みなさんは「トリアージ」ってご存知ですか? そう、大災害や大事故などで多数のケガ人が出たとき、重症度や緊急度に応じて振り分け、治療に優先順位を付けるというもの。被災した人に赤・黄・緑・黒のタッグを付けるの、報道番組なんかで見たことあります。あれ、判定する人のプレッシャーって相当ですよね。瞬時に判断しなくちゃならないし、その判断は人の生命にかかわることですから…。
「そんな難しいこと、医療の専門家じゃなきゃ出来ないでしょ」って私も思っていましたが、考えてみると、もし尼崎の電車事故みたいなのが目の前で起きても、救急車が来るまで指をくわえて見てていいの? 100人200人単位で被災者が出たとしたら、五体満足な人が何かしなきゃまずいでしょ?って思います。局所的な事故ならまだしも、大地震が起きたら、それこそ都合よく自分たちのところに真っ先に救急車や消防車が来てくれるとは限りません。
なんでこんな話から入ったかというと、昨日(21日)、『NPO法人災害・医療・町づくり』という団体を取材して、改めて災害時に何か大切かを考えさせられたからでした。
静岡県は地震対策先進県とされていますが、行政がいくら最新・万全の対策をとったとしても、災害は一人ひとりの命の問題であり、発災直後の救出、搬送、救護所の医療、応急救護などは、住民の力なしにはできないでしょう。でもケガ人の救出や手当は、救急・消防・医療のプロに頼り、自分たちで何とかしよう、みんなで助け合おう…という自助・互助精神は高いとはいえません。
一般の人が防災に備えて何をやっているかというと、水や食糧の備蓄や、避難ルートの確認ぐらい? ちょっと進んだ人で、過去ブログでも紹介した家具の転倒防止程度。…自分や周りの人がケガをして動けなくなった時のことを、真剣に考える人って、実はそんなに多くないんじゃないかな。自分が動けなくなったらしょうがないけど、周りにケガした人がいても、自分じゃどうしようもない、プロにおまかせするしかないと、私自身、思いこんでました。
この、“プロにおまかせ”の依存心が、災害時の救急医療をことさら混乱させているということに、取材を通して痛く気づかされました。
いただいた資料によると、近代都市が初めて被った阪神淡路大震災では、当時、医療側にはトリアージを行う準備があったものの、実現できなかったそうです。よもや地震なんか起きるはずがないと思っていた関西の人々は、あまりにも突発的かつ激甚な災害に、われ先にと病院へ殺到し、建物が半壊した病院にも入りきれない患者が溢れかえり、現場の医師は、重症・軽症の区別なく、眼の前の患者さんを必死に治療するしかなかった。優先すべき重傷者の発見と早急の措置がゴテゴテに回ったのです。
現場では、「クラッシュ症候群」という新たな症例も発見されました。人間の体は、長時間、モノに挟まったり下敷きになっていたりすると、筋肉の組織が壊れてしまい、一部は毒素に変わってしまうそうです。それが、救出後、血液循環の回復とともに体中にまわってしまい、心臓を止めてしまったり、腎臓の機能を奪ってしまうのです。したがって、そういう人を救出するときには、できるだけたくさん水を飲ませることが必須で、搬送するのは透析ができる病院。救護所へ運んではダメです。これ、知っているのと知らないとでは、ホントに生死を左右しますよね…コワ。
ちなみにクラッシュ症候群の人は、トリアージはもちろん「赤」=最優先で搬送や治療が必要な人です。「赤」では他に、自分では歩けないけど呼吸している人、呼吸回数が1分間に30回以上の人、手首の動脈が触れない人、呼びかけに応えられない人などが相当します。呼吸回数や手首の動脈などは専門家じゃないと落ち着いて確認できないので、私たちがチェックするとしたら、クラッシュ症候群=2時間以上挟まれていた人か、自分では歩けないけど呼吸している人に「赤」を付けることになります。
「黄」は、「赤」の次に搬送や治療が必要な人。自分では歩けないけど呼吸していて、呼吸回数は1分間に30回未満で、手首の動脈が触れ、呼びかけや指示に応じられる人です。
「緑」は、とりあえず自分で歩くことができる人。優先順位は赤や黄の後になります。
そして「黒」は搬送や治療の優先順位が最後の人=自分で呼吸をしていない人ということになります。
被災現場で行うトリアージ判定(1次トリアージ)は、必ずしも正確とは限りません。人によっては判定にバラツキがあるでしょう。私たちが見るときは、“迷ったときは重い判定に”でいいそうです。病院では「赤」や「黄」の判定にバラつきがあることを承知で、それぞれのゾーンに専従スタッフが付くので、私たちはとにかく「赤」の人を見つけて一刻も早く病院搬送することに専念してよいそうです。
一方、「緑」の人の多くが運び込まれる救護所(あるいは避難所になった学校など)では、医療スタッフが万全の態勢でいるとは限りません。災害時に駆けつけられるのは地域の開業医だけ。圧倒的に多くの軽傷者の手当は、私たちが自力で行わなければならないのです。
そんなわけで、NPO法人災害・医療・町づくりでは、日頃から静岡市内の町内会や学校を訪問して、トリアージ訓練や応急救護の講習会を開いています。理事長は静岡県立総合病院副院長の安田清先生(写真左)。副理事長は大村医院(葵区材木町)の大村純先生。昨日は事務局を預かる大村先生を訪ねて、活動の経緯をじっくりうかがいました。
トリアージの訓練は一般的には防災訓練の一部という扱いをされていて、トリアージや災害医療に特化した啓蒙活動を行うNPO団体は、おそらく日本で唯一だろうとのこと。「県でも、防災セクションと保健衛生セクションとはあまり接点がなかった。我々医療の専門家なら、指導も講習もできるし、むしろ、我々医療従事者が担うべき使命だと思った」と大村先生。静岡市医師会理事を務めたとき、安田先生に出会ってトリアージの啓蒙に本格的に取り組み、01年に任意団体「静岡地区災害時医療連絡会」を設立。メディア関係者に広報を、消防セクションに機材等を提供してもらうなどフレキシブルな活動に発展し、07年にNPO法人になりました。
大村先生たちは、これまでも地域で地道に啓蒙活動を行ってきましたが、ここ1年ぐらいで依頼が急増とのこと。小中学校へ指導に行く時は、子どもたちにケガ人のメイキャップ(競馬のCMの大泉洋みたいな?やつ)をさせるなど、興味や関心を持たせる工夫をしながら、トリアージや応急救護の重要性を伝えています。
先生のお話を聞きながら、「災害直後に住民の命を救えるのは、その場にいる住民なんだ」という鉄則を、改めて噛みしめました。
静岡県って東海地震が来る来ると言われ続けてウン十年経ち、その間に他で大きな地震災害が起きてしまって、県の地震対策にはビミョウ~な空気を感じていましたが、こういうNPO団体が全国に先駆け、活動しているって、やっぱり静岡は防災対策先進地なんだ…!と誇らしく思えてきました。
どんな小グループでもOKだそうですので、みなさんも1度、地域や職場の仲間同士で講習を受けてみてはいかがですか? ちなみに私は講習用のビデオをいただいてきましたので、しっかり自習します。