3月28日付 読売新聞編集手帳
経営学の権威で、
知日派でもあったピーター・ドラッカー氏は、
かつてワシントンで行った講演で日本の政策について次のように語った。
1950年以降、
先進国の政府が行った政策でうまくいった例は皆無だが、
「唯一の例外は日本です」と。
昨年に出版された
「ドラッカーの講義」(アチーブメント出版)で紹介している1991年の発言だ。
戦後日本の経済政策を高く評価しつつ、
こう付け加えた。
「今になって機能停止が始まっています」。
その後、日本ではバブルがはじけ、
金融不況やデフレで政策は迷走を続けた。
当時の見立ては残念ながら的中したようだ。
震災と原発事故に見舞われ、
政策はさらに無力になったと感じている人もいるだろう。
「どうせ政府なんて…」とあきらめてしまうのは慎みたい。
ドラッカー氏も、
政策の効果を信じない“皮肉屋”ばかりになるのは危険だと警鐘を鳴らしている。
不便な避難所生活をしている被災者に、
早く快適な住居を用意できないか。
放射能の影響が心配な乳児に安全な水を送れないか。
あきらめるのではなく、
政府の背中を絶え間なく押しつづけていたい。