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われもまた落葉のうえに寝ころびて
羅漢の群に入りぬべきかな 吉井 勇
9月6日、TYさんに誘われて、石峰寺(せきほうじ)を訪ねました。
石峰寺は、江戸時代中期の画家・伊藤若冲(1716-1800)が晩年草庵を
むすんだ寺で、裏山に下絵を描いたという五百羅漢と若冲の墓があります。
禅境を好んだという若冲は、寛政12年9月10日に85歳の生涯を閉じました。
9月10日の若冲忌に合わせ、石峰寺所蔵の絵が特別展示されていたのです。
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京阪「深草」駅から約5分、伏見街道から少し逸れた山側に
百丈山石峰寺はありました。
汗をぬぐいながら少し上ると、眼下に伏見や鳥羽の街並みが広がります。
山門にある扁額が読めず、お尋ねすると、「高着眼」とあり、
黄檗宗・禅道場として建立された寺なので、山門をくぐる心得を示したとか。
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野趣豊かな石峰寺境内
絵の展示は約10枚、全て水墨画です。
鶏画が3枚あり、記された年齢が違いますが、しっかりとした筆の運びで、
水墨画を勉強中の主人を連れて来れば・・・と思いました。
毎年、同じテーマで正月に描いたのでしょうか、
最後の時まで絵筆をにぎっていた若冲の姿が浮かんでくるようです。
鶏の他にも大津絵の藤娘、意味不明の禅画、寒山拾得図などがあり、
なかでも最小限の筆で書かれたような、素朴な寒山拾得図と大幻賛の漢詩が
若冲の胸中をあらわしているようで、心に響きました。
寒山巌畔居
猶有空花落
三子倦掃除
坐来雲寂寞
(読み下し)
寒山巌畔居 猶 空花(くうげ)の落つる有り
三子掃除に倦み 坐し来たれば雲寂寞(せきばく)
(訳・・・石峰寺パンフより)
寒山の隠棲する巌のほとりにあっても猶、花が咲いては落ちるように
すべてのものが移ろっていく。
寒山拾得と豊干禅師の三人は掃除にも疲れて、座り込んでしまえば
空の雲も寂しく流れていく。
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石峰寺本堂
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本堂と若冲の墓にお詣りし、裏山へ。
裏山の五百羅漢は風化がすすみ、当初より数も少なっていますが、
仏世の霊境をこの世に表したいと若冲が願った通り、今なお健在で、
釈迦誕生から涅槃にいたる過程や、天上の霊界が菩薩や羅漢を配置して
具現されています。
五百羅漢の趣きや表情は今まで見たどの五百羅漢より親しみと柔かさがあり、
朽ち果てていく石仏はこの世の条理を語っているようでもあります。
思わず亡き母の面影を探していたら・・・
一体、それらしき羅漢と逢えて、嬉しく安堵しました・・・
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もう一つ、最近発見された(?)、マリア観音を刻んだ切支丹墓があり、
興味を惹きました。
こちらは写真を掲載しておきます(画と五百羅漢は撮影禁止)。
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マリア観音を刻んだ切支丹墓
春・八重桜の頃と若冲忌に行われる「特別展」の時がお勧めです。
石峰寺 京都市伏見区深草石峰寺山町26
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