今週は真面目なビジネスフォーラムを2本も取材し、なんだか経済にちょっぴり賢くなった気分です。
まず16日(火)は、さいたまスーパーアリーナで開催された『新事業創出全国フォーラムIN埼玉』。昨年の福岡大会に引き続き、今年は埼玉での開催です。さいたまスーパーアリーナって、何万人も入る音楽ライブやスポーツイベントの会場としてお馴染みですよね。そこで経済フォーラムって、何人集めるんだ?と思ったら、目標2000人とのこと。会場のキャパから見たら、一ケタ少ないような気もするけど、2000人集めるってそんな簡単じゃないはず。・・・しかも、運営担当の埼玉ニュービジネス協議会は、発足してまだ3年足らずで、会員も50人ぐらいしかいない若い組織らしくて、『全国フォーラム』の冠が付くからって、どれだけの集客力があるんだろうと思いました。
昼過ぎに会場に着いたら、すでに開会イベントが始まっていて、会場はこんな 感じ・・・。だだっぴろいアリーナで音響の調子もイマイチ。大丈夫かなぁと思っていたら、特別講演会で㈱ローソン代表取締役CEOの新浪剛史さん、㈱星野リゾート代表取締役の星野佳路さんというテレビでもよくみかける気鋭の経営者が登場し、いつのまにか客席も埋まって、結果的に1600人ぐらい入ったとのこと。
新浪さん、星野さん登場時にはなぜか写真撮影禁止(芸能人か!?)といわれ、盛況の会場を紹介できず申し訳ありませんが、確かに客席は埋まっていましたのでご安心を
新浪さんは「コンビニ業界は酒屋、米屋、文具店、ミニスーパー、本屋など町の小売店の“いいとこ取り”をしてきたが、この10年、イノベーションを怠り、出店拡張にヤッキになっていたため、あっという間に衰退産業になった」「とはいえ、コンビニが占めるシェアは全小売業の5%にすぎず、まだまだ未開拓分野がたくさんある」と切り出し、具体的に、
「コンビニで野菜を売りたい、薬を売りたい、出来たて弁当を売りたい、郵便局と一緒になりたいと言った時、周囲には猛反対されたが、数少ない賛同社員が、会社を辞めて自分で独立してやる、ぐらいまで熱意を持って取り組んでくれたおかげで実現した」
「農家のプロとがっちり連携し、小世帯向けに野菜を少量100円均一で売る“ローソンストア100”を5年前にスタート。生鮮品を扱うローソンは今に全店舗の半分になるだろう」
「薬は調剤薬局と提携し、薬剤師にローソンオーナーになってもらう“ローソンファーマシー”を実現した。総合病院内にもその病院の実情に合った品ぞろえのローソンを出店させた」
「店内に厨房設備を作って作りたての弁当や総菜を売り始めたら、売り上げが10%伸びた。一緒に組んだのが大企業ではなくアントレプレナーで、何を決めるにも即断即決で意思疎通もスムーズだったのがよかった」
「郵便局が無くなり、不便を強いられる地方の中山間地などで、加盟店オーナーに簡易郵便局長になってもらった。オーナーは“郵便局長”になったことに大変なプライドを感じ、意欲的に取り組んでくれている」
「各県の東京事務所と組み、銀座や新宿や虎ノ門のローソンで、各県名産のお菓子などをバラ売りで始めたら大好評だった。都心の一等地にある店は、地方の魅力を東京で紹介するアンテナショップになる」
などなど、興味深い事例をお話されました。
「ローソンはけっして大企業ではない、社長は社員と直接対話をするし、地域のいろいろな人と連携し、知恵や情報を共有する中小企業のフットワークの良さを持っている」と強調していたのが印象的でした。
続いて星野リゾートの星野佳路さんは、事業内容というよりも組織論のお話。軽井沢の老舗旅館の跡取りとして社長業に就いた1991年頃というのは、人材確保に苦労した時代で、「㈱星野温泉という社名で社員募集しても、優秀な人材は集まらない」と実感し、優秀なスタッフに長く勤めてもらえるよう、仕事が楽しくなる組織にしようと、7つの改革に取り組みました。
①ビジョンと価値観を共有する → ここでいう価値観とは「制約」のこと。法令を守る、同僚に敬意を払う、取引先には礼を尽くす、経営情報は共有する、自由な情報交換、機会の均等、そして禁煙。これらを大事にするという価値観を共有すること。
②コンセプトへの共感 → 地方の旅館が東京のホテルサービスを真似ようとしても意味がない。スタッフでコンセプト委員会を作り、地方の良さやおもてなしを考えてもらう。
③会社情報や意思決定プロセスの公開 → ホテル旅館にはいろいろな人が働いている。経営側がAとBのセクションに重みを置いたとき、残されたCやDに、A・Bを優先する理由をきちんと説明し、不満を残さないようにする。
④醍醐味を満喫する → 従業員にとってのやりがいや仕事の醍醐味は、なんといってもお客様に褒められること。お客様から出来る限り詳細なアンケートをとり、数値にし、お客様の満足度が足りないところをカバーする。たとえばスキーリゾートのお客様から「スキーが上達したい」という声をもらったら、滞在期間中に少しでも上達してもらえるよう、スキー場立つ保証付きレッスンというサービスを、「スキー場のカレーがまずい」という声があれば、味をよくする努力をするというように。
⑤顧客満足は本当に重要か? → 顧客満足度を上げる努力は必要だが、満足度が利益に結びつく確かなメカニズムは解明されていない。満足度が上がれば利益が下がる、不満が出るギリギリまで下げてもよいと言う人もいる。顧客満足と利益をつなぐブラックボックスの存在をつねに意識し、考える。
⑥自分で目標を設定し、領域をコントロールする → どんな組織でも人事への不満は必ず生まれる。従業員満足度を調べ、若い社員でやりたい勉強や取りたい資格があれば積極的に外へ出す。管理職は立候補制にし、プレゼンを聞いた社員が投票で決める。
⑦ダイレクトな評価制度
等などの努力をされてきました。観光産業は20兆円の市場を持ち、バブル崩壊やリーマンショックの荒波を受けても大きな影響もなく、順調に推移しています。インバウンドとアウトバウンド(海外から日本へ来る人と、日本から海外へ行く人)の比率は、2017~18年頃クロスするのでは、と言われています。海外旅行に出掛ける人は全世界で10億人から16億人に伸び、伸び率の25%は中国や韓国などアジア圏の人々が占めると。
つまり、日本の観光産業は頑張らなくても成長し、頑張ったら、自動車産業18兆円市場を超えて、日本の基幹産業になる。その可能性があるのなら、観光事業に携わる企業には、古い考えにとらわれず、もっとしたたかで、しなやかな組織が必要だというのが星野さんのメッセージでした。
2人の講演のおかげで隙間の多かった会場もすっかり熱を帯び、夜の交流会の後、埼玉ニュービジネス協議会のスタッフたちが号泣したとか。翌17日、静岡で開かれた県ニュービジネスフォーラムで、講師を務めた日本ニュービジネス協議会連合会の長谷川裕一会長がさかんに彼らの健闘をたたえていました。
「1年前に大会招致を決めたとき埼玉NB会員数はわずか38人。組織も未熟で互いをよく知りません。しかし彼らはこの1年、連日集まって喧々諤々議論を重ね、何でも話せる仲になり、大会の成功はもとより、それぞれの会社をより強くし、地域に貢献し、若者に元気を与える企業になろうと一致団結。大会は成功裏に終わり、スタッフは大泣きしました。大の大人が泣ける組織が今の日本にどれだけあるでしょうか。日本に最も必要なものがそこにあると実感しました。
独立独歩の精神で、命をかけて事業に取り組み、地域のあらゆることに関心を持ち、課題を解決しようとする経営者のエネルギーこそが、日本の元気の源です。中小企業に元気がなくなったら、日本に未来はないと断言できます」。
長谷川会長のこのメッセージも、具体的で力強く、心に響くものがありました。
静岡県ニュービジネスフォーラムの報告はまた後で。