河口公男の絵画:元国立西洋美術館保存修復研究員の絵画への理解はどの様なものだったか?

油彩画の修復家として、専門は北方ルネッサンス絵画、特に初期フランドル絵画を学んできた経験の集大成を試みる

はみ出し者の生き方Ⅱ

2017-11-29 00:21:47 | 絵画

絵を描くことは非常に個人的なことだ。自分を描き表すことはほとんど不可能に近いが、絵を描こうとすると自分の感性や思いに左右され、自律してることに気が付かねばならない。

だから自分を敬い大切にしなければならない。己の心の世界は他人のそれと一緒にならない。だから感性を信じて強い意志で、守り抜かねばならない。特にこの国の集団の価値観に迎合しないことだ。そこではみ出して孤立することを恐れてはいけない。時流に流されてはいけない。もはや19世紀末から20世紀にあったイズムの表現は一時的な社会背景で終わっている。個人の時代には、情報に惑わされずに、自分で選択する、つまり決意することが自分を作り育てるのだから。

絵を描く人であるなら、他人と比較して、差を感じてはいけない。自分は自分なのだ。周りに認められたいと思わないことだ。もし優れたものがあれば、認める人もあるだろう。しかし認められても、それは何だろう?

 

もし絵が描けるなら、金のために働かない。食い物もそこそこで良し。制作に没頭している時には、食事もしたくなくなるはずだから。

自分で言うのもなんだが、子供のころから親の言うことは聞かなかった。聞いているふりはしたが。私は頑固で、自分を通そうとする素質があったのだ。ベルギーに留学を決めた頃、親にA4の紙に1cm以上の厚さになるほどベルギー留学の目的と国情から生活費にいたるまで案内を小論文にして提出した。それでも反対していた親は近所に住む鹿児島大学の教授や鹿児島ではちょっと有名な霊感占いをする尼さんのところに私を連れて行って、意見を聞いた。霊感占いの先生は私に会うなり、「この人は如何なる障害があっても、人の言うことを聞かずにベルギーに行くであろう」と私に都合の良いご託宣をしてくれたのであった。「人の言うことは聞かない」というのが一番心に残った。東京造形大学を中退してベルギーに行くのだから、反対は当然であったが、現代美術の学校よりフランドルの古典絵画が身近にあることがどれほど大事であったであろうか。どっちみち日本で大学を卒業するにも費用が掛かるのだから、その分を出資してほしいと頼んだが、「じゃあ卒業するまで、学費は出しましょう」ということで落ち着いたが、たった2年間で卒業してしまって「約束ですから、これで仕送りはおしまいにさせていただきます」と母から手紙が来た時には少し焦った。で、その後、仕送りした金を返せと言われて・・・・約束が違うと言い張ったが、350万くらいとられた。(ある時は450万円仕送りをしたとか言っていた)おかしい。2年間で、月に3万円ぐらいの仕送りで・・・・350万円とは。出かけた当時のフライトチケット代11万円は私がパチンコで貯めたお金だったし・・・。最近まで父親は「お前には給料の三分の一仕送りしてやった」と言う。「ちょっとお父さん!!あなたの給料は月9万円でしたか?」。結局私は8年以上ベルギー、ドイツにいたのだが、周囲の助けもあって、かろうじて生活費は稼げた。実は最初の2年の仕送りの半分を貯金しておいて、生き永らえたのだった。しかも帰国時には10万円ももっていたのだから・・・・。何とかなるより、何とかする!!

 

いまの私は独り者だ。結婚も出来なかったし、子供もいない。背負う負担がない。あると言えば24匹の猫(23匹だと思っていたが・・・)が、私の年金を食べている。医療費も私よりかかっている。彼らは誰かが守らねばならないから仕方がない。問題は彼等より先に死ねないということだ。貯金は減る一方だが、無くなったら餓死することにしている。(その時は一緒に死んでくれ)お金がないころ、孤独を感じたことがあった。恐ろしく寂しく、死が近いと思った。翌日も生きていて、その孤独もつい忘れてしまった。錯誤して恐怖を感じるより、目の前で本物の恐怖を感じて死ぬ方が人間らしい気もする。さみしくても人は誰かを道連れにすることはできない。もし飛行機事故などで大勢と死んだとして、寂しくないと思うだろうか?「死」は友達であらねばならない。

生涯をを独身で過ごす人は、その人だけの役割があるのだそうな。なにせ負担がないことを有難く思わねばならない。この年になって、自由なのだから。自由こそはみ出し者の基本だ。

実は定年を迎える前に、様々準備をして浜田に引っ越してきた。残りの一生分の画材は使い切れないほど、絵具、顔料、溶剤、カンヴァス、画板など。絵を描く仕事場は小さくなって15分の1しかないが、小さい作品しか描いていないので、良しとする。それより猫たちを排除して、毛が画面に着くことを心配しなければならない。

今年はカメムシが部屋に多く入ってくる。この虫は英語でstinkbugと言うらしいが、臭い。カメムシが多い年は雪が多く降るのだそうだ。絵の中に雪があると面白いかも。