4月12日付 読売新聞編集手帳
日本の風土から生まれたというよりは、
西欧産の輸入語めいた香りの漂う
「愛する」という言葉を嫌ったのはコラムニストの故・山本夏彦さんである。
「愛する」が日本語になるには、
百年や二百年はかかるだろう――と。
「百年や二百年」の時間を、
この大震災が縮めたのかも知れない。
愛する家族、故郷…山本さんが存命でも、
おそらくはもう抵抗を感じない日本語だろう。
このひと月、
胸を突かれた記事を切り抜く暇のないまま、
破ったなりに机へ積み上げてある。
岩手県宮古市、
昆(こん)愛海(まなみ)ちゃん(4)の記事(本紙3月31日付)は何度、
手に取ったか分からない。
両親と妹が津波にさらわれた。
親戚の家に身を寄せた愛海ちゃんは、
こたつの上にノートをひろげ、母親に手紙を書きはじめたという。
「ままへ。
いきてるといいね
おげんきですか」。
1文字ずつ、色鉛筆で1時間ほどかけて書いたといい、
そこまで書いて疲れたのだろう。
ノートを枕にすやすや眠る、
あどけない寝顔の写真が載っている。
きのうも強い揺れが東日本を襲った。
愛する人を奪い、
奪われた人をおびやかす。
いいかげんに、もうよせ。