02日 14時03分57秒 | 国際政治
 北朝鮮の核・ミサイル問題については、同国は、非核化の取引条件としてアメリカに対して金正恩体制の保障を求めるとする指摘があります。アメリカもまた、しばしば体制転換を求めない、とする立場を表明しておりますが、北朝鮮の体制保障とは、一体、何を意味するのでしょうか。

 北朝鮮の国家体制とは、1948年9月9日にソ連邦が“抗日の英雄”として指名した“金日成将軍”なる人物を首班として建国された独裁国家であり、後ろ盾となったソ連邦と同様に共産主義を基調としながらも、金一族による世襲体制が敷かれています。同国の正式名称は、朝鮮民主主義人民共和国ですがその実体は真逆であり、民主的制度も殆ど皆無な上に、人民は独裁者の手足であり、共和政でもありません。世界広しと雖もこれほど欺瞞に満ちた倒錯した国家も珍しく、‘地上の楽園’どころか、恐怖政治の下にある国民にとりましては‘地獄’と言っても過言ではありません。楽園に住めるのは独裁者唯一人なのです。

 北朝鮮という国が、過酷な国民弾圧と人権侵害が横行する体制を強権を以って維持している点を考慮しますと、その体制保障自体が自ずと倫理上の問題を提起します。かつて、国際法の父と呼ばれたヒューゴ・グロチウスは、国民弾圧国家に対する人道的介入を正しい戦争と見なしましたが、独裁者に国民が苦しめられている国に対しては、諸外国は‘見て見ぬふりをすべきか、否か’という深刻な問題を投げかけるのです。

 こうした倫理上の問題に加えて、北朝鮮の体制保障には、民主主義の観点からの問題も無視できません。それは、北朝鮮国民が金一族独裁体制に反旗を翻し、体制崩壊を望んだ場合の対応です。核・ミサイル問題に関しては、同国は、リビアの前例から見てアメリカの体制保障に対しては懐疑的であると常々指摘されています。リビアの独裁者カダフィ氏は、核放棄の見返りに体制を保障されたものの、結局、国民の側からの‘アラブの春’を契機に内戦状態に至り、体制崩壊に至ったからです。

 しかしながら、リビアの体制崩壊に至る一連の動きは、アメリカが直接に引き起こしたわけではありません。独裁体制に対する国民の反カダフィの機運と国内事情が直接の原因であり、体制を維持し得なかった根本的な理由はカダフィ氏自身の統治の失敗にあります。仮に、この状況下にあって‘リビアの体制を確実に保障する’となりますと、アメリカは、リビア国内の民主化勢力を弾圧するという‘暴挙’に出なければならなくなります。19世紀初頭、ナポレオン体制崩壊後あって、ヨーロッパでは“ヨーロッパ協調”とも称されたウィーン体制が成立しましたが、この際に締結された神聖同盟では、ロシアは、‘平和’の美名の下で自由化や民主化を求める他国の反政府運動を潰すべく、軍事介入しています。自由と民主主義の旗手であったアメリカが、北朝鮮の体制保障のためにこの種の介入、即ち、北朝鮮国民の自発的な民主化運動を、武力を以ってしてでも弾圧するとは、到底考えられません。

 しかも、北朝鮮が自主独立を謳うならば、体制の保障という言葉自体が前者と矛盾しています。自主独立ならば、北朝鮮の国制は同国自身が決めることであり、他国から保障してもらうものではないからです。このように考えますと、‘体制の保障’が、未来永劫にわたる完全なる独裁体制=金王朝の保障という意味であるならば、北朝鮮の要求は、やはり無理なお話なのではないかと思うのです。

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