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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル

2012-01-01 22:34:38 | 映画(ま)

評価点:73点/2011年/アメリカ/132分

監督:ブラッド・バード

イーサンというよりトム映画。

ロシアに収監されていたイーサン・ハント(トム・クルーズ)は新たな指令を受けるために強制的に脱獄させられる。
言い渡された指令は、核兵器の解除コードが盗まれたので、奪い返せというものだった。。
クレムリンに侵入し、その首謀者「コバルト」の正体を暴くという「達成困難」なミッションである。
クレムリンに侵入することに成功したイーサンのチームは、コバルトのデータが既に盗まれていることを知る。
危険を察知したチームは脱出に成功するが、発射装置が盗まれてしまう。
クレムリンは爆破され、その主犯としてイーサン率いるIMFであることにされてしまう。

言わずと知れた、御歳49歳になるトム・クルーズの人気スパイアクション映画である。
ほとんど映画を見ない人も、この映画だけは見たことがある、観に行きたいと考えている人も多いだろう。
特に親日派で知られるトムだから、年末の映画商戦の話題にもあがってくる。

もうそろそろ引退では……と僕などは思ってしまうわけだが、そんな周囲?の不安をよそに、彼はスタント無しでスタントシーンをこなしてしまった。
監督は「ミスター・インクレディブル」のブラッド・バード。
絶対に成功させなければならないシリーズの映画を監督する、という火中の栗を拾ったのは、実写映画をあまり撮ったことのない「素人」に依頼することになった。

さてさて出来のほうはいかがなものか。
ここで何を書こうとも、何点でも、観に行くしかないでしょう、もはや。

▼以下はネタバレあり▼

シナリオがすごくしっかりしている、そんな印象を受けた。
また、演出も、監督がピクサー出身であることもあり、安定感がある。
映画としてはなかなかの出来ではないだろうか。

スパイ映画の原点回帰である。
敵にも味方にも気付かれずにミッションを遂行する。
その華麗な技術と驚くべきアイデアで絶対に不可能であろうミッションを、笑いを交えながら見せていくことに、素直にわくわくできるだろう。
今回の特徴は派手なアクションではなく、演出に特化させることで、はらはらわくわくを出している。

端的なのは予告でもさんざん流されている、世界一のビルの壁を上るシークエンス。
吸い付くグローブの調子が悪くなり、しかも砂嵐と標的の接近にもかかわらず、ガラス壁を上っていかなければならないという「不可能作戦」。
人間業とは思えないアクロバティックな動きで見せようとするアクション映画において、こちらはぎりぎりのわくわく感、もっと言うなら「感情移入の余地」を残している。
絶対にあり得ない、と引いてしまうのではなく、きちんと感情移入できるのだ。
だから、これまでの作品とは違い、「あり得ないことをあり得るように見せる」演出は見事である。

ストーリーのまとまりもよい。
セルビア人に殺されたイーサンを護衛していたウィリアム・ブラント(ジェレミー・レナー)のくだりは、いかにもスパイ映画らしいものである。
妻を殺されてしまった悲しみをみじんも見せないイーサンの深さに感動した人は甘い。
妻を殺されてしまうという事件解決への感情的なモティべーションを、あっさり明かしたりはしない。
結局これはイーサンのしたたかさを示す伏線だったわけだ。
実際には、妻を殺されてしまったと内外に見せかけることで、妻を証人保護プログラムに載せ、かつ復讐のために殺人を犯したということで、ロシアの刑務所に堂々と入ることができる。
すべてはヘンドリクスをとらえるための作戦だったわけだ。

遠いところから見守ろうというイーサン・ハントのジェントル・スパイぶりをこの映画は貫いているわけだ。
だから、仲間を裏切らないし、チームを大切にする。
これまでのたった一人で不可能作戦に挑むというスタンスから、後輩を育てる、周りと共存するという方向性にシフト・チェンジしている。
エンターテイメント性にすぐれ、なおかつ人間味あるハント君の活躍は、映画としての完成度も高い。
安心して観られる映画だろう。

けれども、どうしても僕は満足できなかった。
それは一つにして、あまりにも「スマートすぎる」からだろう。
ジェットコースターを進むような計算されたスリリングさは嫌いではない。
しかし、どこか作られた印象をぬぐい去れない、引いた目線で観てしまう自分が片一方でいる。
その理由はすべてが演出めいているからだろう。

テーマにしてもそうだ。
陰で守る組織と、ヒーロー。
それはとてもかっこよいものだが、すべてを見透かして物語を進めていく今回のイーサンに「ぎりぎりさ」は実はない。
ヘンドリクスについては妻を殺された(と演出した)時から、すでにマークしていたわけで、今回の事件もイーサンにしてみれば起こるべくして起こったことになる。
終始一歩上を行くイーサン・ハントを演出することによって、「」にあったような「どうしようもない危機」とは一線を画している。

そもそも「今後IMFからの援助は一切ない。」といいながら、その未来型列車に残された武器や機材が多すぎる。
もはや、「007」の様相を呈している。
世界をまたにかけながら、狭すぎる世界観も無理がある。
ヘンドリクスがなぜあんなに大胆に核兵器を盗めたのか、という点についての設定も甘い。
穴を探し出すときりがないほど、「おかしな点」がたくさんある。

さて、その上ラストのシークエンスが決定的だった。
陰ながら妻を見守っているエージェント(中盤から読め読めだったけれども)の姿は「ナイト&デイ」のトムそのものだ。
そのキャラクター設定はイーサン・ハントではなく、トム・クルーズなのだ。
これまでのシリーズ「M:I」の「4」をつけなかったのはそのためだろう。
もはやこれは「M:I」シリーズではなく、新しい米国版「007」なのだ。
アクションをすべてトム・クルーズ本人がこなしているというエピソードも、イーサンをトムに同化させるには十分な効果がある。
つまり、これは歴代のトム・クルーズ映画に立脚した映画なのだ。
だから、どこか消化不良で、おもしろいけれども「それだけ」の映画になってしまっている。

2011年のしめくくりは、この映画か……。
来年ももっといい映画を観よう。


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