テレビのコマーシャルで「相撲取りの遠藤」がお茶漬けを食べ、どんぶりから最後をかき込むと「うぇー!」と一声を出す。私は「あちゃー、こりゃいけん!」とチャンネルを変えた。遠藤は若くハンサムで人気上昇中だったが、それから二度と応援しなかったし、永谷園の茶漬けも食べなくなった。そう言えば、この国ではビールを飲んでも「んぅー!!」とか言う人が多い。特にこの国の飲食時の反応は、外国から来たクーリエ(美術品の添乗員)の接待時には要注意だった。皆目を白黒させる。口に食べ物を入れて、そのまましゃべると時々小さな食い物が飛んで出る。ヨーロッパのほとんどの国では「一度口に入れたもの」は出してはいけない。ブドウの種、魚の骨でも・・・・一度口に入れたらそのまま飲み込まなければいけない。招待された席では尚更である。
イギリスのラファエロ前派の展覧会で久留米のブリヂストン美術館に着いた夜、夕飯にイギリスから来た女性を連れて行き、皆で珍しいものを注文して、女性に出した。「これはナニですか?」と聞かれて、みんな英語の単語が分からなかった。ポケット辞書を引いて、「シーアネモニ」だと答えた。私も食べたことがなく「有明海の珍味」だと言われて一口食べたら・・・こりゃなんじゃ!!の代物。皆はその女性に「たべて、たべて」と勧めたら涙目になってグスンになった。「いやいや、食べなくていいよ、いいよ」と言ってももう遅い。実はそれは「イソギンチャク」だった。正直、おいしくない!!私も涙目でグスればよかった。
イギリスでは食事を勧められたら「断れない」「まずくても必死で食べる」のが礼儀なのだ。実に可哀そうなことをした。彼女は「図鑑で見たことがある」と申し訳そうにしていたので・・・本当に悪いことをした。
ある時、やはり海外からのクーリエを上野の「薮そば」に連れて行ったとき、注文して出てきたざるそばを見て「私は食べれません」と言って手を付けなかった。そこに奥から職人がが出て来て「うちのソバ食えねぇのならくるなー」と怒鳴ったのだそうだ。私がいたら殴ってやったのだが。客に対して余りに失礼で、えらそうにするなと思うから、二度と薮そばには行かなくなった。イギリス人もフランス人も食べ物を「ちゅー」と吸い込むのが出来ない。そういう食べ物が無いのだ。しかもすすれば音が出て、背筋がゾクッとしてあり得ない反応をする。
なんでこんな話を書くのか?と言われれば、今日の夕飯は台所で立ったまま、行儀も悪いが「そうめん」をずずーっとすすって食べたのだ。周りには猫しかいないから、ずずーと音が猫達にも気になるほど立てて食べた。そして食べたあと「うふぁー!!」とやった。どうだい!!これぞ独居老人のマナーだ。しかし人前ではやりません。