それでも、
あなたは私を、愛せるか?
おはようございます。
通院の回数を重ねるたび、チャー坊は私の眼を見なくなった。
チャー坊が私を見る眼差しは、いつだって柔らかな春の日射しのようだ。
いや違う。
春の日射しの中で、愛おしい人を見つめる眼差しだ。
私は、その眼差しを失い、狼狽えた。
それまでだって、じゅうぶん狼狽えていた。
彼と出会ってから、私はずっと狼狽えていたのだ。
ぎょっとしてしまうほどボロボロの野良猫だった彼にも、
次から次へと、あらゆる症状で体調を崩す彼にも、
狼狽えながら、奔走していた。
けれど、彼が私を見なくなったと気付いた時、
私はもっとも狼狽え、それと同時に、
一瞬、世界が真っ暗になって、時が止まった気がした。
それは、瞬きの速度だった。
次に瞼を開けた時、
私が彼と出会って以来、過ごしてきた時間の体感速度の変化を感じた。
目まぐるしくグルグル回っていた時計の針が、ゆったりと動き始める。
そんな気がした。
「よし、チャー坊。もう病院へ行くのは、やめよう。」
あれ以来、私はチャー坊を病院へ連れて行かなくなった。
その代わりに、獣医さんに来てもらうようになったかんね~。
チャー坊、ごめんよ~。
そんな訳で、
うんこの最期を診て頂いた往診専門の獣医さんに、
チャー坊もお願いすることになったのだ。
さっそく、第1回目の診察、私はこれまでの治療内容を
表にまとめて獣医に渡し、笑顔で説明をする中、
本来は和やかなはずの獣医は、クスリとも笑わない。
非常に厳しい面持ちだった。
私は、あれ?っと思った。
可愛いエリカラのことも、愛らしいチャー坊のことも、
「可愛いですね。」と言ってくれない。
その代わりに、
「皮膚も、かなり薄くなってますね。
脱毛は、真菌のせいというより、ステロイドの影響が大きい。
この量のステロイドを飲まないと保てない状態ということなのですね。」
その時、私は改めて彼を眺めてみた。
どう見たって、可愛い猫じゃない。
出会った時、ぎょっとした時の彼より、ぎょっとする見た目になっている。
私は無意識に、
「本当に、良い子でね。本当に、性格の良い子なんです。」
と、まるでいい訳のように必死でチャー坊を褒めていた。
「優しいですね。」
そう呟く獣医の心境が、その時の私には全く酌めなかった。
いいさ、いいよね、チャー坊。
これから、獣医さんをいっぱい、笑かしてやろうよ。
私とチャー坊なら、できるよ。
いや、私とチャー坊と、ボケたババァなら、最強さ。
相変わらず、気の合うババァとチャー坊。
昨夜は、お刺身もらって、爆食いしたな~。
チャー坊?
ひとつ、分かったことがある。
私は、その眼差しを、守りたいということ。