子供のころ、年末年始の深夜にテレビで放映される名作映画を見るのが、とても楽しみでした。
今と違って家庭用ビデオやレンタルショップなんてありませんでした。
映画を観る機会なんてそうそうあるものではなく、せいぜいテレビで映画番組を観るくらいだったなあ。
小学校の頃にやっていた映画番組は、月曜(月曜ロードショー)、水曜(水曜ロードショー)、金曜(ゴールデン洋画劇場)、土曜(土曜映画劇場)、日曜(日曜洋画劇場)。週に5日もあったんですね。
番組がはじまるのは夜の9時からでしたが、9時には就寝、というのは厳しく決められていて、特別なことでもない限り夜更かしは許して貰えなかったんです。
夜更かしを大目に見られていたのが、年末年始でした。
その時期になると、連日深夜に名作映画が放送されるんです。
だから、有名な映画や有名な俳優の名前を新聞のテレビ欄で見つけると、「早く夜中にならないかなぁ~」なんてことを考えたものです。
夕方以降、時間の経つのがなんと遅く感じられたことか。
その年末の深夜にテレビで見たのが、「太陽がいっぱい」です。
意表をついた結末にはとってもショックを受けました。
そしてだいぶ年を取った今でも、この作品を繰り返し見ています。
まったく色あせない、素晴らしい映画だと思います。
マリー・ラフォレ(左)、アラン・ドロン(右)
モーリス・ロネ(左)、アラン・ドロン(右)
色鮮やかに映し出されるナポリ、モンジベロなどの街、真っ青な海、まぶしい太陽・・・。
風景だけでもとっても印象に残ります。
ニーノ・ロータによる物悲しさを秘めたテーマ曲も、映像にぴったりマッチしてますね。
アラン・ドロンを見て、子供心にも「こんなハンサムな人がいるんだ」と驚きました。
いや、「驚いた」なんて生易しいものじゃなかった。一種の衝撃でしたね。
そしてマリー・ラフォレの大きくて美しい瞳にもウットリしたものです。
とっても毅然とした目をしてるんですねぇ、マリーは。
この時の彼女は、なんとまだ18歳! それであんな雰囲気を出すなんて、これまた衝撃です。
もし一緒にいたとしても、きっとぼくは気おくれして、アプローチどころか絶対に声すらかけられないと思いますね。
マリー・ラフォレとアラン・ドロン
たいへん有名な作品です。
映画史上に残る名作だと思います。
ぼくが惹き込まれたのは、フィリップを殺してからのトムの行動です。
完全犯罪を目論んで一瞬だけ成功の美酒を味わうのですが、同時にそれは破滅へと向かっていることでもあります。
「才走る」という表現がぴったりのトムを、ドロンが好演していますね。
第二の殺人を犯した直後、平然とチキンを平らげるところでは、二度と引き返すことができない暗い深みにどっぷりはまるトムの心情、そしてトムの持つ冷酷さがよく出ていたように思います。
完全犯罪成功の美酒に酔うアラン・ドロン。このあと思わぬどんでん返しが。
それから、何もかも見通しているようなリコッティ刑事の目つきも鮮明に記憶に残りました。
小さい頃ワルイことをして、それがバレるのがこわくて、ウソをついたり隠そうとしたりしますが、内心いつバレるかヒヤヒヤしますよね。ぼく、この映画を見ると、そういう気持ちを思い出すんです(笑 )
ちなみにこの映画の原題「Plein Soleil」の意味は、「お天道さま(神さま)は見ているよ」、つまり「悪事は隠せない」というニュアンスなんだそうです。
左から モーリス・ロネ、マリー・ラフォレ、アラン・ドロン
◆太陽がいっぱい/Plein Soleil
■公開
フランス 1960年3月10日
日 本 1960年6月11日
■製作
フランス=イタリア合作
■監督
ルネ・クレマン/Rene Clement
■音楽
ニーノ・ロータ/Nino Rota
■原作
パトリシア・ハイスミス/Patricia Highsmith 『才人トム・リプリー君』/The Talented Mr. Ripley
■出演者
アラン・ドロン(トム・リプリー)
マリー・ラフォレ(マルジュ・デュヴァル)
モーリス・ロネ(フィリップ・グリーンリーフ)
ビル・カーンズ(フレディ・マイルズ)
エルヴィーレ・ポペス(ポポヴァ夫人)
エルノ・クリサ(リコルディ刑事)
フランク・ラティモア(オブライエン)
ネリオ・ベルナルディ(ボルディーニ)
ニコラス・ペトロフ(ボリス)
ジャクリーン・ドカエ(イングリッド)
ロミー・シュナイダー(フレディの連れの女性:カメオ出演)
■上映時間
118分