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「災中」を生きる

2011-04-03 09:03:18 | 編集手帳

  

  3月29日付 読売新聞編集手帳



  昨年90歳で亡くなった歌人、
  竹山広さんに一首がある。
  〈歳月を数ふるにわれら戦ひに敗れたる日をはじまりとせり〉。
  日本人は「戦後×年」という数え方で歳月の里程標を刻んできた。

  3・11を境に「戦後」は終わり、
  「災後」がはじまる――
  政治学者の御厨貴(みくりやたかし)さんが本紙に寄せた文章にそうある。
  政治の姿も、
  経済の仕組みも、
  暮らしも一変せざるを得ない、
  との指摘には多くの人がうなずくだろう。

  原発危機が終息に向かうかどうかは予断を許さず、
  1万人を超す不明者の安否も分かっていない。
  厳密には「災後」の手前、
  「災中」にある。

  原発の事故現場では、
  いまこの瞬間も被曝(ひばく)の危険と隣り合わせで、
  放射能の汚染水と闘う作業員がいる。
  母親(81)が津波にさらわれて行方不明のまま、
  別の被災地で捜索活動に従事する自衛隊の1等陸曹(49)は本紙に語っている。
  肉親を案じるつらさを痛感しているので、
  「あと少し頑張れば、
   もう少し下まで掘れば見つかるんじゃないか。
   そう思うと手が止まらない」と。

  あなた方がいるから「災中」に耐えられる。
  いまだ明日の見えない今日を、
  何とか生きていける。
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