私が20年近く広報誌を作っている(社)静岡県ニュービジネス協議会という団体は、経済同友会や商工会議所ほど有名?ではありませんが、異業種の経営者が集まって、新規ビジネスや既存ビジネスの活性化に向けて何かしらヒントをつかもうと、毎月コツコツ情報交換や勉強会を行っています。
県全体で会員は180人ほど。東部・中部・西部の分かれて各部会で活動しており、私が所属する中部部会では、毎月第2月曜の夜、静岡市葵区常盤2丁目にあるTOKAI本社1階のインターネットカフェで、ビールを飲みながらのニュービジネスサロンを定期開催し、毎回25~30人ぐらい集まります。
堅苦しい講座スタイルではなく、ビールを飲みながらっていうのが好評で、今月講師で来てくださった焼津水産化学工業㈱顧問の田形�・作さんも、会場入りしてビールグラスやつまみ皿が並んだテーブルを見て「飲みながらですか、いいですねぇ~」と目を細めていました。ビール飲み放題でタメになる話が聞けて、会費はたった1000円。かれこれ130回以上続いています。
さて11日(月)のサロンでは、焼津水産化学工業㈱が世界で初めて量産化に成功した天然型グルコサミンを活用し、現在大ヒット中のサプリメント『Nアセチルグルコサミン』(阿藤快さんの静岡新聞全面広告でおなじみ)、塩化カリウムを配合して塩分4割カットに成功したおいしい低塩調味しお『ソルケア』など、健康長寿社会に貢献するという明確な目的で開発された商品を紹介していただきました。
「新しい商品を作る時は、明確なルールが不可欠。当社では、①消費者にとって有用なもの②他社にはないノウハウ。特許が取れないものは?③モニター調査段階で有用性が実感してもらえるもの④商流・物流にマッチするもの⑤事業収支がとれるもの―という5つのルールを徹底させました」と田形さん。自分たちが開発しようとしているものは、誰に使ってもらうのかという“ターゲットコンセプト”が何より大切で、開発者自身のマスターベーションではダメだと明言されます。
田形さんのこの理念は、前職時代に培われたようです。実は田形さん、花王㈱食品事業部に在籍し、私も日頃お世話になっている〈エコナクッキングオイル〉を開発された方なんですね。
花王というと、私の場合、せっけんや洗剤メーカーというイメージが強くて、初めてエコナを見た時は、なんで花王が食用油?と不思議に思ったものでした。でも、もともとこの会社は油脂メーカーで、昭和3年に日本で初めて業務用食用油を売り出した。その時の商品名が「エコナ」だったそうです。
食用油エコナの復活は、化粧品のソフィーナ、生理ナプキンのロリエ、紙おむつのメリーズとともに、花王が創立100周年を機に打ち立てた新規事業4ブランドのひとつとして、また、食用油事業の復活にこだわりを持つ経営陣の熱意もあって、周囲の反対を押し切って立ち上げた事業。田形さんは花王に入社して以来、30年あまり、他部署への異動もなく、このエコナ開発事業ひと筋に取り組みました。
「ひとつのモノをただただ作り続けるのは辛い作業。だからこそ、自分にルールを課す必要があった」と田形さん。仲間には「50年間、店頭から消えないモノを作ろう」とハッパをかけたそうです。前述の5原則は、生き残る商品を作るために必要不可欠だと現場で実感し、会得されたルールなのでしょう。
翌日、さっそく県立図書館へ行って、田形さんがエコナクッキングオイルの開発過程をまとめた論文が掲載されている『ヒット食品の開発技術』(CNC刊)を借りて一気に読破しました。
それによると、消費者に有用だと実感してもらうために、まずは徹底リサーチを行い、理想的な食用油は、①今までより少ない量で上手に調理できるもの②油っぽくなくさっぱりした料理ができるもの③旨味をしっかり包んで素材の味を活かす料理ができるもの④こげつきや油ハネをおさえて楽に調理できるもの⑤入れ過ぎ・油ダレしないハンディな容器―というコンセプトをまとめました。
①~④に対しては、少ない使用料で調理素材の表面に均一に薄くなじむこと、素材の中に油が入り込まないことを技術開発のテーマに据え、親水性油脂(素材表面に均一になじんで油の層を作り、かつ素材の中に油が入り込まない働き)と酵素分解レシチン(素材表面になじんだ油を薄い膜状にする働き)を加えました。両者が油と水の仲立ちをするので油ハネの問題もクリア。均一に薄く広がりやすいので、こげつきも抑えます。
⑤の容器については、「塩やこしょうを使う感じで、卓上におけるハンディな容器」という要望に応えようと、キャップつきのプラスチックボトルを開発。キャップに細いノズルを付けてスクイーズできれば、1回に出す量も調整できます。通常の缶やビンだと、ドバッと出ちゃったり、どうしても油ダレしちゃいますよね…。
このように、消費者の要望にしっかり応える開発コンセプトがベースにあったから、エコナは成功したわけです。開発コストがかかった分、今までの食用油より高価格になり、最初の数年間は赤字続きで社内でも肩身の狭い思いだったそうですが、「経営トップがやると決めたからこそ、持ち応えたし、黒字転換もできた。トップの意志が何より大事です」と田形さんは強調します。
今回のエコナ開発者のように、NHKの『プロジェクトX』や『プロフェショナル』を地で行くような人々のお話を、生で、ビール飲み放題で1000円で聴けるというニュービジネスサロン。来月6月8日(月)18時からのサロンは、昨年度静岡県ニュービジネス大賞を受賞したやまと興業(浜松)の小杉社長がゲストです。機械加工メーカーでありながら、食品分野に参入し、カテキン微粉末茶の開発に成功されたその開発秘話をうかがいます。
サロンは誰でも参加できますし、ニュービジネス協議会に入れば東部や西部の活動情報や、全国に11か所あるニュービジネス協議会の情報も得られます。ぜひこちらをご覧ください。