杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

愚直に伝える

2008-10-10 10:55:59 | 地酒

 ゆうべ(9日)は天晴れ門前塾の“顔見世会”に参加しました。過去ブログでも紹介したとおり、静岡大学の学生が中心となって組織された学生主導の学外ゼミ。社会人講師を招いて新たな価値観を学ぶとともに、“学校を出て学校を元気にしよう”を合言葉に、塾活動の体験を母校にもフィードバックしようと、学生たちがホントに熱心に頑張ってます。

 

 

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 運営をサポートする市民代表の満井義政さん(財団法人満井就職支援振興財団理事長)や石川たか子さん(㈱丸伸社長・シズオカ文化クラブ代表幹事)の紹介で、第4期の講師5人のうちの1人に呼ばれた私。最初、声がかかったときは、「学生を酒蔵見学に連れていけばいいのかな」程度に考えていたのですが、11月から3月ぐらいまで毎月1~2回はゼミを行い、最終的には学生がそれなりの体験発表や意見交換を行う本格的な大学ゼミと知り、青くなってしまいました。具体的に何をやればいいのか考える間もなく、昨日は、受講の意思のある学生が、5人の講師と面談し、どのゼミを受けるか決めるという場に呼ばれてしまいました。

 

 

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 テーブルが5つ用意され、それぞれ講師が学生を迎えてプレゼンをする就職説明会みたいな会場です。とりあえず持ってきた静岡県地酒マップと、吟醸王国しずおか会報誌と、25日のトークセッション&パイロット版試写会の案内を見せながら、静岡酒の歴史や、地酒を学ぶ価値や、映画を作る意義などを短時間ではやしたてまくりました。学生(女子がほとんど)は呆気にとられたような表情…。聞けばまだ19歳になったばかりとか、20歳を過ぎてるけど日本酒を飲んだことがないとか、焼津出身だけど磯自慢をまったく知らないとか、ふだん接している酒飲みの世界からは最も遠い距離にいる人たちなんですね。

 

 

 酒類業界の人たちは、いつも他人事のように「若者が日本酒を飲まなくなった」とか「底辺の需要開発が大事」と言います。何か対策をとっているかといえば、若者や女性ウケしそうなパッケージの酒やパンフレットを作る程度。中には、日本酒本来の味やおいしさとは程遠い酒を、低アルコールで飲みやすいからといって売り込むメーカーもいます。それはそれで、相応の効果はあるのでしょうが、ハード一辺倒ではなく、もっと若者のフィールドに飛び込んで語りかけるようなソフトづくりも必要じゃないかなぁ…。実際に、学生を前にノドを枯らしながら、そんなことをつらつらと感じました。

 

 それはともかく、世話人の満井さんが締めの言葉で「今の日本人は、目先の変わったことや新しいものにすぐに飛びつく傾向があるが、ノーベル賞受賞の先生方がそうだったように、興味や関心を持ったことを愚直にやり続ける。この愚直さが、これからの時代は大切だと思う」と学生に語りかけたことが心に響きました。

 

 

 酒を追いかけてたかだか20年…ですが、ゆうべ会った学生たちが生まれるか生まれないかぐらいの頃から追いかけてきた事実を思えば、自分の愚直な性格が、こうして学生に何かを伝える役割に導いたのかもしれないと思えてきます。

 

 酒の蔵元は100年200年と愚直に酒を造り続けてきたわけです。やっぱりすごい人たちです。…短い期間で、その価値が学生にどれだけ伝えられるかわかりませんが、19歳の女子学生にプレゼンするときは「あなたが20歳になったとき、最初に飲むお酒を静岡の地酒にしたくなるように頑張るから」と、自分自身に喝を入れました。

 

 

 最後に学生向けの書いたプレゼンコピーです。興味を持った学生は(静大以外の学生も参加OK)ぜひ参加してみてください!

 

 

天晴れ門前塾第4期 素頭記(すずき)組

「テーマ/呑む、観る、伝える」

日本酒のことを知っておくと、年上の友人が増えます。海外の人ともコミュニケーションがはずみます。
地酒のことを知っておくと、地元の水環境、農業、酒蔵のある地域の歴史もわかります。

酒造りは、自然の発酵物をコントロールする日本人のモノづくりの繊細さとプライドの証し。
知っておくと、日本人であることが、なんだか嬉しくなってきます。
そんな地酒の価値を、今、ドキュメンタリー映画に残すプロジェクトを進めています。

目に見える価値と見えない価値・・・どうやったら第三者に伝えられるか、映像作りの価値も含めて、現場でいろんなこと、体験してみませんか?


大悲呪と素粒子

2008-10-08 15:21:00 | 仏教

 宇宙の根源を解く素粒子の研究にノーベル賞が与えられました。ちょうど届いたばかりの『ナムカラタンノーの世界』(野口善敬著・禅文化研究所刊)を読んでいたとき、受賞のニュースを見て、なんだか不思議な共鳴を感じました。

 

 5月の連休に京都の興聖寺で集中座禅をしたとき、朝のおつとめで必ず読んだのが“ナムカラタンノー・トラヤーヤー”で始まる『大悲呪』というお経でした。先日の高島寛之さんのお通夜でも聞きました。禅宗の勤行や法要で幅広く読まれているそうです。

 

 大悲呪は、千手観音さまの功徳を示したお経『千手経』の一部分です。禅宗のお経には2種類あって、〇〇経というように題目に経が付くのは、インドで書かれたお経を中国語に意訳した“漢訳仏典”。もう一つは、インドでの発音をよく似た発音の漢字に当てて音訳した“陀羅尼(だらに)”。発音そのものに神秘的な力があって、あえて意訳しなかったそうです。

 

 大悲呪を聞くと、意味はさっぱりわからないけど、何度も唱えていると、その不思議な響きが心に残るというのは、人として自然な反応なんですね。

 

 

 野口氏によると、『千手経』というお経は、大悲呪という“特効薬”を解説した効能書きのようなもので、この薬の効能を絶対的に信じ、正しい条件のもとで必要な回数を唱えれば、15の悪い死に方をせず、15の善い生まれ方をするというのです。

 こういう現世利益を求めるようなお経が、自力の現世悟道を目指すはずの禅門で読まれるというのは矛盾しているように思えます。

 

 

 集中座禅をしていたとき、意味のわからない読経や所作に最初はイラついていたのが、少しずつ身体に染み付き、最後のほうでは、理屈ではなくひたすら動作で受け止めることで、全身が楽になるという不思議な感覚を覚えました。

 

 

 

 

 話はちょっとズレますが、30代終わりの頃、長年の呑み過ぎ食べ過ぎがたたって?体重が60kgを超えてしまったときがありました。40代目前にして意を決し、1年半かけて15kgダイエットしました。いわゆるレコーディングダイエット(毎日決まった時間に体重を測り、食べた物はすべて記録する)と運動です。これも最初は理屈で考え、何度も挫折しそうになりましたが、記録と運動が習慣として身体に染み付いてからは、ほとんど苦もなく、毎月1~2kgずつきれいに落とすことができました。

 

 

 お経も、意味がなんとなくわかる漢訳仏典もありがたいのですが、意味がほとんどわからない陀羅尼をひたすら読誦して身体に染み込ませる…そこに修行に通じるものがあるような気がします。

 

 

 

 

 高島さんのお通夜があった5日、昼間は一昨年亡くなった祖母の三回忌法要がありました。祖母の菩提寺は日蓮宗なので、読んだのは違うお経です。

 

 

 

 法事に参加したことのある人なら、長時間正座し、意味のわからないお経を聞かされたり読まされたりすることに、多少なりとも苦痛を感じるでしょう。日本人が一生のうちに何度か必ず耳にするものですから、お寺さんでも、意味を解説したりしてお経に親しめるような努力をすればいいのに、と思っていましたが、先日の法要では、「意味がわからなくてもいいんだ、とにかくお経を読むことに没頭し、リズムがとれるぐらい身体にしみ込ませれば」と感じることができました。他の思念にとらわれず、お経を読むときはただひたすら声明し、お焼香をするときはただひたすら首を垂れる…それが、故人に示す誠意であり供養になるのだと。

 

 

 禅僧が大悲呪を唱えるのも、自己修行の一環ではないかと野口氏はしめくくっています。

 

 

 思念にとらわれず、ひたすら素になるという禅修行は、自分という人間が、60兆の細胞が関係し合って成り立っていて、世の物質は原子と、原子を構成する素粒子から成り立っていることを想起させます。

 

 

 ノーベル賞受賞の先生方は、前世はきっとすぐれた哲学者か宗教者だったに違いない、なんて想像してしまいました。


活字に埋もれる

2008-10-06 19:42:41 | しずおか地酒研究会

 先週末、高島寛之さんの突然死の報に接し、ゆうべお通夜に行って来たのですが、あまりにいたましくて帰宅してからも胃がシクシク痛むほどでした。保険の仕事のかたわら、地域活動に積極的で、しずおか地酒研究会の会員になってくれて、静岡おでんの会の立ち上げにも尽力し、最近ではNPO法人活き生きネットワークの評議員同士、よく顔を合わせていました。

 まだ42歳。残された奥様と3人の息子さんたちが涙に暮れる姿が痛々しく、この年代の男性の死が、いかに残酷なものかをひしひしと感じました。

 

 

 

 いつもは8時前には仕事デスクの前にいる朝型人間の私が、今朝は起きたのが8時。編集モノの締め切り当日というのに、ちっともはかどりません。

 

 思い立って、座禅に通う京都興聖寺のご住職からいただいたお経を、声に出して読んでみました。ゆうべのお通夜でも聞いた“ナムカラタンノトラヤーヤー”でおなじみ『大悲呪』です。座禅修行のときも、一番たくさん読んだお経で、意味はまったくわからないのですが、“トラトラー”とか、“クリョクリョキリー”とか、“ソモコー”とか、不思議な響きの言葉が脳裏に染み付いて離れません。

 

 そのうちに、意味がわからないと気持ち悪いなぁ…とライター魂?が覚醒しはじめ、ネットで調べ、Amazonで専門書を買うことに。梵語の呪文をそのまま漢字で音写したらしいので、専門家でも解釈がバラバラとか。どこまで“解明”できるかわかりませんが、本が届いたらいろいろ勉強してみようと思います。

 

 

 

2008100616030000  お経を読んで元気が湧いた?ところへ、JA静岡経済連からスマイル最新号が届きました。過去ブログでもご紹介した、特選和牛静岡そだちの特集号です。

 自分ではなかなか食べられないグルメ和牛。取材先でも、ひとかけらも試食ができませんでした(涙・・・)。もうすぐ誕生日(11日)なんですが、誰かご馳走してくれないかなー。

 スマイルは県内主要JAやAコープの窓口で無料配布していますので、ぜひお手にとってご覧ください!

 

 

Dsc_0025  昼過ぎ、東京の里見美香さん(dancyu編集部)から、先週末、最新号(お米特集号)を送ったとの電話。ポストを見に行ったらメール便で届いていました。

 

 里見さんは、喜久醉松下米の松下明弘さんの米作りを、我々が『吟醸王国しずおか』で松下米の田植えを撮影したときから同時スタートで追いかけはじめ、主に玄米食専用品種「カミアカリ」の成長を取材されたのでした。9月の稲刈りまで、我々の仲間であるカメラマン山口嘉宏さんがdancyu掲載用に撮り下ろした鮮やかな写真が、7ページにわたって誌面を飾っています。ぜひ書店でお求めくださいませ!

 

 

 夕方にはオフィストイボックスの櫻井さんから、刷り上がったばかりの『杯が満ちるまで3号(吟醸王国しずおか映像製作委員会会報誌)』が届きました。今号はパイロット版試写会の報告&感想コメント集です。この先、くじけそうなことがあっても、これを読めば勇気が湧く!と思い、100%自分のために作りました(笑)。押し付けられる会員さんには申し訳ありませんが、映画のパンフレットか映画雑誌の批評コーナーみたいなレイアウトにしましたので、「いろんな見方をする人がいるんだな」「早く観たいな」と感じてもらえれば。

 

 

 

2008100617300000  編集モノの仕事がひと段落し、食糧の買い出しに出かけ、本屋に立ち寄ったら、sizo;ka9号(最新号)を見つけました。dancyuはちゃんと発行日に間に合うように見本誌を送ってくれるのに、sizo;ka編集部は手際が悪いな~と思いつつ、パラパラとめくってみたら、里見さんのコラムが3本も載っているではありませんか!

 ほかに写真家・多々良栄里さんの作品や、静岡の蔵元5社が「おススメ酒」を紹介するコーナーがあったりして、身内で創ったみたいな錯覚・・・。でも嬉しいですね、知り合いが同じ雑誌で別々にちゃんとポジションを守っているって感じで。

 ちなみに連載中の「真弓のスケッチブック」では、開運の杜氏・波瀬正吉さんの故郷を撮影に行ったときのエピソードを紹介しています。私の入魂の一筆!波瀬さんが厳しい眼で試飲しているスケッチ画もお見逃しなく。

 

 

 長い一日が終わろうとしています。

 気がつけば、デスクの上には、今日一日で集まった雑誌が4冊。その下にお経が1冊。明日にはお経解説本が届く予定です。しばらくは活字に埋もれて癒しを求めながら、辛い出来事を静かに見送ろうと思っています。

 


静岡県地酒まつりの燗酒ブース

2008-10-04 11:52:00 | 地酒

Img_4028  昨日(3日)は浜松グランドホテルで静岡県地酒まつり2008(静岡県酒造組合主催)が開催されました。県地酒まつりは毎年10月1日(日本酒の日)に、県の東部・中部・西部持ち回りで開催していますが、西部開催の今年、1日はあいにくグランドホテルの宴会場が、浜松を代表する某メーカーに占領されて借りられず、3日にずれ込みました。そのメーカーの社長さんがちゃっかり来賓席に座っているんですから苦笑いするしかありません。いずれにしても、コンベンション施設の不足は、西部地区に限らず、静岡県全体の大きな課題のようです。

 

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 私は5年前から、10月1日の県地酒まつりでは燗酒ブースのサポートに入っています。この季節の地酒イベントですから、燗酒を呑みたいというお客さんの声もあります。蔵元側も、いっときの吟醸冷酒一辺倒の流れから、さまざまなタイプの酒をお客さんの声に合わせて売り出す戦略に切り替える蔵が増え、地酒まつり実行委員会でも燗酒ブースを作ろうという話が持ち上がりました。

 

 

 その頃、蓋付錫チロリ「かんすけ」を売出し中のメーカー・サンシンが、商品デモにもなるので協力させてほしいと名乗りを上げたため、「じゃあ、燗酒ブースを設けて、コンパニオンの女性を付ければいいね」なんて話になったため、「ちょっと待って、燗付けって微妙な温度の違いで味が全然変わるでしょう、コンパニオン(を蔑視するつもりはありませんが)には無理だと思う。任せるなら、せめて蔵元が必ず付くとか、きき酒師の資格を持っている助っ人スタッフを頼むぐらい、慎重にやるべき」と待ったをかけた私。結局、助っ人を探す時間がなく、言い出しっぺの私がブースをお手伝いすることになりました。

 

 

 

Img_4018  最初の年は、正直に言って、私自身、燗酒の適正温度を熟知しているわけではなく、各銘柄ごとにいろんな温度を試しながらの手探り状態。錫チロリをお湯に付けるだけの「かんすけ」は、熱伝導率がよく短時間で良燗が付くのですが、何種類もの銘柄を同時に付け、お客さんにあれこれ指定されると、湯につけっぱなしにしたのが高温になったり、「燗酒なら何でもいい」というお客さんがグラスにいろんな銘柄をいっしょくたに注がせたりして、思うようなお燗番役を果たせませんでした。

 

 翌年からは、蔵元から社員が何人か助っ人で付くようになり、少し余裕が出来たので、お出しする燗酒はすべて、ぬる燗(40℃前後)、熱燗(50℃前後)で試飲し、冷やかしにくる蔵元にも感想を聞くなどして官能を鍛えました。今ほど注目されていなかった白隠正宗の純米酒が「私的にはダントツに燗酒向き」と思い、小夜衣の森本社長に薦めたところ、「こいつはアタリ」と太鼓判を押してくれて、森本さんは今ではすっかり「白隠の宣伝マン」を自認されるほど。満寿一の大吟醸が想像を超えた燗上がりをしたり、富士錦の純米酒が手ごろな燗酒として最適だとわかったり、この数年、燗酒ブースでいろんな“発見”を楽しむことができました。

 

 

 今年は燗酒ブースに18種類の銘柄が集まりました。静岡の酒18種の燗酒をいっぺんに試飲できる場なんて、他にはありません。会場内では、『吟醸王国しずおか』のカメラマン成岡さんに撮影を任せっきり。「私一人、こんな楽しいこと独占していいのかなぁ」と後ろめたさを感じつつ、蔵元やお客さんとの燗酒談義を楽しみました。

 

 

 

 錫チロリに温度計がささった「かんすけ」を怪訝そうに見て、「熱燗しか呑んだことがないんだが」という年配の男性客に、萩錦の萩原郁子さんが「お好みですから、そんなにこだわることはありませんよ。お酒ってその日の体調とか気分で感じ方が変わるものですから」とやんわり応えています。

 私はそれに、「今日は、お酒が主役の宴会ですから、お酒にとって一番いい温度体でご紹介しようと造り手自身が頑張っているんですよ」と付け加えました。自分で話しながら、「そうだ、このイベントの主役はお酒なんだ」って意識をいっそう深めました。

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 昨日の燗酒ブースに出品された銘柄と、私が適正だと思った温度体をご紹介しておきます。出品銘柄は、蔵元が「今、一番燗に向いている、または、燗で試すと面白い酒」と自己判断したものです。あくまでも私の個人的な感想ですから、ぜひご自分でいろいろ試してみてくださいね。

 

 

 

白隠正宗(沼津市) 山廃純米  42~43℃

富士正(富士宮市) 辛口げんこつ  55℃

高砂(富士宮市) 楽・山廃本醸造 50℃

白糸(富士宮市) 富士山・特別本醸造 50℃

富士錦(芝川町) 純米酒 43~45℃

正雪(由比町) 辛口純米・誉富士 50℃

臥龍梅(静岡市清水区) 純米吟醸備前雄町 40℃

萩錦(静岡市駿河区) 蔵出し原酒生貯 42~43℃

満寿一(静岡市葵区) 純米吟醸 40℃

初亀(岡部町) 純米酒 40℃

磯自慢(焼津市) 特別本醸造 45℃

志太泉(藤枝市) 純米酒 40℃

喜久醉(藤枝市) 特別純米 38~40℃

若竹(島田市) 純米吟醸長い木の橋 50℃

萩の蔵(掛川市) 本醸造 50℃

開運(掛川市) 純米吟醸いいら 40℃

千寿(磐田市) 本醸造白拍子 50℃

出世城(浜松市) 本醸造 45℃


フルーツゼリーの試作実験

2008-10-03 10:14:20 | 社会・経済

 昨日(2日)は東京・新橋にある乳製品メーカー中沢乳業の研究室におじゃまし、新しいゼリー菓子の試作実験に立ち会いました。静岡県商工会連合会の平成20年度小規模事業者全国展開支援事業(しずおか・うまいもの創生事業)で、県内産のフルーツを使ったオリジナル菓子を開発することになり、静岡県出身のチョコパティシエ・土屋公二さんが、実際に製造販売する県内の5軒の菓子事業者に実技指導をしたのです。

 

 

 

 私はこの事業に3年前からかかわり、昨年度はアドバイザーとして参加。酒とつまみのギフトセット『つまんでごろーじ』の開発をお手伝いしました。今年度も引き続きアドバイザーを引き受けたのですが、得意の「酒」とは勝手が違い、お菓子類は完全に一消費者感覚。5軒のお菓子やさんと、土屋シェフと、コーディネーターの石神修さんがあれこれやっていることを、ほとんど眺めるだけでした。お菓子作りが趣味の人なら、こういう実技を見学するだけでも実になるんでしょうね。事業委員長の米屋武文先生(静岡文化芸術大学教授)と2人、「我々の出る幕はありませんね~」と苦笑いしながら、試作品のテイスティングを楽しみました。

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 試作の内容については、まだ開発段階ということで、公表は差し控えますが、面白かったのは、「菓子作りは科学だ」ということ。昨日は土屋シェフのはからいで、菓子の素材メーカーとして知られる愛国産業のスタッフもかけつけて、地元産の生のフルーツをゼリーにするという、菓子業者にとってはかなりハードルの高い作業に向け、専門家の立場から貴重なアドバイスをしました。

 

 

 

 お菓子作りの経験者ならよくご存じかもしれませんが、ゼリーやプリンのぷるぷる感を出すために使うゲル化剤には、今、カラギーナンという海藻抽出物を使うのがトレンドなんですね。原料はスギノリやツノマタといった紅藻類。プリン、ゼリー、アイスクリーム、ようかん、ソース類などのほか、シャンプー剤などにも使われているそうです。

 

 とくに最近のトレンドは、ゼリーでもプリンでも、ピシッと固めるのではなく、ほろっと崩れるようなぷるぷるとろとろ感だそうで、カンテンやペクチンといったおなじみのゲル化剤よりも、カラギーナンは素材に合わせやすく、好みの固さ・柔らかさを出せるそう。

 

 地元産の生フルーツを使うというのは、口ではカンタンに言えますが、業者さんにとっては本当に至難の業です。土屋シェフいわく「安定した状態のフルーツを安価に通年入手できなければ事業としては成り立たないのが定石」からこそ、「裏山で採れた旬のフルーツを使って、2~3人の家族経営のお菓子屋さんが作れる手法」を考える難しさと、新規事業として挑戦のし甲斐があるとのこと。

 

 そこで、愛国産業のスタッフがひねり出したのが、フルーツをピューレ状にしたときに、糖度とpH数値を一定に保つグラフ表。旬のフルーツは、当然、収穫時期やその年の気候によって数値にバラつきが出ます。お菓子屋さんが地元で期間限定で売る分には構いませんが、ギフトセットとして全国に販売展開するならば、味のバラつきはNG。まず仕上がり糖度をいくつにするかを決め、フルーツピューレの糖度を測り、足りない分をグラニュー糖で足す。愛国さんが作ってくれたグラニュー糖添加量早見表は、土屋シェフも「今日の拾いモノ!」と小躍りするほど貴重なデータのようです。

 

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 さらに重要なのは、クエン酸とクエン酸ナトリウムで出来たpH調整剤。pH数値が足りないと、出来上がったゼリーを熱湯殺菌しても死滅しない可能性があるそうです。熱に弱い菌は酸に強く、酸に強い菌は熱に弱い特性があるため、pH調整剤で数値を適正にしておく必要があるということ。

 話を聞いていると、菓子作りは理系頭脳がなければ出来ない…とつくづく感じます。中沢乳業のサポートスタッフも「昔は、お前はアタマが悪いから学校なんかいかずに菓子屋を継げ、なんて言われましたが、今は、アタマが悪ければ菓子屋も継げません」と苦笑していました。

 

 

 それにしても、生フルーツを加工することの難しさは相当なものです。試作品のうち、メロンを使ったものは、生メロンの風味がなくなってしまい、リキュールか香料を加えないと、消費者が期待するメロンゼリーの味にはなりません。みかんは皮を入れることでおいしさが増すのですが、皮を使うとなると残留農薬の問題が出てくる。使用するのは微々たる量で、みかん栽培に使われる農薬は水溶性で人体に影響はないといわれますが、今の消費者の食品に対する厳しい眼を考えると、業者さんは看過できず、しかも残留農薬の検査には膨大なお金がかかるとか。

 

 

 無添加が最上のもので、素材100%でなければホンモノではないという風潮…。酒の世界でも「純米酒至上主義」みたいな人がいます。

 

 こうして、実際、お菓子業者さんの苦労を目にすると、消費者の食への意識って一部マスコミや運動家が煽っている部分も確かにあるなぁと思います。それはそれで、冷静に考えなければと思う一方、私自身は、醸造アルコールが添加された本醸造系の酒も大好きだし、不安定なフリーランスの身ですから、食費に枯渇するときは100円ショップやドラッグストアでため買いした添加物の塊みたいなジャンクフードにも頼っている。食品表示も、偽装は許せませんが、100%すべて正直に表記しているわけではないから、メーカーを信用するしかない。

 最終的には、そのメーカーが企業活動できる日本という国を信用するしかありません。それが、20世紀から21世紀にかけて、日本という国で生を受けた自分の運命かなと。

 ・・・そういえば、もうすぐ選挙ですね。