「―正直に、いっていい?」
「ん?」
「ほんの少し気配を感じたような気がした、、、けれど、たぶん、“かつて居た”ということだと思う」
「なにが?」
「そうやって毎日、仏壇に線香をあげているんでしょう」
「まあね」
「その効果で、出ていっちゃったんだよ」
ここまで話して、やっとのことで合点がいった。
自宅に招待したN子は「見えるひと」だったんだ、すっかり忘れていた。
N子は2年前に知り合った同年代の女子で、ここがかつてワケアリと呼ばれる物件であったことを伝えていなかった。
引っ越した当初は「敢えてネタ」にすることも多かったが、
家賃軽減期間を既に終了しており、
また、実害? みたいなことが一切なかったことから、住んでいる自分自身もワケアリ部屋であったことを忘れていたのだった。
「―どういうひとが居たか、なんとなく見えたりするもの?」
「顔とか服装は、分かんない。でも、あたしより年上の女性ということは分かる」
「へぇ。どう? イヤな霊かな?」
「・・・そうではないと思うよ。少なくとも、まっき~にとっては。なんの現象も、なかったでしょう」
「うん、そうだけど、なんで分かった?」
「なんとなく」
「かつて居たってことはだよ、なにかの理由があって出ていったわけだ」
「そう」
「オナニーのし過ぎかな」
「(笑う)なんで?」
「いや、コイツは何回やるんだと頭抱えて、阿呆の伝染を避けるために出ていったとか」
「ありえるかも」
「(笑う)」
しかしシックス・センスのあるひとはたいへんだ。
N子はしょっちゅう見るひとで、そのために車の運転を控えるくらい。見ると身体が固まってしまうので、危険なのだそうだ。
ちょっとは見てみたい気もするが、N子の苦労を思うと、見えないほうが幸福なのだろうなと。
入居時、お祓いだけはしてもらった。
あとは自家製仏壇に手を合わせ、線香をあげる程度。
それで、退散してしまうものなのだね。
高齢者が多いというのも要因のひとつか、この団地、しょっちゅう救急車が止まる。
孤独死もあるだろうし、自死もあるだろうし、心中もあるのだろう。
2Kの間取りだから、夫婦プラス子がひとり、、、というケースが最も多いはず。
次いで夫婦、4~5人家族、最も少ないのが自分のような単身者である。
地顔がヘラヘラしているとはいえ、
坊主な髭野郎、
ときどき、いや訂正、ほぼ毎日AVの音声が部屋から漏れ聞こえてくるようなチューネンなわけで、出来るかぎり関わらないほうがいい、、、とされても不思議ではない。
しかも最上階の5階に住むということは、ポックリ逝っても気づかれない可能性は充分に高い。
だから―というわけではないが、来春の自治会役員を務めることになった。
先週のことである。
自転車駐車場で新車のメンテナンスをしていると、同じ棟に住む「おしゃべり好き」の主婦に声をかけられた。
「あなた、ほんとうに自転車が好きなのねぇ」
「えぇ、好きというのもありますけれど、自分、免許ないんでね。足といえば、これになるんですよ。大事に使わないと、いざというときに困りますから」
「上まで自転車持っていくようにしたでしょう?」
「もう盗られるの、勘弁してほしいですもの」
「自転車がある日は、在宅っていうこと?」
「そうともかぎらないですね。これ、特殊なタイヤで雨に弱いんです。だから晴天時しか、これには乗りません」
「家に居るときのほうが、多い?」
「・・・まぁ、そうかもしれないですね。ふつうとはいえない仕事、ですから」
「あなた、役員やってみる気はない?」
「あっ、前から疑問に思ってたんですよ。棟でぐるぐる回していくわけですよね」
「そう」
「自分、もう5年くらい住んでいるのにいちどもやったことないし、既に○さんとかは2度目だなぁって」
「そう!」
「ひょっとしたら単身者だし、アンちゃんといえるぎりぎりの年齢かもしれないし、気を使ってもらっていたのかなって」
「そう!!」
「(苦笑)やっぱり、そうでしたか。やりますよ」
「ほんとう? 助かるわ~」
すっとぼけても大丈夫っぽいが、かつて家賃も特例、さらに自治会ルールでも特例―というのでは、トラブルの種になりかねないし、ポックリ逝ったときに気にかけてもらえないかもしれない、、、って、逝く可能性や不安が「そんなに」高いのかって?
否。
とりあえず健康そのものだし、
ベタな返しだが、「逝く」ではなく「イク」なら毎日のことである。
まぁしかし呑み過ぎであり、
煙草を吸っている以上、癌になる可能性だって高く、
偏食傾向にあり、
病的な射精回数を誇? る・・・
それでなくともなにが起こるか分からない世の中だ、
とりあえず仏壇に手を合わせ線香をあげ、
「かーちゃん、こんなキチガイに育ってごめんなさい。誰も気づいてくれないかもしれないので、なにかあったら助けてください」
と、祈っておいた。
※トップ画像は、『シャイニング』(80)の双子。
こちらの動画は、日本のホラー映画『女優霊』(96)の予告編。
これ、ほんとうに怖かった。
…………………………………………
本館『「はったり」で、いこうぜ!!』
前ブログのコラムを完全保存『macky’s hole』
…………………………………………
明日のコラムは・・・
『カウパー激情・劇場(1)』
「ん?」
「ほんの少し気配を感じたような気がした、、、けれど、たぶん、“かつて居た”ということだと思う」
「なにが?」
「そうやって毎日、仏壇に線香をあげているんでしょう」
「まあね」
「その効果で、出ていっちゃったんだよ」
ここまで話して、やっとのことで合点がいった。
自宅に招待したN子は「見えるひと」だったんだ、すっかり忘れていた。
N子は2年前に知り合った同年代の女子で、ここがかつてワケアリと呼ばれる物件であったことを伝えていなかった。
引っ越した当初は「敢えてネタ」にすることも多かったが、
家賃軽減期間を既に終了しており、
また、実害? みたいなことが一切なかったことから、住んでいる自分自身もワケアリ部屋であったことを忘れていたのだった。
「―どういうひとが居たか、なんとなく見えたりするもの?」
「顔とか服装は、分かんない。でも、あたしより年上の女性ということは分かる」
「へぇ。どう? イヤな霊かな?」
「・・・そうではないと思うよ。少なくとも、まっき~にとっては。なんの現象も、なかったでしょう」
「うん、そうだけど、なんで分かった?」
「なんとなく」
「かつて居たってことはだよ、なにかの理由があって出ていったわけだ」
「そう」
「オナニーのし過ぎかな」
「(笑う)なんで?」
「いや、コイツは何回やるんだと頭抱えて、阿呆の伝染を避けるために出ていったとか」
「ありえるかも」
「(笑う)」
しかしシックス・センスのあるひとはたいへんだ。
N子はしょっちゅう見るひとで、そのために車の運転を控えるくらい。見ると身体が固まってしまうので、危険なのだそうだ。
ちょっとは見てみたい気もするが、N子の苦労を思うと、見えないほうが幸福なのだろうなと。
入居時、お祓いだけはしてもらった。
あとは自家製仏壇に手を合わせ、線香をあげる程度。
それで、退散してしまうものなのだね。
高齢者が多いというのも要因のひとつか、この団地、しょっちゅう救急車が止まる。
孤独死もあるだろうし、自死もあるだろうし、心中もあるのだろう。
2Kの間取りだから、夫婦プラス子がひとり、、、というケースが最も多いはず。
次いで夫婦、4~5人家族、最も少ないのが自分のような単身者である。
地顔がヘラヘラしているとはいえ、
坊主な髭野郎、
ときどき、いや訂正、ほぼ毎日AVの音声が部屋から漏れ聞こえてくるようなチューネンなわけで、出来るかぎり関わらないほうがいい、、、とされても不思議ではない。
しかも最上階の5階に住むということは、ポックリ逝っても気づかれない可能性は充分に高い。
だから―というわけではないが、来春の自治会役員を務めることになった。
先週のことである。
自転車駐車場で新車のメンテナンスをしていると、同じ棟に住む「おしゃべり好き」の主婦に声をかけられた。
「あなた、ほんとうに自転車が好きなのねぇ」
「えぇ、好きというのもありますけれど、自分、免許ないんでね。足といえば、これになるんですよ。大事に使わないと、いざというときに困りますから」
「上まで自転車持っていくようにしたでしょう?」
「もう盗られるの、勘弁してほしいですもの」
「自転車がある日は、在宅っていうこと?」
「そうともかぎらないですね。これ、特殊なタイヤで雨に弱いんです。だから晴天時しか、これには乗りません」
「家に居るときのほうが、多い?」
「・・・まぁ、そうかもしれないですね。ふつうとはいえない仕事、ですから」
「あなた、役員やってみる気はない?」
「あっ、前から疑問に思ってたんですよ。棟でぐるぐる回していくわけですよね」
「そう」
「自分、もう5年くらい住んでいるのにいちどもやったことないし、既に○さんとかは2度目だなぁって」
「そう!」
「ひょっとしたら単身者だし、アンちゃんといえるぎりぎりの年齢かもしれないし、気を使ってもらっていたのかなって」
「そう!!」
「(苦笑)やっぱり、そうでしたか。やりますよ」
「ほんとう? 助かるわ~」
すっとぼけても大丈夫っぽいが、かつて家賃も特例、さらに自治会ルールでも特例―というのでは、トラブルの種になりかねないし、ポックリ逝ったときに気にかけてもらえないかもしれない、、、って、逝く可能性や不安が「そんなに」高いのかって?
否。
とりあえず健康そのものだし、
ベタな返しだが、「逝く」ではなく「イク」なら毎日のことである。
まぁしかし呑み過ぎであり、
煙草を吸っている以上、癌になる可能性だって高く、
偏食傾向にあり、
病的な射精回数を誇? る・・・
それでなくともなにが起こるか分からない世の中だ、
とりあえず仏壇に手を合わせ線香をあげ、
「かーちゃん、こんなキチガイに育ってごめんなさい。誰も気づいてくれないかもしれないので、なにかあったら助けてください」
と、祈っておいた。
※トップ画像は、『シャイニング』(80)の双子。
こちらの動画は、日本のホラー映画『女優霊』(96)の予告編。
これ、ほんとうに怖かった。
…………………………………………
本館『「はったり」で、いこうぜ!!』
前ブログのコラムを完全保存『macky’s hole』
…………………………………………
明日のコラムは・・・
『カウパー激情・劇場(1)』