今朝(8月27日)の中日新聞朝刊19面に、私が執筆した富士山特集第5弾「“頂上が見えてきた富士山の世界文化遺産登録」が掲載されました(記事の下に、静岡県酒造組合の広告が入っているのは、ま
ったくの偶然で、私は広告制作にはノータッチです)。
このシリーズ、5月掲載の第2弾から執筆を依頼され、富士山の信仰や芸術について多角的な取材ができましたが、今回は7月末に文化庁へ登録推薦書原案が提出されたのを受けて、9月末に“本丸”ユネスコ事務局への提出というタイミングにあたり、あらためて世界遺産の登録ってどんな手順で行われるのか興味を持ち、こんな記事にしてみました。
登録手順の説明ではつまらないので、登山シーズンが終わった後の富士山の楽しみ方として、富士山ウォッチャーで知られる地理学者の田代博先生の著作をご紹介させていただきました。
今年6月に祥伝社新書から発行された「富士見の謎」は、全国20都府県に点在する富士山ビューポイントをくまなく調査し、“富士山可視マップ”を創り上げた先生ならではの、超マニアックな富士見ガイド。“都内路上富士”“乗り物から見える富士”“冨嶽三十六景の謎をデジタルで読み解く”等など、地図好き・歴史好きの私にとっては至極の愉しみを与えてくれました。
富士山がヴィヴィットに見えるのは、晩秋から春先までの朝か夕方といわれるので、実際に富士見が楽しめるまで少し待たなければなりませんが、世界遺産登録というゴールは、早くても2年後ですから、われわれ静岡県民も気長に楽しみながら待ちましょう。
〈登録推薦書原案提出〉<o:p></o:p>
“頂上”が見えてきた富士山の世界文化遺産登録<o:p></o:p>
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先月、富士山の世界文化遺産登録を目指し作成を進めてきた「富士山」推薦書原案が、山梨・静岡両県から文化庁に提出され、富士山世界文化遺産登録の実現に向けて大きく前進した。<o:p></o:p>
順調に行けば最短で2年後の登録実現となる。ようやく“頂上”が見えてきた富士山の世界文化遺産登録、今回は文化庁からユネスコへ申請された推薦書が、登録という頂上へ辿り着くまでのルートを具体的に追ってみた。<o:p></o:p>
文化庁提出までの経緯<o:p></o:p>
富士山推薦書原案の文化庁提出を前に、2011年7月15日、東京で第1回二県学術委員会が開催された。ここで推薦書原案及び包括的保存管理計画案が諮られた。会議では山梨・静岡両県の取り組み状況が報告された。学術委員会の審議を経て、7月22日には富士吉田市で、両県知事の出席のもと、富士山世界文化遺産登録推進両県合同会議が開催された。学術委員会の審議結果を報告した後、「富士山推薦書原案」及び「富士山包括的保存管理計画案」が了承され、7月27日、文化庁に提出された。<o:p></o:p>
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ユネスコ世界遺産委員会の審査の道のり<o:p></o:p>
ユネスコ世界遺産委員会では、毎年9月末を推薦書草案の提出期限にしている。文化庁では9月初めに世界文化遺産特別委員会を開き、今回は「富士山」と「古都鎌倉の寺院・神社ほか」の推薦可否を審議し、了承を経て9月中にユネスコへ提出となる。ちなみにユネスコ暫定リストに記載された国内候補はほかに10件あり、審査は来年以降となる。<o:p></o:p>
ユネスコへ推薦書草案が提出されると、提出内容に不備がないかどうか、11月15日までにユネスコ事務局から回答が来る。不備がある場合は、具体的な指示があるが、あくまでも書類上の不備についてである。<o:p></o:p>
完全な登録推薦書の事務局提出期限は2月1日の現地パリ時間17時。2月1日が週末に当たる場合は直前の金曜日の17時までに書類が到着していなければならない。 タイムリミット後に到着した登録推薦書は翌年以降の審査に回されてしまう。<o:p></o:p>
ユネスコ事務局では推薦書を精査し、3月1日までに登録推薦書に不備がなかったかどうか又、提出期限の2月1日までに到着したかどうか回答し、不備があった場合は翌年2月1日までに再提出を受け付ける。<o:p></o:p>
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登録は最短で2013年6月<o:p></o:p>
登録推薦書では以下のような点が厳しくチェックされる。<o:p></o:p>
○推薦する資産の範囲(境界線)を明確に示すこと。<o:p></o:p>
○地図は、陸上及び/又は海上のどの範囲が登録推薦されているのかを正確に判別できる十分詳細なものであること。できれば、当該締約国の最新の公式地形図に資産の境界線を注記したものをあわせて提出すること。明確に範囲(境界線)が示されていない登録推薦書は、「不完全」とみなされる。<o:p></o:p>
○資産の内容には、資産の特徴及び資産の歴史と変遷についての概要が含まれる。地図に記載されているすべての構成要素の特徴と解説を記述することが求められる。
○歴史と変遷には、当該資産がどのようにして現在の形に至ったのか、又、過去にどのような重大な変化を経てきたのかについて記述すること。<o:p></o:p>
○当該資産を、国内外の類似の世界遺産、その他の資産と比較した 比較分析を行うこと。比較分析では、当該資産の国内での重要性及び国際的重要性について説明すること。<o:p></o:p>
○資産の現在の保全状況に関する正確な情報(資産の物理的状況及び実施されている保全措置に関する情報等)を記載すること。また、資産へ影響を与える諸条件(脅威等)についても記述すること。<o:p></o:p>
提出書類が期限までに到着し、不備がなければ、2012年3月から2013年5月の間、ユネスコ世界文化遺産の諮問機関であるイコモス(国際記念物遺跡会議)による現地調査が行われる。この間、イコモスが必要と認めた追加書類を13年3月31日までに提出し、13年6月に開かれるユネスコ世界遺産定時総会にて登録審査結果が発表される。<o:p></o:p>
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現代版『富士見』を楽しもう<o:p></o:p>
世界文化遺産の登録は最短でも2年後。この間、われわれ県民も、富士山が世界遺産に値する価値ある資産であることを広い観点で見守っていきたい。<o:p></o:p>
夏の登山シーズンが終わり、富士山の楽しみは“登る”から“眺める”に切り替わる。<o:p></o:p>
「静岡県が官民挙げて富士山について取り組んでおられることに敬意を表したい」と語るのは、長年、富士山の眺望を研究し、フィールドワークも豊富な田代博氏(地理学者)。今年6月に出版した『富士見の謎―一番遠くから富士山が見えるのはどこか?』によると、日本では東は銚子、西は和歌山県色川富士見峠、南は八丈島、北は福島県二本松市からも富士山が見えるという。同著では全国規模で富士山が見える場所を明らかにし、初公開の貴重な写真も数多く掲載。静岡県内の知られざるビューポイントや、北斎の冨嶽三十六景の位置をデジタルで解析するなど現代版「富士見ガイド」として読みごたえ十分だ。<o:p></o:p>
田代氏は全国20都道府県のビューポイントをきめ細かく調査し、地図総合ソフト・カシミール3Dを活用して『富士山可視マップ』を作成、インターネットで公表している(こちらで検索)。<o:p></o:p>
「富士山は全国区の山なので、ひょっとしたら静岡県民以上に熱烈なファンが全国にたくさんいることを静岡県の皆さんにも理解してほしい」という田代氏。「遠くからだけでなく、近くから見ても美しいといわれるように、地元の方には景観への配慮をお願いしたいと思います」とエールを寄せた。 <o:p></o:p>
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平和で安全な国土あってこそ<o:p></o:p>
田代氏は『富士見の謎』のあとがきで、東日本大震災が富士山可視域にも大きな影響を与えたことにふれ、「平和があってこその山岳展望、富士山眺望であり、安全な国土があってこそということを付け加えなければならない。富士山を眺めることが日本再生の象徴として、多くの人に生きる希望と喜びを与えてくれることを願っています」と結んでいる。<o:p></o:p>
震災の今年、奥州平泉が登録され、富士山が推薦される。このことが国土再生の糧になることを願うばかりである。(文・鈴木真弓)<o:p></o:p>
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取材協力/静岡県世界遺産推進課、田代博氏<o:p></o:p>
参考文献/○文化庁文化遺産オンライン ○田代博著『富士見の謎』(祥伝社新書)<o:p></o:p>