杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

ウサギを仕事をライオンの力でやれ

2011-08-30 18:41:50 | 国際・政治

 日本の新しいリーダーが決まりました。ワイドショーを見ていたら、野田さんってかなりの酒豪で日本酒好きとのこと。確かに酒が強そうな容貌です(笑)。増税推進派のようですが、われわれ左党を酒税で困らせないでくださいね!

 

 8月28日(日)朝8時30分からFM-Hiでオンエアされた『かみかわ陽子のラジオシェイク』では、上川陽子さんが1986年から2年間、ハーバード大学政治行政学大学院に日本人女性として初めて留学したときのお話をうかがいました(トークの内容はこちら)。

 

 政治学を学ぼうと世界中から結集した優秀な頭脳がひしめきあう教室で、手を上げて自分の意見を発表するのはなかなか勇気が要ったとのこと。人気のリーダーシップ論ゼミの教授が、黒澤明監督の名作『生きる』を授業で取り上げ、陽子さんに日本人の矜持や人生観等を解説する機会を作ってくれて、「マドギワってどういう席?」とか「マンネンカカリチョウってどんな役職?」な~んて質問に必死に答えるうちにディベートに慣れ、自分がリーダーになって討論に道筋を付けることができたという体験談でした。

 

 28日夜は、陽子さんが代表を務める静岡県防衛協会女性部という団体の公開セミナーに参加しました。元自衛官でヒゲの隊長でおなじみ・参議院議員の佐藤正久さんが、東日本大震災の被災地における自衛隊員の活動について、貴重なお話をしてくださいました(こちらを参照)。

 

 

 自衛隊の活躍は折に触れてテレビ等で見たり、福島いわきへ行った時も現地で見ていますので、多くの日本人がそうであったように、「災害時には一番頼りになる存在」という認識を深めていたところでした。でも佐藤さんのお話をうかがうと、自衛隊は「災害救助隊」ではないし、今回の任務は「弾丸を撃たない実戦」で、“国を守る”という鉄の信念がなければ務まらなかった任務だったと解ります。

 

 福島第一原発3号機の核燃料プールが沸騰し、白煙を上げているとき、最も放射線量の高い上空真上からヘリで放水するというミッション。私はヒトゴトのように「あんなので冷えるのかな~」とテレビ中継を観ていたんですが、考えてみると、建屋の天井が吹っ飛んでしまった原発の真上にヘリをホバリングさせるだけでも、大量被ばくを覚悟しなければならないし、注水して水蒸気爆発が誘発でもされたら一巻の終わり・・・。

 派遣されたのは中央特殊武器防護隊という専門部隊だったそうですが、さすがに上司は部下に「オマエ行け」と言い出せなかったとか。でも全員が「自分が行きます」と手を上げたそうです。災害派遣とはいえ、そこは「死」を覚悟しなければならない“戦場”だったんですね。

 

 行方不明者の捜索では、ご遺体を見つけてもタンカや毛布やブルーシートが足りず、首から上のないご遺体を直接背負って運んだ、なんてことも。溺死体というのは臭いが強烈で、自分の頭髪にその臭いがこびりついたり、ご遺体を一時保管していたトラックの荷台で食事をとらなければならず、若い隊員は食べた物をもどしてしまったとか、メディアでは報道されない過酷な現場・・・。それでも任務を遂行できたのは、とりもなおさず、自分たちがいざというとき守るべき国民が〈被災者〉となった生の姿を目の当たりにしたこと。

 

 奥様が行方不明になっても、「多くの市職員が亡くなり身内が行方不明になっているのだから」と、あえて捜索願を出さなかった陸前高田市長(奥様はその後死亡が確認)・・・。津波に襲われた病院の入院患者だったおばあちゃんが、屋上に避難した医師たちに「ありがとう」と手を振りながら流されていった・・・。子どもの遺体を抱きながら「自衛隊さんに助けてもらってよかった、大きくなったら自衛隊さんに入れてもらおうね」と語りかけていた母親・・・。そんな被災者を目の前にしたら、つらいだのしんどいだのって言えないでしょう。

 

 

 地震発生後30分以内に実働部隊が被災地へ向けて出動でき、生命のタイムリミットといわれる72時間の間、警察や消防も舌を巻くほどパワフルに動き続けられたのは、「自衛隊が災害救助ではなく国防を目的に訓練しているから」と佐藤さん。

 佐藤さんがイラクの第一次復興業務支援隊長として派遣されていたとき、イギリス軍高官から「ウサギの任務を、ライオンの力でやる」と言われたそう。つまり国防という高いレベルの訓練技術を身に着け、相応に心身を鍛え上げているから、灼熱のイラクだろうとテロに脅かされようと、今回のような甚大な災害であろうと、あわてず、冷静に、完璧な自己完結で対応できたというわけです。

 

 

 私は仕事柄、いろいろな職業人を取材していますが、共通して感じるのは、「プロとは、予期せぬ事態に力が発揮できる」ということ。決められた道をきちんと整備された車で、マニュアル通りに走るだけならアマチュアでもできますが、先の見えない道を、ポンコツカ―でもスーパーカーでも、マニュアルがなくても、どんな邪魔が入ってもちゃ~んと運転できるのがプロ。それできちんと結果を出す。「努力しました」はアマチュアの言い訳なんですね。そのために日頃からあらゆる事態を想定をし、訓練に時間とお金の自己投資をちゃんとするのがプロです。

 

 私も一応、プロのライターを名乗っていますが、本当にプロといえるのかどうか不安で、こうして長いブログを書きながら「訓練」してます。ブログを始めて書く力が向上したかどうかよくわかりませんが、どんなせっぱつまった仕事でも、テーマを整理し、構成を組みたて、実際に文字をつづっていくのにさほど時間がかからなくなったのは確かです。

 

 

 

 新政権がどんな政治手腕を発揮してくれるのか未知数ではありますが、今はとにかく、政治でも復興支援でも、どんなステージであっても、その道のプロがその力をいかんなく発揮し、正しく評価される世の中に向かって行ってほしいと願うばかりです。