すっかり秋も深まり、ようやく制作に向く季節に入ってきた。昨晩、絵画作品の下絵を描いていると、三女の呼ぶ声がした。 「パパァーッ、ゲッショクが始まっっているよぉーっ!」 いけね、すっかり忘れていた。今日は皆既月食が観察できる日だった。あわてて、工房の窓を開けると電線越しに見慣れないようすの月が漆黒の夜空にポッカリと浮かんでいる。赤銅色と言うのだろうか、何とも言えない色合いでとても幻想的である。
月食(げっしょく)とは英語でLunar Eclipseといい、地球が太陽と月の間に入り、地球の影が月にかかることで月が欠けて見える現象のことで満月の時に起こる。全ての部分が影に入る場合を皆既月食・Total Eclipse、一部分だけが影に入る場合を部分月食・Partial Eclipseという。日食と違い、月が見える場所であれば地球上のどこからでも観測・観察することができる。あわてて野鳥観察に使用する地上用望遠鏡を三脚にセットし、接眼部にデジタルカメラを取り付けてバシャバシャと撮影を始めた。大気の澄んだ冬の満月などはこの方法でクッキリと撮ることができるのだが、今晩は微妙な光量の月食が相手である。暗い上に倍率が高いので当然シャッタースピードが遅くなる。なかなか思うようなカットが撮影できなかった。
夢中で撮影してから、一休み。しばらくボーッとオレンジ色に鈍く輝く月食を眺めていた時、ある映像が脳裏をよぎった。フランスのジョルジュ・メリエス監督のモノクロ・サイレント映画『月世界旅行』である。1902年、20世紀初めに制作された世界初のSF映画とされている。6人の天文学教授が月への探検旅行に行くストーリーだが、乗り込んだ砲弾型ロケットが人面のついた月の右目に着弾するショットはあまりにも有名である。月面を探検する6人の前に月人が現れ、闘争となるが振り切って、砲弾型ロケットにもどり無事地球に帰還するというショート・ストーリーだ。現代の目で観ればなんとも稚拙なSF映画だが、アポロのアの字もない時代、よくもまあこんな想像力を膨らませたものである。
日食と違い月食の発生頻度は低い。一年に2回起こるか起こらない年、3回起こる年もある。次回の観測予想は来年の4月頃になるようだ。その時までに月の撮影の腕を磨いておくことにしよう。画像はトップ、下とも、8日に撮影した月食の画像。