<14年度総括、第12弾>
前日のつづき、本年度の映画ベスト20の発表。
では、いくぜ!!
※13年12月~14年11月に日本で劇場公開された映画を対象とする
第10位『それでも夜は明ける』
自由を謳歌していた黒人の音楽家が、ある日突然「奴隷」となる―オスカー作品賞に輝いたこの作品は、観客にその「過酷さ」「不条理さ」を追体験させるように演出された「ある種の」シチュエーション・ムービーである。
CG表現が可能にした「360度の回転カメラワーク」で描かれるムチ打ち刑の「痛み」も凄まじいが、
支配する側にありながら、支配される側の女に愛情を抱いてしまう白人の複雑な感情までも繊細に描き、ひじょうに奥の深い社会派劇として完成されている。
第09位『誰よりも狙われた男』
急逝した名優、フィリップ・シーモア・ホフマンの遺作。
スパイ小説の雄、ジョン・ル・カレによる同名小説を「忠実に」映画化、
現代でスパイ物をやれば「こういう物語にならざるを得ない」と誰もが納得するであろう展開を用意し、なんともやるせない、苦味120の結末で幕を閉じる。
ヒーローは居ない。
胸がすく思いもしない。
だがこの後味、映画としては、極上のものである。
第08位『紙の月』
公開されたばかりの話題作であり、時期的に来年度のランキングに入れるべきだが、あまりにも素晴らしいので「思わず」本年度に組み込んでしまった吉田大八の力作。
平凡な主婦が「いとも簡単に」堕ちていくさまをスリリングにクールに、ときに情熱的に描き、三面記事の主人公たちが「私たちと、なんら変わりがない」ことを教えてくれて出色。
宮沢りえが映画賞を独占するであろう熱演を披露、今後、吉田監督に熱烈「逆」オファーをする女優が続出することだろう。
また、要領のいい行員を演じた大島優子がじつに活き活きとしており、ひじょうに新鮮だった。
関係ないが、前田あっちゃん、負けるな!! なんて思った。
第07位『めぐり逢わせのお弁当』
弁当「宅配サービス」で、滅多に起こらない「誤配」が生じたことから始まる、男と女の繊細な物語。
インド映画なのに歌も踊りもマサラもない―監督のリテーシュ・バトラは35歳、この若さで小津を愛し、日本の名匠の映画をひたすら研究していたという。
なるほど、新鮮でありつつ懐かしさも感じたのは、小津的なスパイスによるものか!
ヒロインに忠告を発し続ける「一切画面には登場しない」おばさんも味わい深く、繰り返すが若い監督なのに映画を知り尽くしているなぁ、、、と感心してばかりの100分だった。
第06位『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』
男の名は、ルーウィン・デイヴィス。
ギターと猫を抱え、流浪の日々を送るフォーク・シンガー。
実力はあるのに「不器用がゆえに」評価されることのない男の日常を、コーエン兄弟がペーソスたっぷりに描く。
モデルはデイヴ・ヴァン・ロンクで、音楽通のあいだでも「知るひとぞ、知る」存在だという。
しかし彼の名を知らなくとも、ボブ・ディランの音楽が分かれば、きっとこの映画を好きになるだろう。
本作はカンヌで第二席にあたるグランプリに輝いたが、画面を往来し「完璧な」演技を披露する猫さんにも、トロフィーのかけらをプレゼントしたいと思った。
第06位『ゼロ・グラビティ』
宇宙空間に、ひとりぼっち―『2001年』で最もおそろしかった「あのシーン」を90分に拡大したような物語であり、久し振りに、映画館で体感しなくては「まったく意味がない」映画が誕生した!! という喜びを噛み締めた。
オスカーでは技術賞のほかに監督賞を受賞、これはすごく分かる。
大金を用意しなくても宇宙体験が出来る臨場感を生んだのはテクノロジーだが、それらをまとめあげるには明確なビジョンが必要だったはず。
キュアロン監督には、それが見えていたのだ。
※どうしても20作品に収まらなかったので、6位のみ2作品を選出した
第05位『ニンフォマニアック』
1部・2部の合計は240分、それだけの時間をかけて、自称「色情狂」の女ジョーの半生を描く「サディスト」ラース・フォン・トリアーの野心的傑作。
ウィキペディアによると、トリアーによる「鬱三部作」の最終作なんだそうである笑
知ったことではないが、セックスは真面目に哲学すればするほど滑稽になる―それを証明した点で、『ラストタンゴ・イン・パリ』や『アイズ ワイド シャット』を「軽々と」超えたと思う。
おおいに脱帽、そして、ハダカで喘ぎまくる「すべての」俳優陣に最敬礼を!!
第04位『クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん』
思う存分、笑って泣いて。泣いて笑って、あぁ気持ちいい。
はっきりいう。
『アナ雪』を1度観るより『クレしん』を2度3度観たほうが価値がある。
偏見や絵柄からのイメージで敬遠するならそれもよし、しかし、ジブリやディズニーだけがアニメーションの世界の勝者ではない、この映画にはそのことを証明するパワーと愛が詰まっている。
でもまぁ・・・自分自身も、この映画がこんなにも上位であることに驚いてはいるのだが笑
第03位『ウルフ・オブ・ウォールストリート』
スコセッシ×レオのコンビ、5作目にしてやっと歩調があった。
クレイジーな株式ブローカー、ジョーダン・ベルフォート。
彼が逮捕されるまでの激動の十数年を、90年の傑作『グッドフェローズ』タッチで描く。
レオが楽しそうにジャンキーを演じているのも素晴らしいが、70歳にしてこんなにアッパーな映画を撮ってしまうスコセッシに脱帽。
そして来年、10年以上前から企画されていた『沈黙』が完成する。
この映画を観るまでは、とりあえず死ねない。
第02位『愛の渦』
男は20000円、女は1000円。そして、カップルでの参加は5000円。
マンションの一室に集まった男女8人の目的はただひとつ、セックス―。
ニートの青年と地味な女子大生の組み合わせを中心に、フリーターやサラリーマン、OLや保育士らが「性欲がある」ことを前提として一晩を過ごす。
だが乱交パーティを描く映画とはいっても、過剰にエロを期待してはならない。
トリアーの『ニンフォマニアック』と同様、エロを通して浮かび上がる人間模様は滑稽で、滑稽で、そして滑稽なんだ。
ひたすら滑稽―でも、いや、だからこそ愛すべき人間たち。
この映画は、ちょっぴり変化球の人間賛歌なのである。
第01位『そこのみにて光輝く』
ここで生きていく。だって、それしかないのだもの―。
しかし諦念ばかりではない、救済の微光も感じつつ。いや、それを信じつつ。
地方都市を舞台とする、「もう若くはない」男女の物語。
無頼の綾野剛、倦怠の池脇千鶴。
たぶん20年前であれば、これは東京を舞台にして撮られた映画だと思う。
ひとの業を描くのに、東京ほど適切な場所はないと20世紀は信じられていた。
しかし時代は変わった。
世の中をしっかりと見つめる鬼才たちによって『悪人』や『サウダーヂ』、『サイタマノラッパー』が誕生した。
この、本年の最大の収穫となった傑作に触れて、痛感させられたのが「東京で映画を撮る必要性・必然性が消えかかっている」という、おそろしい現実であった。
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本館『「はったり」で、いこうぜ!!』
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明日のコラムは・・・
『光と影の世界、ここで死にたい その参』
前日のつづき、本年度の映画ベスト20の発表。
では、いくぜ!!
※13年12月~14年11月に日本で劇場公開された映画を対象とする
第10位『それでも夜は明ける』
自由を謳歌していた黒人の音楽家が、ある日突然「奴隷」となる―オスカー作品賞に輝いたこの作品は、観客にその「過酷さ」「不条理さ」を追体験させるように演出された「ある種の」シチュエーション・ムービーである。
CG表現が可能にした「360度の回転カメラワーク」で描かれるムチ打ち刑の「痛み」も凄まじいが、
支配する側にありながら、支配される側の女に愛情を抱いてしまう白人の複雑な感情までも繊細に描き、ひじょうに奥の深い社会派劇として完成されている。
第09位『誰よりも狙われた男』
急逝した名優、フィリップ・シーモア・ホフマンの遺作。
スパイ小説の雄、ジョン・ル・カレによる同名小説を「忠実に」映画化、
現代でスパイ物をやれば「こういう物語にならざるを得ない」と誰もが納得するであろう展開を用意し、なんともやるせない、苦味120の結末で幕を閉じる。
ヒーローは居ない。
胸がすく思いもしない。
だがこの後味、映画としては、極上のものである。
第08位『紙の月』
公開されたばかりの話題作であり、時期的に来年度のランキングに入れるべきだが、あまりにも素晴らしいので「思わず」本年度に組み込んでしまった吉田大八の力作。
平凡な主婦が「いとも簡単に」堕ちていくさまをスリリングにクールに、ときに情熱的に描き、三面記事の主人公たちが「私たちと、なんら変わりがない」ことを教えてくれて出色。
宮沢りえが映画賞を独占するであろう熱演を披露、今後、吉田監督に熱烈「逆」オファーをする女優が続出することだろう。
また、要領のいい行員を演じた大島優子がじつに活き活きとしており、ひじょうに新鮮だった。
関係ないが、前田あっちゃん、負けるな!! なんて思った。
第07位『めぐり逢わせのお弁当』
弁当「宅配サービス」で、滅多に起こらない「誤配」が生じたことから始まる、男と女の繊細な物語。
インド映画なのに歌も踊りもマサラもない―監督のリテーシュ・バトラは35歳、この若さで小津を愛し、日本の名匠の映画をひたすら研究していたという。
なるほど、新鮮でありつつ懐かしさも感じたのは、小津的なスパイスによるものか!
ヒロインに忠告を発し続ける「一切画面には登場しない」おばさんも味わい深く、繰り返すが若い監督なのに映画を知り尽くしているなぁ、、、と感心してばかりの100分だった。
第06位『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』
男の名は、ルーウィン・デイヴィス。
ギターと猫を抱え、流浪の日々を送るフォーク・シンガー。
実力はあるのに「不器用がゆえに」評価されることのない男の日常を、コーエン兄弟がペーソスたっぷりに描く。
モデルはデイヴ・ヴァン・ロンクで、音楽通のあいだでも「知るひとぞ、知る」存在だという。
しかし彼の名を知らなくとも、ボブ・ディランの音楽が分かれば、きっとこの映画を好きになるだろう。
本作はカンヌで第二席にあたるグランプリに輝いたが、画面を往来し「完璧な」演技を披露する猫さんにも、トロフィーのかけらをプレゼントしたいと思った。
第06位『ゼロ・グラビティ』
宇宙空間に、ひとりぼっち―『2001年』で最もおそろしかった「あのシーン」を90分に拡大したような物語であり、久し振りに、映画館で体感しなくては「まったく意味がない」映画が誕生した!! という喜びを噛み締めた。
オスカーでは技術賞のほかに監督賞を受賞、これはすごく分かる。
大金を用意しなくても宇宙体験が出来る臨場感を生んだのはテクノロジーだが、それらをまとめあげるには明確なビジョンが必要だったはず。
キュアロン監督には、それが見えていたのだ。
※どうしても20作品に収まらなかったので、6位のみ2作品を選出した
第05位『ニンフォマニアック』
1部・2部の合計は240分、それだけの時間をかけて、自称「色情狂」の女ジョーの半生を描く「サディスト」ラース・フォン・トリアーの野心的傑作。
ウィキペディアによると、トリアーによる「鬱三部作」の最終作なんだそうである笑
知ったことではないが、セックスは真面目に哲学すればするほど滑稽になる―それを証明した点で、『ラストタンゴ・イン・パリ』や『アイズ ワイド シャット』を「軽々と」超えたと思う。
おおいに脱帽、そして、ハダカで喘ぎまくる「すべての」俳優陣に最敬礼を!!
第04位『クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん』
思う存分、笑って泣いて。泣いて笑って、あぁ気持ちいい。
はっきりいう。
『アナ雪』を1度観るより『クレしん』を2度3度観たほうが価値がある。
偏見や絵柄からのイメージで敬遠するならそれもよし、しかし、ジブリやディズニーだけがアニメーションの世界の勝者ではない、この映画にはそのことを証明するパワーと愛が詰まっている。
でもまぁ・・・自分自身も、この映画がこんなにも上位であることに驚いてはいるのだが笑
第03位『ウルフ・オブ・ウォールストリート』
スコセッシ×レオのコンビ、5作目にしてやっと歩調があった。
クレイジーな株式ブローカー、ジョーダン・ベルフォート。
彼が逮捕されるまでの激動の十数年を、90年の傑作『グッドフェローズ』タッチで描く。
レオが楽しそうにジャンキーを演じているのも素晴らしいが、70歳にしてこんなにアッパーな映画を撮ってしまうスコセッシに脱帽。
そして来年、10年以上前から企画されていた『沈黙』が完成する。
この映画を観るまでは、とりあえず死ねない。
第02位『愛の渦』
男は20000円、女は1000円。そして、カップルでの参加は5000円。
マンションの一室に集まった男女8人の目的はただひとつ、セックス―。
ニートの青年と地味な女子大生の組み合わせを中心に、フリーターやサラリーマン、OLや保育士らが「性欲がある」ことを前提として一晩を過ごす。
だが乱交パーティを描く映画とはいっても、過剰にエロを期待してはならない。
トリアーの『ニンフォマニアック』と同様、エロを通して浮かび上がる人間模様は滑稽で、滑稽で、そして滑稽なんだ。
ひたすら滑稽―でも、いや、だからこそ愛すべき人間たち。
この映画は、ちょっぴり変化球の人間賛歌なのである。
第01位『そこのみにて光輝く』
ここで生きていく。だって、それしかないのだもの―。
しかし諦念ばかりではない、救済の微光も感じつつ。いや、それを信じつつ。
地方都市を舞台とする、「もう若くはない」男女の物語。
無頼の綾野剛、倦怠の池脇千鶴。
たぶん20年前であれば、これは東京を舞台にして撮られた映画だと思う。
ひとの業を描くのに、東京ほど適切な場所はないと20世紀は信じられていた。
しかし時代は変わった。
世の中をしっかりと見つめる鬼才たちによって『悪人』や『サウダーヂ』、『サイタマノラッパー』が誕生した。
この、本年の最大の収穫となった傑作に触れて、痛感させられたのが「東京で映画を撮る必要性・必然性が消えかかっている」という、おそろしい現実であった。
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本館『「はったり」で、いこうぜ!!』
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明日のコラムは・・・
『光と影の世界、ここで死にたい その参』