さて4月には桜の白石城、大河原町の一目千本桜など花を堪能しました。
今回はさらに東北線を下って岩沼駅(武隈の松)、名取駅(笠島)そして仙台へと行く計画でした。
ただし芭蕉一行は先に笠島に立ち寄りその後武隈の松に行っています。
そこで仙台まで新幹線で行き、在来線に乗り換えてまず名取駅で下車しました。
名取駅で西口を見ると駅前にサッポロビール仙台工場があるだけであとは何もない感じです。
反対側に出ましたが写真のように人もいません。(わざと誰もいないところを撮ったわけでもありません)
どこの地方都市にも似た広くてきれいな舗道が整備されているのに食事する場所もありません。
10分ぐらい歩いて仙台バイパスの交差点にでると左側の遠くにかっぱ寿司の看板が見えました。
お腹が空いていたので入ってみました。友人が最近かっぱ寿司も美味しくなったと言ってましたが確かにそのようでした。
しかし仙台まで来てかっぱ寿司が美味しくなったのを感じてもどんなものでしょうか。
まずは籐中将実方の墓に行ってみました。
この奥に墓があります。
朽ちもせぬ その名ばかりを とどめおき 枯れ野の薄 形見とぞ見る
(すっかり荒れ果てて実方の名前だけが残っている。このススキは実方の形見のようだ)
西行法師
それにしてもちょっとなんだかなという光景です。これだけ見るのに新幹線に乗ってきたのだったら金返せ!と叫びたくなります。
芭蕉の俳句の碑がありました。
芭蕉は歌人藤原実方に思慕の情を抱いて、また西行法師が詠んだススキを見たかったのでしょう。
暗い森の中を歩いて行きます。蚊が沢山寄ってきて落ち着いて写真も撮っていられません。露出不足。
結局芭蕉はここには寄りませんでした。「雨で道が悪く疲れていた」と無念さが書かれています。
曾良の旅日記には「三ノ輪(蓑)、笠島と村並びて有由(あるよし)、行き過ぎて不見(みず)」とそっけない。
立派な解説板がありました。
やっとたどり着きました。藤原実方の墓です。
当たりは竹林で森閑としていました。僅かばかりの土を盛り、四方を木の作で囲ってありました。
平安時代の実力者、プレイボーイの墓です。
更には道祖神社に行ってみました。
藤原実方がこの神社の前を通った時に村人が下馬しろと言ったのにそのまま通り神の怒りをかって落馬して亡くなったそうです。
傲慢な人にありがちな行為ですね。
道祖神というから小さいのかと思っていましたがなかなか広大な敷地です。
もっともご隠居のような物好きな旅行者はこの日は誰もいなくて静かでした。
静かなたたずまいの本殿です。
でも怒らせたら怖い神様なんだなと思い奮発してお賽銭を100円入れました。
馬に乗って旅行しているわけではありませんが交通事故なんかに遭わないようにお願いしました。
笠島
鐙摺、白石の城を過ぎ、笠島の郡に入れば、籐中将実方の墓は行づくのほどならんと、人にとへば
「これより遥か右に見ゆる山際の里を、みのわ、・笠島と云ひ、道祖神の社、かたみの薄、今にあり」と教ゆ。
この頃の五月雨に道いとあやしく、見疲れ侍れば、よそながら眺めやりて過るに、箕輪・笠島も五月雨の折りにふれたりと
(日頃の五月雨で道が極度に悪く、体も疲れていたので、遠くから眺めてとおりすぎた。箕輪、笠島のちめいは蓑、笠と今日の雨に良く合っている。)
笠島は いづこ五月の ぬかり道
籐中将の墓や道祖神はどのあたりだろうか。五月雨でぬかるみを行くのも大変で悔しい。
「曾良さんよ。雨は降っていて道は悪いし体調も良くない。まいったねぇ」
「翁、省略して先に進みますか」
「君の旅日記にくだらない真相を書かないでおくれ」
「竹林を抜けて籐中将の墓の前で涙したとか、ねつ造記事を書かないでくださいよ」
「馬鹿だねぇ。実物を見なくても読者が自由に実方に思いを馳せられるように書くのが大作家というものですよ」
「そうですか。たんなる疲れて山奥まで行くの面倒くさくなったんじゃないんですか」
「うるさい!」
「藤原実方は名門の出で出世コースを歩み美男子、歌がうまい。宮中では女性がほおっておかなかったでしょうね」
「たしかに清少納言や源満仲女など20人以上の女性と関係を持ったとフォーカスされていますね」
「曾良さん羨ましいでしょう。世の脚光も浴びないままそんな汚い爺さんになってしまって」
「なんの、あたしぁ俳句一途の人生です。色恋など俗世界の事です」
「そのわりには俳句もうまくならないねぇ」
「チガウダローーーー。このハゲ。とか師匠さまにいってはいけないですよね。お言葉ですがあたしなりに勉強しているんですけど」
「しかし最近江戸表の方でも記者会見中に激高した若年寄がいると聞いたよ」
「最近我慢できない人が多いのでしょうか」
「ピッカピカの出世街道を歩いていた藤中将が陸奥の守になって東北になんかに何故左遷させられたか知っていますか」
「やっぱりねたみなんかじゃないですか」
「激高です。ある時、殿上人が東山でお花見をしていたら突然雨が降って来ました。
みんな雨宿りをしたのに実方だけが桜の下で雨に濡れたまま風流に歌を詠んでいました」
「かっこつけますねぇ」
「でしょう。そこで能書家の藤原行成という人が(歌は面白いけど馬鹿じゃないの)と言ったのを実方が聞き激怒して行成の冠をつかんで落し庭に投げ捨てました」
「ほいほい」
「合いの手がいいねぇ。行政は侮辱を受けたにもかかわらず宮中の役人を呼んで冠を拾わせ頭にかぶった。
そした(これはこれは、ご乱暴な。どうしてこのようなひどいことをするのかご意見を聞かせてください)と穏やかに言いました。
実方は瞬間湯沸かし器的行動を恥じたか?逃げてしまいました」
「はぁ。どうした。どうした」
「陰で見ていた一条天皇は行政の冷静沈着な行動をたたえ、いっぽう実方の軽率さを不快に思い左遷させたという説があります」
「そしてみんなの忠告を聞けばいいのに道祖神の前を下馬しないで通って神様の怒りをかって死んだんですね」
「最後まで鼻っぱしの強い男だったんですね」
道祖神なんか関係ないなどと強がり言わないで世間の人の言うことに素直に耳を傾けた方が長生きできそうですね。