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(つづき)
懐石後に再び茶室へ戻って頂き、初炭です。
風炉の茶事では後座の濃茶の時に煮えがつくように火相を調えることが一番難しく、失敗した経験も多いです。
それで、席入りの2時間前に風炉へ下火を入れ、席入り直前に炭を足しておきました。
こうすると、初炭の時には風炉全体がしっかり温まっていますので、濃茶ではしっかり煮えがつき、美味しい濃茶を差し上げられます。
香合は桐絵埋木、道場宗廣作です。
5月5日と言えば、京都・上賀茂神社では賀茂競馬(くらべうま)が行われます。
馬場のゴール近くに大きな桐の木があり、その頃にうす紫色の花をいっぱいつけていて、舞楽装束を着けた乗尻(のりじり、騎手)がその下を駆け抜けていくシーンを思い出しながら・・・香合を選びました。
主菓子「唐衣(からごろも)」(打出庵大黒屋製)をお出しし、腰掛待合へ中立をお願いしました。
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「唐衣」 紫のグラーデーションが絶妙です。お味も・・・
床の中釘に花を荘り、銅鑼を5点打って後入りのご案内です。
後入りから水屋を手伝って下さったFさん(五葉会メンバー)に四客としてお入り頂きました。
花は「定家蔓」(ていかかずら)、花入は火吹き竹です。
能「定家」に由来する花で、式子内親王を秘かに慕い続けていた藤原定家の執心が葛となって、式子内親王の墓にからみついて離れず・・・という凄まじいお話がありますが、清楚で上品な風情の花です。
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「定家蔓」 (茶事後なので水揚げが今一つですが・・・) (季節の花300)
茶道口で衣擦れが止み座が静まるのを、茶碗を前に置き呼吸を整えて待つひと時・・・無心の境地で襖を開けました。
畳と足袋が奏でる音とリズムを頭のどこかで他人事のように聞きながら点前座に座ります。
内心、茶碗を持ってちゃんと点前座に座れたことにホッと安堵しながら・・・。
茶入と茶碗を置き合せ、建水を持ち出し、総礼です。
帛紗を四方捌きする間、自らの呼吸の間合いを確かめるように帛紗を清め、
心を調え、茶入を清めていきます。
お客さまの息遣いまで感じられ、主客一体となるかけがえのない時間です・・・。
濃茶を茶碗に入れると、その瞬間に馥郁とした茶香が漂ってきました。
湯相も好く、水を足し湯を汲み、5人分の濃茶を一心に練り上げお出ししました。
濃茶は松花の昔、小山園詰です。
茶碗はやや大ぶりの魚屋(ととや)茶碗(韓国・山清窯 ミン・ヨンギ造)、古帛紗は早雲寺文台裂でした。
初風炉なので、後炭、薄茶と基本通りに続きます。
後炭手前まで何とか頑張りましたが、薄茶点前は半東Kさんにお願いしました。
薄茶の2碗は信楽焼、鵬志堂イサム造です。
京都在住のだるま氏にお願いして手に入れた茶碗、今回やっと茶事で初使いです。
一碗目の銘「皎月」・・・白い月を思わせることから名付けたのでしょうか。だるま氏が命名してくださいました。
二碗目は銘「長谷」・・・赤味を帯びた土色に牡丹文があるので、長谷寺を連想して命名しました。
干菓子は「杜鵑煎餅」と「青楓」、こちらも打出庵大黒屋製です。
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半東Kさんの点てる薄茶を楽しんで頂きながら、日頃親しく御交誼頂いているお客さまとの貴重なひと時が過ぎていきました。
・・・皆さま、楽しく初風炉の一会を過ごすことができ、ありがとうございました。
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初風炉の茶事を楽しんで・・・その1へ戻る