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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

ジョンQ最後の決断(V)

2008-05-24 21:37:07 | 映画(さ)
評価点:73点/2002年/アメリカ

監督:ニック・カサベテス

息子の命を救うために罪を犯すというモラルジレンマを描いた作品。

ジョン(デンゼル・ワシントン)は典型的な低所得者であり、半日しか勤務させてもらえないほどに、困窮した生活を送っていた。
ある日息子のマイクが少年野球の試合中、胸を押さえて倒れた。
すぐに救急車で運ばれたが心臓移植以外に助かる方法はない。
しかし手術には25万ドルという大金が必要だった。
しかも、心臓移植の待機リストに登録するだけでも、7万5千ドルの大金が必要だと告げられる。
低所得者であるジョンは満足な保険にも加入できなかったため、保険が降りない。
あらゆる手段で現金をかき集めるが、どうしても足りない。
みるみるうちに衰弱していく息子の様子を堪りかねたジョンは、医者のターナー(ジェームズ・ウッズ)に銃を突きつけ、病院を占拠、息子をリストに載せるように要求する。

現代のアメリカの繁栄の陰に潜む低所得層の実態を鋭く描いている作品。
あまり知られていない(?)が、アメリカは貧富の差が非常にあり、まだまだ黒人には冷たい社会である。
経済大国や軍事大国としてのイメージが強いが、現実はこの映画のように、いや、差別や人権に関しては、この映画以上に劣悪な環境だろう。

▼以下はネタバレあり▼

物語としては、泣かせどころの多い展開であり、ある種の典型だ。
典型ではあるが、うまく描いているといえるだろう。
ジョンの素性を丁寧に描くことで、ジョンを「悪人」というよりも「被害者」として観客の同情を買うことに成功し、ジョンの焦りや怒りをわかりやすい形で見せている。
その際、子供との愛らしいやり取りが思い出され、より観客は世界に引き込まれていくのであろう。

作品に流れているテーマは、大衆対権力という非常にわかりやすく、またアメリカ映画では「永遠のテーマ」である。
それに加えて、最近ますますオヤジくさくなって、役者としての深みを増したデンゼル・ワシントンが主演とあって、完成度が高く、また安心して「泣ける」作品になっている。

しかし気になる点がいくつかある。
まず、ひとつめは女院長の心情の変化である。
「リストに書いたって嘘をつけばいい」という提案にあっさりとのり、しかも自ら「五千万人もいるのよ」と非情な言葉を発していた院長が、
夫婦の会話を聞いていただけで涙を流し、リストに載せてしまうほどの心変わりをしてしまうのはどうしても解せない。
なにか特別のエピソードがない限り、彼女の変化に説得力を与えることは不可能だろう。
しかも彼女の変化が映画的にもっとも重要なポイントであるはずなのに、すこし雑な描き方だ。

ふたつめは大したことはないが、人質の饒舌な黒人の言動だ。
「自殺する」と言い出したジョンに対して、
いきなり、優しく「それは神にそむく行為だ」なんて御名を出されては、「あなたいつからキリスト教徒?」といいたくなる。

三つめには、診察室や手術室のビルと病棟のビルの距離だ。
アメリカの病院の実態を調査したわけではない僕としては、詳しいことは知らないが、なぜ離れているのだろうか。
てっきり僕は病棟のすぐ下で占拠したのだと思っていたが、違っていたらしい。
出来たらどれだけ離れているのかさりげなく見せてほしかった。
そのほうが、やりとりに明確さが出たはずだ。

最後に、落ちとの兼ね合いだ。
冒頭から随時挿入されていくドナーの行方は映画の結論が読めてしまい、最終的に「ハッピー・エンド」がばれてしまっている。
もちろんそれでも構わないが、ジョンが自殺するかもしれない、という物語最大の見せ場が死んでしまう。

結末が読める、という要素は他にもある。
銃で人質をとったにもかかわらず、全然発砲しない。
これで「こいつ弾込めてないな」ということがわかる。
この時点でこの映画に何を求めているのかという作り手の意思が、垣間見えることになり、結末がバッド・エンドになり得ないことがわかる。

終幕の見せ方も悪い気がする。
間に合ったか、間に合わなかったかを手術室のシーンまで引き伸ばすが、全く意味がない。
先ほどまでに書いたこともあって「間に合わないわけがない」と思える僕としては、
ドナーがいたことを知った時に見せるジョンの表情の方が見たかった。

全体としては申し分ない出来だが、詰めが甘い。
これでは僕に涙を溜めさせることはできても、涙を流させることはできない。

それにしても、ほんとにこういう大衆が勝つ映画、アメリカ人好きだよね。
モラル・ジレンマをテーマにしているにもかかわらず、ジョンが殆んど「正義である」という描き方は、ちょっとやりすぎだと思う。
単純すぎて重みがない印象を受けてしまう。
アメリカ人的には、まあ、それでいいのだろうけれど。

(2003/04/20執筆)

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