杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

平野さんの旅立ち

2010-08-06 00:11:47 | しずおか地酒研究会

 3日(火)夜は、焼津にある日本料理『安藤』で、久しぶりに美味しい日本酒と料理をじっくり味わう時間を持てました。

 

 私のことを、ライターとして駆け出しの頃から今日まで、一番近い場所で支えてくださった静岡新聞社の平野斗紀子さんの退職慰労会。33年の勤務にひと区切りを付け、早期退職制度を利用されての新たな旅立ちです。

 

 

 思えば、静岡新聞社出版局が『静岡ぐるぐるマップ』というタウン誌を創刊した頃、下請けの編集プロダクションにバイトで入って、取材の仕事を一から覚えた頃からずーっとお世話になり、農と食の情報誌『旬平くん』、地酒ガイドブック『地酒をもう一杯』など、平野さんが企画された雑誌や単行本のおかげでライターとして大きくステップアップさせてもらいました。

 

 

 紙ベースの出版物がなかなか売れなくなって、出版局でも企画モノが影を潜め、最後の4年間は新聞のほうの編集局整理部に移って夜勤の激務に追われていた平野さん。夜、一緒に飲みに行く機会はすっかり減ってしまいましたが、「時々、夜勤の後、夜行列車ムーンライトながらに乗って京都へ遊びに行っている」と聞いて何度か同行させてもらい、『朝鮮通信使』のロケでお世話になった高麗美術館や興聖寺を案内したことも。高麗美術館学芸員の片山真理子さんには、その後、平野さんが担当する静岡新聞の農林水産面で朝鮮の茶文化について執筆していただき、出版から離れざるを得なかった平野さんをささやかながら側面支援できたことを嬉しく思ったものでした。

 

 

 7月一杯で退職すると聞いたときは、平野さんのことだから多くの同僚や後輩が盛大な慰労会をしてくれるだろうと思い、自分らしい慰労の仕方はないかと考えて、少人数でも平野さんが気を遣わず、美味しいものをゆったり味わえる食事会を思いつきました。

 そして平野さんが画集の出版を手掛けた染色画家の松井妙子先生、『地酒をもう一杯』を通じて親交を深めた喜久醉の青島秀夫社長、しずおか地酒研究会で平野さんも参加して南部杜氏の故郷岩手県を旅行したときのメンバー・青島酒造社長夫人の久子さん、利き酒師の萩原和子さんの4名に声をかけ、4名とも藤枝&島田在住なので、静岡組の我々と合流しやすい焼津の『安藤』に。

 

 昔は飲み会の話題といえば恋愛や結婚バナシに花が咲いたものでしたが、今回は出席者の平均年齢のせいか?病気や病院の話で盛り上がってしまいました(苦笑)。

 

 なんとか平野さんに長い勤務を振り返ってもらおうと話をふると、「NHK朝ドラの〈ゲゲゲの女房〉を観て思ったんだけど、自分の上司もガロを読んで熱くなった世代のはずなのに、管理職になってやっていることはまるでお役所仕事・・・」と本音をポロリ。この人は本当に出版の仕事を愛していたんだなぁと思いました。

 私も〈ゲゲゲの女房〉を通して、描き手や編集者の泥臭いまでの執念・情熱を感じ、今はそういう熱を身近に感じる機会が減ったことを寂しく思います。平野さんは私にとって、熱を伝えてくれる最後の編集者だったかもしれません。

 

 

 この会を平野さんが満足されたかどうかはまだ聞いていませんが、ふだんは飲めない松井先生が『喜久醉』を何杯もおかわりしたり、萩原さんからも翌日「いいお酒と申し分ない料理で、本音でくつろげる人たちとすごす幸せを満喫できた、素晴らしい演出でした」と感謝メールが届いたりして、食事会としては及第点だったのでは、と自負しています。

 

 

 これからはフリー編集者として、また農林水産紙面の担当で知己を得た県内の農業関係者とのネットワークを生かし、新たなコーディネートの仕事ができたらと夢を語る平野さん。私も、平野さんが魅力を感じ、情熱を投入してくれるような出版物を企画出来たらな・・・と思います。

 平野さん、本当におつかれさまでした!