たそがれオヤジのクタクタ山ある記

主に北関東の山を方向音痴で歩いています。山行計画の参考にされても責任は負いかねます。深慮せず軽く読み流してください。

旭岳の南尾根は超ド級の激ヤブだった。

2010年11月07日 | 近所じゃない栃木県の山
◎2010年11月6日(土)

<甲子トンネル駐車地(6:55)……甲子山(8:04)……新旧登山道分岐(8:20)……旭岳(9:20)……登山道復帰(10:53)……-坊主沼(11:03)……分岐(11:37)……甲子山(11:48)……駐車地(12:50)>

 「オッサンの山旅」のオッサンさんが先日、旭岳(甲子旭岳・赤崩山)に行かれていた。これに触発されて、自分も後追いしてみることにした。この山、以前、ぶなじろうさんのブログで、雪山の雄姿を写真で拝見し、その立派な山容に見惚れ、以来、いつかは登ってみたいと思っていた山だ。もっとも、その時は、旭岳そのものの存在すら知らず、遠望する旭岳は「朝日岳」の誤記じゃないかといった程度の認識だった。今日は甲子山も経由する。甲子山は大分前から知ってはいたが、最近まで「きのえね山」とばかり思っていた。甲子温泉だけはなぜか正当な読みで覚えていた。

 4時半に家を出て、白河ICで下りる。途中、甲子温泉では、「紅葉まつり」の幟がいくつも立っていた。紅葉は下に来ており、道路沿いもかなり色づいている。甲子トンネルの手前の駐車地に車を置く。大黒屋のところに置くつもりでいたが、入り口を見過ごしてしまった。トンネル前の両サイドに駐車スペースはあった。片方には「関係者以外駐車禁止・監視カメラ有り」と記されていたので、公衆電話ボックスのある方に置いた。ここならいいだろう。紅葉見物なのか、7時前なのに、車の通行量がやけに多い。山を歩くのは今のところ自分だけ。歩き出して間もなく大黒屋方面からの道に合流。雪解けか雨の後らしく、道は濡れていて、落ち葉が堆積している。このあたりの紅葉も盛りのようだが、鮮やかな黄と赤が目に付かない。大分、焼けている。やがて四十八曲り。数えはしなかったが、それほどもないだろう。雪がところどころにある。行ったり来たりのちょっと退屈な道。車のエンジン音がしばらく聞こえる。左手、樹間に旭岳が顔を出す。白くなっている。昨日、軽アイゼンを持って行った方がいいかなと思ってはいたが、そのまま失念してしまった。無理なようなら、戻ればいい。今日は、旭岳の後は、大白森山まで足を伸ばすつもりでいるから、雪でダメなら、小白森山も考えてみるか。だったら、甲子峠まで車で入れば良かったかも。目に付く山で、白くなっているのは旭岳だけ。

(甲子山頂から旭岳)


 時間も早いせいか、甲子山にはだれもいなかった。正面に旭岳。どうもイメージが違う。確かに威圧感はあるが、均整のとれた格好はしていない。見る角度にもよるだろうが、少なくともここからでは無骨な山の形をしている。天気もある程度はいいから、南会津と那須の山々の眺望が良い。表示盤に記された日光の山は見えない。甲子峠に3台の車が見える。ここでスパッツを付ける。旭岳は雪がかなりありそうだ。途中で戻るにしても、行くだけは行ってみよう。まずは下る。そして、新道と旧道の分岐。案内板を見ると、新道は東寄りで旧道は西寄り・旭岳寄りになっていて、新道には、途中、「水飲み場」というポイントがある。旧道は旭岳山頂越えのルートかなと思っていたが、旭岳を結んではいない。旧道方面にそのまま直進してみた。ところが、数分もすると「水呑場」という標示があった。新旧のわけが分からなくなった。ただ、旭岳は目の前にあるのだから、そのまま、選択しようのない踏み跡を直進する。さらに分岐があるようにも見えなかった。

(これではロープがないと下れない)

(甲子山)

(山頂はもうすぐ)

(そして旭岳山頂)

(流石山方面)

(三本槍岳)


 事前の情報ではヤブめいているらしいが、たいしたヤブではない。雪道になってしまっているが、ルートはしっかりと確認できるし、両側のササですら、膝程度だ。この先、だれも歩いていない。雪は新雪という感じではなく、水気がかなり含んでいる。数日前に降った名残だろう。次第に急になる。これまで、甲子山も、むしろ楽な歩きだったから、ようやく本格的な登りが始まった。上に行くに連れ、雪の量は多くなり、10cmくらいまでになる。しかし、心配したほどのこともなく、ずるずると滑ることもない。やがて、甲子山の高さを超える。数か所、土がむき出しでロープが備わっているところや、左が切れたところもあったが、風もない穏やかな状況では、危険はさほど感じなかった。ただ、下りでは嫌なところだ。意外にあっさりと山頂に着いた。狭い山頂。しばらく景色を楽しむ。西側の裾野の紅葉がピークのようだ。山頂からは、これまで見えなかった流石山方面の山並みが見えた。ということは、流石山を歩いた際、好天ならば、堂々とした旭岳の姿を目にできたということか。

(ここから見る限りおとなしい尾根なのだが)


 さて、このまま同じルートを慎重に下ってもいいのだが、せっかくだから、反対側の南尾根を下りてみたい。ただ、事前に調べたところ、オッサンさんを含め、この山に登ったほとんどの方が往復同ルートで歩いている。反対側に下りた記事は皆無だった。何か問題でもあるのだろうか。その理由は歩いてすぐに分かった。南尾根へ踏み出した跡はあるが、すぐに消えた。とはいっても、すぐに始まるシャクナゲのヤブの下にそれなりの踏み跡はあった。しばらくは我慢してみる。しかし、シャクナゲの背はどんどん高くなり、枝振りのいいハイマツが仲間に加わる。ハイマツには霧氷がへばり付いている。太い枝に足がとられる。ちっとも先に進まない。足が地に着かず、さながら、巨木に登って、枝の間をずっとさまよっている感じ。ただ、もう少し先はヤブが落ち着き、普通の快適な尾根歩きが待っているようにも見える。ところが、「その先」もまた、獰猛なヤブが続いていた。戻った方がいいんじゃないかと、山頂を振り返ると、かなり下ってしまっている。これでは戻れそうにもない。もう後には引けなくなってしまった。尾根型はしっかりと見えるから、そのまま強引に下るしかあるまい。やがて、左下に避難小屋と坊主沼を間近に見下ろせるようになる。このまま、東の坊主沼に直下した方が無難と思い、向きを変えてみたが、歩行は困難、段差もあり、一歩足を進めると、がくんと身体が沈む。仕方なくまた四苦八苦して戻り、そのまま尾根伝いに下る。相変わらず悪戦苦闘の連続でちっとも進まない。たまに、下に踏み跡らしい窪みがヤブの下を通っているのを見かける。

(ヤブの中)


 ようやく、シャクナゲとハイマツが終わったと思ったら、今度はササ地獄になった。始末が悪く、背丈を超え、幹が太いのが密集している。倒木も加わって、これまで以上に進まない。見えるのは空だけ。かなりやばい状況になってしまった。たまに、見える地形を確認して地図を広げたいところだが、そんな余裕もスペースもない。記憶の地形図では、そろそろ南東に行きたいところだが、三本槍岳に向かう尾根よりも西側に外れつつあるようだ。何とか、目標の坊主沼を確認したいが、動きが自由にとれない。高みに出ても見えない。とうとう木に登って確認した。やはり、西側にずれていた。やがて、ヤブの中に続く窪みを見つけた。何とか辿ってみようと試みたが、うまく進まないし、無理すれば、転んでばかり。その窪みですら、倒木にぶつかるとその先が消えている。絶叫したくなる。方向を強引に南東に変える。ササの間にはびこったツルが行く手を止める。そのうち、視界が何だか変だなと思っていたら、メガネが飛んでしまっていた。目の前しか見えないから、気づくのも遅れた。当然、探しようもない。鈴やレンズキャップのようにあっさりともいかないが、あきらめた。このところ杖を持参する歩きはしていないが、本当に今日は持ってこなくて正解だった。持っていたら、ひっかかってさらに進まず、杖も捨てたろう。

(坊主沼)


 散々、転び続けて足を打った後、ほんの少し先にピンクのテープを見つけた。下りで初めて出会った目印。メガネがないから、葉の色かなと思ったが、近づくと確かにテープ。瞬間、まさにスポッと、登山道に出た。心底からほっとした。なぜか、白隠禅師の座禅和讃の句が瞬時に浮かんだ。「三昧無げの空広く、四智円明の月冴えん。この時何をか求むべき、寂滅現前する故に、当所即ち蓮華国、此の身即ち仏なり」。変な話だが、座禅和讃の句が好きで、頭に残っている。とんでもないヤブから解放され、辛苦の末に仏様に出会ったような気分になっていたのだろう。しばらく、ボーっとしていたら、カサカサと音が聞こえる。三本槍岳の方から単独氏が上がって来た。人に触れてさらにほっとしたのか、いきなり、立ちくらみがして、2mほど、下に転がってしまった。単独氏は、突然、目の前に人がいて、さらに、転んだからびっくりしただろう。「驚かして済みません」と丁重にお詫びした。その単独氏は避難小屋に向かって歩いて行った。全身ずぶ濡れの状態だ。靴はガボガボ。さらに、ヤブでもがいている間に、右足の向こうずねを激打したようだ。腫れている。無性に痛い。顔も目も痛い。しばらく、どこかで腰をおろして休みたいが、雪混じりで濡れている。立って休むしかない。考えてみれば、この時、避難小屋で休めば良かっただけのことだが、まだ気が動転していて、そんな考えすら浮かぶ気持ちの余裕はなかった。改めて旭岳を見上げる。坊主沼に落ちる斜面はヤブ薄だ。急でもない。南尾根にはさっさと見切りをつけて、一気に沼に下れば良かったかもしれないな。

 もう、大白森山に行ってみようなんて気はさらさらなくなっていた。このまま、もう帰ろう。幾分、落ち着いたら、今度はメガネのことが気になった。また転ぶのも嫌だから、予備メガネをザックから出してかける。ただ、これはあくまでも予備だからサングラスだ。ないよりはマシ。結局、例の単独氏ともまた会うことなく、甲子山に着いた。6人ほどいた。ここも山頂は狭いし、腰をおろせるところもないので、素通り。甲子峠には、もう10台近い車が駐まっているようだ。

 ちょっと下って乾いた地べたに座ってようやく休む。考えてみれば、オッサンさんが、あの方らしからぬ、やけにあっさりした往復同コースをとったのも頷ける。事前に分かっていれば無謀だったかもしれない。しかしながら、あの激ヤブは、これまでの体験にないものだった。足尾の山でもあれほどまではなかったし、高薙山のヤブも、あれではむしろ大人しく感じる。コースとして存在しないルートなのだから、密ヤブになっていても当たり前のことだ。二度とご免だ。大金を積まれても行かない。残雪期なら、何とか歩けるかもしれないが。

(下の紅葉)


 下に戻るにつれ、朝は気づかなかった紅葉が目の保養になる。紅葉見物で、下りにはかなり時間がかかってしまった。ようやく駐車地に到着。クラクションの音が騒がしい。地元ナンバーのベンツが半身を道路にはみ出して止まっていた。あまりに不自然な駐め方なのでよく見ると、ガードレールに激突していて、動けなくなっている。無理に駐禁エリアに入れようとしたためだろう。反対側だったら、こちらの車が出せない始末になっていた。風呂に入って帰りたかったが、渋滞に巻き込まれたくもなかったので、そのまま帰った。実際の所、身体は濡れはしたが、汗はかかなかった。むしろ、神経が相当に参ってしまった。

※帰宅後に改めて南尾根を調べてみたが、ほとんどがスキーとか残雪期の利用で、「避難小屋で、オジサンに会った。その方は南尾根を下りて来たが、にっちもさっちもいかなくなり、強引に坊主沼に下ってきたと言っていた」という記事を見ただけだった。窪みがあるくらいだったから、以前は歩かれていたのだろうが、おそらくは整備もされず、廃道となったのであろう。

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12 コメント

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お疲れ様でした。 (オッサン)
2010-11-07 17:59:43
甲子山から旭岳拝見しました。
積雪があり驚きました。随分積もっていたんですね。旭岳まで積雪をものともせず無難にこなしていたたそがれさんに敬服します。オッサンなら積雪を見たら甲子山で引き返したと思います。さらに南尾根を下降したのには驚きました。超激薮で往生した様子が紀行文から良く伝わってきました。それにしても旭岳登頂お疲れ様でした。
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お疲れさまでした。その2 (ハイトス)
2010-11-07 18:55:47
拝見しました。
今回うなずきながら読んでいる箇所が多く、臨場感タップリの文章に一気に読んでしまいましたよ。
特に一端下ってしまうと例え密藪だったとしても登り返さない気持ちはうんとよくわかります。
どことも判別着かない場所で一人ボッチで途方に暮れる・・一度だけですが経験があります。
まさにお疲れさまと云うしかないです。
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オッサンさん (たそがれオヤジ)
2010-11-07 19:47:06
早速ありがとうございます。
積雪とはいっても、たいしたもんじゃありませんよ。融けかかっていたし、凍ってもいませんでしたから。
激ヤブに無理に入り込んだのもそれなりのワケがありまして、雪もあったし、上りルートを下るのにはちょっとためらいもあったのです。
いずれにしても、尾根型がはっきりしていて幸いでした。
オッサンさんの後追いを続けさせていただきますよ。
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ハイトスさん (たそがれオヤジ)
2010-11-07 19:52:49
こんにちは。
私の場合、山で途方に暮れるのは一度ならず、頻繁です。むしろ、毎回ですね。根本山でも途方に暮れていました。方向音痴が根底にありますから、致し方のないことです。
今回は、好きこのんでヤブ漕ぎをしたわけではなく、自然にそうなったというだけのことですが、最初から分かっていたら入り込みもしませんでした。
本当に、しばらくはヤブ入りは意識的に避けますよ。
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Unknown (ぶなじろう)
2010-11-07 22:13:27
今晩は。
大変な目に会いましたね。メガネの予備を持っているとはさすがです。立眩みでコケタとなれば、相当のものだったのでしょう。
私も随分昔に坊主沼の方から登って見ました。当時は旧道のみ。取り付き付近には踏み跡が感じられましたが、すぐに猛烈な藪となり、撃退されました。何年か前に(ブログを始めた頃)甲子山側から登りました。行きはヨイヨイ、帰りは怖い。余りの急な下りに参りました。アザミを掴んだりして。でも藪が無い分かなりマシでした。私も旭岳には二度と行きません。眺める山であると心底思いました。
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ぶなじろうさん (たそがれオヤジ)
2010-11-07 22:39:05
その当時のブログ記事を改めて拝見いたしました。やはり、あの上りルートを、また下りに使うのは嫌ですよね。あれで、風があれば、下れませんよ。
旭岳に登られたほとんどの方が、下りでも四苦八苦しているようですね。
旭岳という山は、眺める山ですね。どうも、登るほどの山でもなかったような気もします。ただ、最近、私のアイドルになりつつある流石山周辺の山並みを見下ろせる位置にあることが、何とも贅沢な感じはしました。
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Unknown (風花爺さん)
2010-11-08 07:13:18
私はその前日、三本槍から旭岳を見ていました。
そして、来シーズンには何とか登ってみたいものだ、と思いました。
ところがコメントなども拝見すると、相当な覚悟が必要だなと感じました。
ユルユル考えて決めます。
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風花爺さんさん (たそがれオヤジ)
2010-11-08 08:39:17
お早うございます。
普通のコースに「覚悟」はいりませんよ。南尾根の下りだけ「覚悟」が必要です。
切り立った尾根を歩くとか、ガレ場が続くといったものでもありません。ゆっくり登り、慎重に下れば、問題なく歩けます。
そうですか。前日、三本槍にいらしたのですか。旭岳から見えた三本槍も、なかなか威圧的な姿をしていましたよ。旭岳から臨む姿が一番いいかもしれませんね。
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南尾根の藪地獄を見てみたいです (ノラ)
2011-08-17 10:03:30
たそがれおやじさん 始めまして。ノラといいます。旭岳の南尾根記事を遅まきながら読ませていただきました。いやーご苦労様でした。臨場感たっぷりの記事で自分の経験と比較して思わず納得,にやにやです,素晴らしい文章です。なかなか強烈な藪のようですね。藪地獄というのは,忘れたころにまた行きたくなる気持ちがかすかに湧いてくる不思議な世界です。おそらく私なら随分降ってしまったもう戻るのは嫌だと考えられたところで戻ってます。眼鏡も無くされたようですが,藪の中で眼鏡を探した事がある私にはよくわかります。たそがれさんは予備の眼鏡を持っていらっしゃるようで藪に入る準備は十分とお見受けしました。私は眼鏡を探して以来,眼鏡バンドを藪に入る前には付けるようにしてます。
それから日留ゲ岳でアブに逢われてますが,その後は痒さは止まりましたでしょうか?1周間はとれませんから。最近蠅たたきを購入しました。ホームセンターで130\でした。まだアブ地獄にそれ以来遭っていないので効果のほどは確認していません。良い記録をありがとうございます。
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ノラ様 (たそがれオヤジ)
2011-08-17 12:47:12
ノラ様のご高名はかねがね…。ブログもお気に入りに登録させていただいております。コメントをお入れいただき光栄です。お目汚しに、たまにはよろしく願います。

ヤブ歩きの件、確かに、しばらく休んでいると、うずうずしてきますね。そして、歩くと、しばらくはやめておこうと。この繰り返しですよね。今のところ、冷えて来たら、温泉ヶ岳から金田峠に分け入ってみようかなと思案中です。

アブの件、ありがとうございます。完治までまる一週間かかりました。刺され跡はまだ残っています。熱帯夜続きで、寝ながら本能で掻いていますから、しばらくは消えないでしょう。

こんな記録でもお役に立てればうれしい限りです。
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