4月10日付 読売新聞編集手帳
〈リーダーとは希望のディーラーである〉。
ナポレオン皇帝の言葉とされる箴言(しんげんの一つだ。
トランプの札を配る親をディーラーと呼ぶため、
「希望を配る人」と訳されることが多い。
「希望を扱う商人」という邦訳もあるが、
あながち悪い意味ではなかろう。
天と民、
あるいは民と民とを結ぶ、
「希望の特約代理人」といったニュアンスだろうか。
いずれにせよ、
政治のリーダーに今、
求められるものをこれほど端的に示す言葉はない。
大震災から1か月の節目を前に、
きょう10日、
東京をはじめ12都道県の知事選などで投開票が行われる。
未曽有の災厄が収まらぬ中、
いや、進行中に実施される統一地方選挙である。
被災地の苦境を慮(おもんぱか)って、
静かな舌戦だった。
ただ、候補者名を連呼するだけの選挙カーが減ったのは良いとしても、
“自粛”が投票率の低下となって表れるようでは困る。
震災の影響は、
これから日本中のさまざまな分野でじわじわと、
確実に顕在化してくる。
災い転じて福となすほどのビジョンを示してくれる「希望のディーラー」が必要だ。
1枚の投票用紙が、
かつてなく重いものになるだろう。