♪ジュゼッペ・タルティーニ(1692~1770)
人間は眠っている時に「夢」を見ます。
夢や眠りのメカニズムに関しては、解き明かされていないことも多いんだそうですね。まだまだ未知の分野、ってことでしょうか。
だからこそ、「正夢」とか「予知夢」の話を聞くと、いっそう神秘的な気分になるわけですが。
「夢」からヒントを得て何かを発明した、という話もありますね。
有名なのが、蒸気機関を発明したことで知られるジェームス・ワットにまつわる話です。
当時、猟銃に使われる鉛玉の製造作業はとても面倒で、しかも不完全なものだったそうです。
ワットがこの製造法に頭を悩ませていた頃、一週間続けて同じ夢を見ました。激しい雨の中を歩くワットに降り注ぐものが、実は小さな鉛玉だった、という夢です。この夢に従って、溶けた鉛をある高さから水の中に注ぎ込んだところ、見事に理想的な丸い玉になりました。
この日以後、すべての鉛弾は、溶かした鉛を水中に落として作られるようになったそうです。
夢の中で聴いた音楽を再現した曲、というものもあります。それがジュゼッペ・タルティーニ(1692~1770)の作曲したト短調バイオリン・ソナタ ト短調「悪魔のトリル(Devil's Trill sonata)」です。
こういう話が伝わっています。
1713年のある晩、タルティーニは夢の中で悪魔に「お前の魂を売ってくれ」と言われました。
恐ろしさのあまり同意してしまったタルティーニですが、悪魔が「お礼になんでも願いを叶えてやろう」と言うので、悪魔がどういうふうに演奏するのか見たいと思い、悪魔にバイオリンを渡してみました。
悪魔は超人的な技巧で、人間世界ではとうてい聴くことのできないと思われる美しい音楽を奏でました。そしてタルティーニは、悪魔の妙技に心を奪われてしまったのです。
悪魔の演奏に魅了されたところで目が覚めたタルティーニは、すぐさま夢の中で聴いた音楽を楽譜にまとめようとしますが、悪魔が演奏したとおりの曲を書くことはついにできませんでした。それでもその時に残した曲は、タルティーニの書いた作品の中でもひときわすぐれたものとして評価されています。
タルティーニは自ら、この曲に「悪魔のトリル」というタイトルをつけました。
(注:近年の作風研究により、この曲は実際には1740年代後半以降に作られたのではないかと言われている)
ぼくは、ワットにしてもタルティーニにしても、あることに没頭し、ひたすら考え続けたからこそ、ひらめきが「夢の中」で起きたんじゃないかな、と思うんです。
こういう不思議な話は、理屈ではなくて、心惹かれるものがあります。「夢で発見した」というほうが話としては面白いですからね。
いずれ「夢」が科学的に解明される時がくるでしょうが、それでも「あんな話、デタラメです」なんて頭ごなしに無粋に否定されないでほしいものです。科学的な正誤は別にして、こういう話が残っているほうが世の中面白いですからね。
Angel With Violin