さてようやく芭蕉一行の旅立ちの地「千住宿」にやって来ました。
まず南千住駅を降りると早速駅前に芭蕉翁の像がありました。
更に1kmほど歩くと4号線に交差して素戔雄神社(すさおのじんじゃ)があります。
神社には江戸時代に近隣の文人たちが建てた「奥の細道」矢立初めの句碑が残されています。
舞殿
「行く春や・・」の句が載っている碑
4号線を北千住の方に向かって歩いていくと千住大橋が見えてきました。
芭蕉の時代もすでに木造の橋が架かっていて奥州方面に行く参勤交代などで賑わったそうです。
千住大橋
橋を渡って左折して川岸に降りてみました。
芭蕉一行は深川から船でやって来てこの辺に上陸したのでしょうか?
現在は恐ろしく無機質な場所になっていました。
護岸のコンクリートの壁にこの絵がありました。
折角芭蕉一行の旅立ちの場所なのにこれだけではあまりに淋しい。
足立区の観光協会はもう少し頑張ってテラスとか記念の観光施設を作ってもらいたい。
千住大橋のたもとにある石碑
「矢立」は墨壺に筆入れの筒のついた携帯用の筆記用具です。
何はともあれこの地より一行は奥の細道へ旅立つのです。
元禄2年3月27日(陽暦5月16日)芭蕉46歳、曾良41歳は心の旅に出立したのでした。
奥の細道(旅立)
弥生の末の七日、明ぼのの空朧々として、月は在明にて光おさまれる物から、不二の峰幽かにみえて、上野・谷中の花梢、又いつかはと心ぼそし。
3月も押しつまった27日、明け方の空はおぼろにかすんで月は有明で形も細く光も薄い。遠く富士山がかすかに見えて、上野・谷中の森も見え、あの花の梢もいつみられるかと思うと心細い。
むつましきかぎりは宵よりつどいて、船に乗りて送る。
親しい人たちは前の晩から集まり深川から同船して送ってくれた。
千じゅと云う所にて船をあがれば、前途三千里のおもひ胸にふさがりて、幻のちまたに離別の泪をそそぐ。
千住と云う所で船を下船していよいよ前途3000里の旅に出るのだと感慨で胸いっぱいになり涙の目に幻のように映る千住の街に惜別の涙が落ちるのだった。
行春や(ゆくはるや) 鳥啼き魚の 目は泪
もうすぐ春は行ってしまう。私も行くよ、遠い旅に。鳥が切なげに鳴き、魚の目が涙に潤んでいるのは、春と私、どちらとの別れを惜しんでいるんだろう。(長谷川櫂訳)
是を矢立の初めとして、行道なをすすまず。人々は途中に立ちならびて、後ろかげのみゆる迄はと、見送なるべし。
この句を旅の記の初めとして第一歩を踏み出したが後ろ髪が引かれる思いで先に進まない。人々は道中に並んで自分たちの後ろ姿の見える限りはと見送ってくれた。
「翁!長年の夢である奥州への旅立ちの時が来ましたね」
「ウン。病気にならないように気をつけていいもの書こうね」
「それにしても最初からぶち上げましたね。こんなに見送りの人が大勢いたのかな?」
「これは紀行文ではなく夢物語なんだよ。曾良さん、今後とも日記にあまり几帳面に書かないように注意しておきますよ」
「ところで深川のあばら家は高く売れたんですか?どこのリハウスに頼んだのかな」
「あばら家はひどいね。今度は小さな女の子のいるニューファミリーが購入してくれました。失礼がないようによく掃除もしてきました」
「目に見えるようです。翁がはたきを肩にかけ箒でサッサと畳をはいたりして」
「ついでに鼻歌交じりで、♪春一番が掃除したてのサッシの窓をほこりの渦を踊らせています。ワンツースリーお別れなんですぅ とか歌っていたら怖いですね」
「出だしからつまらないこと言ってますね。♪奥の細道からのお祝い返しは微笑みにして届けます。なんてついでに歌ったりして」
「おお怖ヮ」
「しかし旅の荷物が多くて困りました。これでもまだ足りないものがあるような気がします」
「途中で気がついたら、ありばば(天猫)にでも注文すれば腹の薬でもラクダでもすぐに届きますよ」
「そんな物いらないけれどありばばとはなんですか。アラブの盗賊みたいで反対に路銀でも盗まれるんじゃないかい」
「世界最大の通販サイトです。先日11月11日の独身の日には一日で2兆円近く売ったそうです」
「あまり難しいこと考えていても先に進まないからまず一歩」
「将来の人は20日に深川を出てなんで千住を出発したのが27日なんだと不思議に思っています」
「曾良さんが几帳面に日記に書くからだよ。僕はね深川を26日にでたとみんなが勝手に思わせよう工夫したのに」
「北千住の遊郭なんかでひと遊びしたと思われては困りますよね」
「芭蕉忍者説なんかもあるそうだから含みを持たせて日記に書いてね」
「近くに関東代官頭の伊奈家があるのでそこで仙台伊達家の内情を調査する命を受けたようなことを将来の人が想像するように一筆書いておきましょう」
「それがいい!インポッシブル!トムクルーズの世界だ」
「なに言ってるんだか」
「本当は日光街道が工事中で少し日程を延ばしただけなんだ。でも書くのよそう。将来の人の楽しみなくなるから」
「それでは出発!」
「いい日旅立ち、♪日本のどこかで我々を待っている人がいる」
「曾良さんのことなんか誰も待っていないよ。僕のこと皆期待してます」
「ごもっとも、あんたが大将!」