先日の、とある夕刻のこと―。
取材から帰還、5階の自宅(団地)まで階段でチャリを運ぼうとすると、ちょうど階段を上り始めた新聞配達員の後ろ姿が見えた。
何階まで届けるのか知らんが、団地特有の狭い階段だからねぇ、このひとが下りてくるまで待つことに決める。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
ん?
おかしいな、いっこうに下りてこない。
たぶん、いつも見るおじいちゃんだろう。
見た感じ、70歳くらい。
そりゃあ時間を要するわな、急かしたら死んじゃうかもしれん、煙草でも吸ってゆっくり待とうじゃないか。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
それにしたって、遅過ぎやしないか?
最上階まで行ったとしても、自分が住む5階である。
もう5分くらい過ぎているし、ひょっとしたらほんとうに死んでいる?
自分、第一発見者になるの!?
いやいや、ちょっと待て。
父親が自分のところを訪れたときのことを思い出してみろ。
駅から自宅に案内する際、近道だからと「ちょっと険しい道」を通った。
男なんだから大丈夫でしょ? と。
しかし父親は、道中で2度も足を止めて休んだのである。
えっ。
うちのとーちゃんでも、こんな感じになるのかと軽くショックを受けた。
でも、そうだよな。
スコセッシと同年の70代なんだから当然のこと、そもそも40代の自分が「険しい」と感じるのだから、父親には堪えたろう。
ごめんなさい。
・・・とかなんとか、煙草吸いながら考えていたらば、ようやくおじいちゃんが下りてきた。
見た感じは70歳くらい―と書いたが、ほんとうのところは分からない。
自分がこの団地に住み始めた10年くらい前から見かけるひとだったが、当時から70代顔だったわけで、
だからひょっとすると老けている50代かもしれないし、童顔?? の90代かもしれない。
ともかくいえることは、ごくろうさまです! くらいだろう。
しかしこのひと、配達の様子はスローペース過ぎて(気の毒になり)見ていられないが、口は達者なひとである。
この日も自分を見るなり、挨拶なしでマシンガントークが始まる。
「―紙が売れなくなったねぇ。だけど配達がちっともラクにならないのは、どういうことかねぇ。部数減っているんだから、ラクになってもいいのに。でも夏の時期よりいいよ。冬は、動けば動くほど寒さが和らぐからね。夏はね、もうダメ。ゆっくり動いても、汗が滝のように流れてくる。ここもあと2階分くらい増えればね。きっとエレベーターつくんだけど」
「ですよね、ごくろうさまです」
「(聞いてない)イチローどこに移籍するんだろう」
「あぁ気になりますね、やっぱりマーリンズですかね」
「(聞いてない)逸ノ城はバケモノだね」
「そうですね、嫌いな食べ物はカレーだそうですよ」
「(聞いてない)俺は安倍晋三のことが大嫌いなの」
「自分もです。どうも信用出来ない」
「(聞いてない)まだ、あと3棟も残っているんだよ配達場所が」
「たいへんですね、ほんとう、ごくろうさまです」
「(聞いてない)さあて、行くか」
まったく会話が成り立っていないのだが、このひとがそれであと3棟を頑張って配達出来るのであれば、聞き役に徹しようじゃないの。
なにしろ、アンチャンなら数分で終わるところを、このひとは数十分を要して配っているのだから。
敬老、敬老の精神だよね。
がんばれおじいちゃん!!
※団地を舞台にした映画で最も優れているのは、おそらく『みなさん、さようなら』(2013)だろう。
…………………………………………
本館『「はったり」で、いこうぜ!!』
…………………………………………
明日のコラムは・・・
『初体験 リッジモント・ハイ(110)』
取材から帰還、5階の自宅(団地)まで階段でチャリを運ぼうとすると、ちょうど階段を上り始めた新聞配達員の後ろ姿が見えた。
何階まで届けるのか知らんが、団地特有の狭い階段だからねぇ、このひとが下りてくるまで待つことに決める。
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ん?
おかしいな、いっこうに下りてこない。
たぶん、いつも見るおじいちゃんだろう。
見た感じ、70歳くらい。
そりゃあ時間を要するわな、急かしたら死んじゃうかもしれん、煙草でも吸ってゆっくり待とうじゃないか。
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それにしたって、遅過ぎやしないか?
最上階まで行ったとしても、自分が住む5階である。
もう5分くらい過ぎているし、ひょっとしたらほんとうに死んでいる?
自分、第一発見者になるの!?
いやいや、ちょっと待て。
父親が自分のところを訪れたときのことを思い出してみろ。
駅から自宅に案内する際、近道だからと「ちょっと険しい道」を通った。
男なんだから大丈夫でしょ? と。
しかし父親は、道中で2度も足を止めて休んだのである。
えっ。
うちのとーちゃんでも、こんな感じになるのかと軽くショックを受けた。
でも、そうだよな。
スコセッシと同年の70代なんだから当然のこと、そもそも40代の自分が「険しい」と感じるのだから、父親には堪えたろう。
ごめんなさい。
・・・とかなんとか、煙草吸いながら考えていたらば、ようやくおじいちゃんが下りてきた。
見た感じは70歳くらい―と書いたが、ほんとうのところは分からない。
自分がこの団地に住み始めた10年くらい前から見かけるひとだったが、当時から70代顔だったわけで、
だからひょっとすると老けている50代かもしれないし、童顔?? の90代かもしれない。
ともかくいえることは、ごくろうさまです! くらいだろう。
しかしこのひと、配達の様子はスローペース過ぎて(気の毒になり)見ていられないが、口は達者なひとである。
この日も自分を見るなり、挨拶なしでマシンガントークが始まる。
「―紙が売れなくなったねぇ。だけど配達がちっともラクにならないのは、どういうことかねぇ。部数減っているんだから、ラクになってもいいのに。でも夏の時期よりいいよ。冬は、動けば動くほど寒さが和らぐからね。夏はね、もうダメ。ゆっくり動いても、汗が滝のように流れてくる。ここもあと2階分くらい増えればね。きっとエレベーターつくんだけど」
「ですよね、ごくろうさまです」
「(聞いてない)イチローどこに移籍するんだろう」
「あぁ気になりますね、やっぱりマーリンズですかね」
「(聞いてない)逸ノ城はバケモノだね」
「そうですね、嫌いな食べ物はカレーだそうですよ」
「(聞いてない)俺は安倍晋三のことが大嫌いなの」
「自分もです。どうも信用出来ない」
「(聞いてない)まだ、あと3棟も残っているんだよ配達場所が」
「たいへんですね、ほんとう、ごくろうさまです」
「(聞いてない)さあて、行くか」
まったく会話が成り立っていないのだが、このひとがそれであと3棟を頑張って配達出来るのであれば、聞き役に徹しようじゃないの。
なにしろ、アンチャンなら数分で終わるところを、このひとは数十分を要して配っているのだから。
敬老、敬老の精神だよね。
がんばれおじいちゃん!!
※団地を舞台にした映画で最も優れているのは、おそらく『みなさん、さようなら』(2013)だろう。
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本館『「はったり」で、いこうぜ!!』
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明日のコラムは・・・
『初体験 リッジモント・ハイ(110)』