新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

我が国の技術力の水準は非常に高いのだ

2024-04-02 08:17:02 | コラム
日本酒とワイン用の紙パックを創り出して見せた:

今回は我が国の高度な紙類の印刷加工の技術が、アメリカで創造され広く普及し、1960年代に我が国に導入された牛乳用の紙パックと、その高度な応用編である日本酒やワイン用の紙パック製造の歴史を回顧してみると共に、我が国の技術力の高さも紹介しておこうと思う。

余り広く知られてはいないと危惧するが、牛乳やジュース用の紙パックの原紙は、このパックが1960年代にアメリカから導入されて以来、未だに国産ではないのだ。世界最高の技術水準を誇る我が国で生産されていないとは奇異に感じられるだろうが、それはひとえに経済性の問題で、我が国の需要の規模では内製化は採算が取れないのだ。

しかも、その紙容器用の原紙を製造する原料には、我が国には多くは生えていない針葉樹の強靱にして長く太めの繊維を主力にせねばならないので、北アメリカと北欧から輸入に依存せねばならないのだ。このような木材繊維を原料にしないと、液体を充填しても長持ちする強い容器にはならないのである。

それ程強靱であれば、紙パックがアルコール飲料ようの重たいガラス瓶の代替の容器に活用できるのではないかと、アメリカでも紙パックを製造している大手製紙会社は挑戦してきた。だが、商業生産に成功した例がなかった。その為かアメリカでは「紙パックにアルコール飲料を充填するのは無理だ」というのが定説になっていた。

原紙のメーカーは紙にアルコールが浸みこまないようにと、ラミネートするバリヤーのポリエチレン等のフィルムに工夫を凝らしたが、浸透を防ぎきれなかった。それは、如何に対策を講じても「アルコールは急速に紙に浸透するので、紙が柔らかになるし外に漏れ出してしまうこと」を防ぎきれなかったから。但し、紙にアルコールを浸透させない紙加工の技術は理論的に開発されていたのだが、現場には導入されていなかった。

しかしながら、アメリカを凌駕する技術的水準の高さを誇る我が国の代表的な凸版印刷の技術陣は、パックの原紙にアルコールが浸透しないような容器を開発し、上記のアルコールが浸透しないようにする特殊な加工技術で難関を克服して、日本酒とワイン用の紙パックを製造して市販を開始した。しかも数年後にはアメリカの高級板紙メーカーのWestvaco(当時)にライセンスまで降ろしてアメリカ市場にワインの紙パックで逆上陸を果たした。

紙パックにアルコールが浸透しない加工法は(文中で説明するのはほぼ不可能だと思うのだが)繊細な紙加工技術があり、印刷加工機の工程に一段階加えれば大量生産を可能にするのだった。この技法の名称が「スカイブ」であることが示すように、アメリカ原産でありながら、実現させたのは我が国の凸版印刷を始めとする多くの印刷加工会社だった。

ここまでの要点は「我が国には原産国のアメリカが産み出した製品をより高品質にするか、もう一段階も二段階も向上させた製品に仕立て上げる製造と加工技術が備わっていて、より高度な製品を開発して商業化に成功した例に日本酒とワイン用の紙パックがある」という事。この辺りを、唐津一氏は「オリジナルの製品をより高度化してみせるのが、我が国の創造力の高さの証明だ」と指摘されたのだ。他の例を挙げろと言われれば躊躇なく「自動車」と言う。

私が実際に自分でアメリカの大手企業の中に入って痛感したことは「アメリカではR&Dに巨額の投資を惜しまず、次々に素晴らしい新製品と斬新な構想を世に送り出すのだが、職能別労働組合が抱える問題点である労働力の質が低さの為に、自動車のように日本、ドイツ、韓国、近頃は中国にもEVで追い抜かれてしまうのだった」なのである。別な言い方をすれば「新開発の最先端の製品となるべき構想を商業生産化する技術が拙劣で、屡々新興国に持って行かれてしまう」という事。

我が身の程を弁えないようなことを言って締めくくれば「多くの著名なエコノミストやジャーナリストは、私のような実際に経験し、見てきたアメリカの現実を基にして、踏み込んだ表現でアメリカの産業界が抱えている質が低い労働力のような問題点(欠点)を指摘し難いのではないだろうか」と思っている。もしかすると遠慮しておられるのかも知れない。

アメリカには、この「会社と職能別組合が法律的にも分かれていることが宜しくない」と認識している人たちは間違いなくおられる。だが、未だにそこを改革するまでには至っていないのである。



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