季刊で定期購読している雑誌『あかい奈良』の最新号(vol.44 2009年夏号)に興味深い記事が載っていました。
奈良県立民俗博物館学芸員の鹿谷勲先生の連載コーナー・大和モノまんだらで紹介された「酒―シモケシとザザンザー」という記事。シモケシって聞き慣れない言葉だけど何だろう、シモって下半身を指すオトナ言葉かしらん?とよからぬ想像をしながら読んでみたら、祭りや神事で朝一番に集まったとき、1杯呑む酒のことなんですって。皆さんご存知でしたか?
先生の一文をお借りすると…
「奈良市大保町の八坂神社で、本祭りの朝、準備の場に居合わせた時のことだった。村の最長老以下12人の男が、秋祭りの御渡り衆になるが、社務所に集まるとすぐに茶碗酒が始まった。アテは昆布とジャコ。1杯飲むと終わりで、早速御幣作りなど祭りの準備が始まった。各地で祭りに酒が登場するのを目の当たりいしていたものの、随分酒好きな土地と面食らったが、聞けば「シモケシ」だという。ひんやりとした早朝、身体も心もまだ固い時に、まるで霜を溶かすようにまず1杯の酒を飲む。なんともいい表現だと感心する。」
「その後、「シモケシ」の言葉は周辺でも聞くことができた。旧都祁村上深川の徳谷寿明氏は「シモケシはさわさわと飲むもの」だと教えてくれた。「さわさわ」という言葉もいい。」
「(中略)シモケシは単に体を温めて動きやすくするというだけではなく、神事に際しての「清め」の意味ではないかと思う。」
日本の神事や伝統芸能の世界に酒はつきものだというのは理解していたけど、ひと仕事終わった後の酒宴の話だと思っていました。朝っぱらからモーニングコーヒーみたいに“目覚めの1杯”を飲む習慣があって、こんな粋な名前が付いていたなんて…。
残念ながら女の私には、伝統的な神事に参加する機会には恵まれませんが、先生の記事を読み進めると、正式な酒宴って、まずネギ(神主役)の前にいろいろなサイズの盃が用意され、みんなで「一番大きいのでいこ」「いや小さいので」と言い合いながら、最後は中くらいのサイズを選び、まずネギが飲む。一口つけて「肴くれ」と言うと、周囲が伊勢音頭を謡い出す。歌が終わると再び酒が注がれ、周囲は「ザザンザー、浜松の音はザザンザー」と囃す。飲み干すと次に盃を回し、謡曲を肴に盃が回るそうです。
酒を注ぐとき、“ザザンザー”なんて松籟の音をBGMにし、謡曲を肴にするなんて、これもなんだか粋ですねぇ。
こういう話を聞くと、酒というのはハレの場の社交手段に必要不可欠な存在だったことがよく分かります。堅苦しい手順があっても、呑み過ぎて失敗しても、社交マナーを身に着ける修業の場であり、地域の連帯感を育てる場でもあったわけです。
シモケシは、正式には朝一番の霜を溶かす酒という意味でしょうが、「シモ」とは、人の心を冷やしたり凍らせたりする、ありとあらゆるものを指すような気がします。それを「ケシ」てくれる酒の効能は、昔も今も、田舎も都会も変わらないと思います。
夜の酒宴でも、シモケシ程度にまず呑んで、心をほっこりさせてから、自分のペースで呑むようにしたいですね。
それにしても、酒にまつわる粋な日本語、まだまだ知らない言葉が多いなぁ。…酒呑みライターとして反省反省です。