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ボクたちがいるよ

2011-04-06 21:15:41 | 編集手帳
  4月3日付 読売新聞編集手帳



  芥川賞作家で読売新聞の先輩記者でもあった日野啓三さんは、
  大病の際に薬の作用で異様な幻覚を見た。
  さすが小説家はそんな体験も冷静に味わって
  「東京タワーが救いだった」と題した短編を書いている。

  病室から見える景色が奇妙に変化(へんげ)する中で、
  東京タワーだけは不変と確信でき、
  意識をつなぎ留めてくれたそうだ。
  そのタワーが曲がるとは――
  亡き日野さんも、
  今回の巨大地震の凄(すさ)まじさには驚いているだろう。

  震災発生の日はむしろ、
  東京スカイツリーの建設現場は大丈夫か、
  と心配した人が多かったかもしれない。
  なにしろ地上から500メートル付近にクレーンを据え、
  工事が進行中である。
  あれほどの揺れで被害がなかったのは技術の成果ではあろうが、
  肝を冷やした。

  記事は目立たなかったものの、
  スカイツリーは着々と成長を続け、
  震災の1週間後に頂点の634メートルに到達したという。
  頼もしいことだ。
  被災地で「ボクたちがいるよ!」と大人を励ます、
  若者の姿が重なって見える。

  もちろん東京タワーも遠からず、
  曲がった先端をぴしっと立て直すはずである。
  タワー世代も、
  くじけてはいられない。
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