長島充-工房通信-THE STUDIO DIARY OF Mitsuru NAGASHIMA

画家・版画家、長島充のブログです。日々の創作活動や工房周辺でのできごとなどを中心に更新していきます。

238. 『赤い鳥をさがして-In search of Red Birds-』 ①八ヶ岳倶楽部周辺

2016-03-26 20:40:05 | 野鳥・自然

2月、3月と冬の野鳥ネタが続く。今回、ブログは何やらベルギーの作家モーリス・メーテルリンクの童話『青い鳥』のようなタイトルがついている。主人公のチルチルとミチルの兄妹が幸福の青い鳥を探して過去や未来の国に旅をするが見つけられず結局、自分たちの最も身近なところにある鳥籠の中にいたという有名な物語である。今回の旅がこんなにロマンチックな内容というわけではないが美しい鳥を探しに行ったことには間違いない。

寒さが本格的になって来た頃、古い鳥友でもある連れ合いが突然、「ねぇ、今年の冬は赤い鳥を探しに行かない?」と言いだした。『赤い鳥』とバーダー(野鳥観察者)たちが呼ぶのは外国の珍しい飼い鳥のことではなく、スズメ目アトリ科の野鳥の中のベニヒワ、コベニヒワ、ハギマシコ、アカマシコ、ナキイスカ、イスカ、オオマシコ、ベニマシコ、ウソなど羽衣が赤い羽、あるいは部分的に赤色が混じる小鳥類の総称である。中には日本の北部で繁殖する種もいるが、ほとんどは秋冬に大陸や日本列島より北の地域から越冬のために渡ってくる種が多い。これに対してコルリ、ルリビタキ、オオルリといった羽衣が青い小鳥類も人気があり、『青い鳥』などと呼ばれている。

『赤い鳥』は日本の野鳥を主題とした版画シリーズでもぜひ制作しておきたいグループでもある。渡りに船、「そうだね、ひさびさに版画の取材も兼ねて探しに行ってみよう」ということになり、場所をどこにするかということで、あそこでもない、ここでもないと候補地を上げているうちに、さらに連れ合いが 「去年の秋に野鳥の会の本部でお話しを伺った柳生博会長がオーナーの八ヶ岳倶楽部はどう?あそこはオオマシコが渡って来ることでも知られているし…」ということになり、ここと少し先の清里高原を結んで「赤い鳥探し」の旅へと出ることに決定した。

先月22日。早朝4時代に家を出発、千葉県内から1日1本だけ出ているという中央本線に乗り入れる特急に船橋駅で乗り継ぎ一路、小淵沢駅まで向かった。八王子を過ぎ、しばらくすると車窓からは裏高尾の山が間近に見え、さらに進むと奥多摩、大菩薩の山並が見えてくる。そして山梨県に入り長坂あたりまで来ると奥秩父や南アルプス、八ヶ岳、そして富士山など山梨県を代表する高山が出迎えてくれた。この辺りは学生時代ワンゲルまがいのサークルを同級生と作って、よく登った山域である。移り変わる景色を眺めているうちにあっと言う間に小淵沢駅に到着。ここでローカル単線の小海線に乗り換える。ゆっくりと山麓の雑木林や別荘地を走り抜け、わずか3駅で目的の「甲斐大泉駅」に到着。スマホを見ると10時13分、家を出てから5時間半ほどたっていた。電車を降りるとヒンヤリと山の空気が冷たい。駅の北側にはどっしりと八ヶ岳がそびえているが思いの外積雪が少ない。ちょっと嫌な予感がした(理由は後で書きます)。

明日は1日、清里高原の森林を歩き回る予定なので、コンビニに食糧や飲み物を調達しに行くことにした…ところがコンビニが遠くて坂道だったため、この往復に時間がかかり、一汗かいてしまった。八ヶ岳倶楽部まで歩いて行く予定だったが少しでも時間を稼ぎたいのでタクシーを利用する。ドライバーに最近の天候のことなど訪ねているうちに倶楽部入口に着いた。事前に連絡していたスタッフのK氏が迎えに出て来てくれて敷地内を案内してくれると言う。荷物をレストランに預けて林に作られた枕木の周回路を1周する。カラ類の声、アカゲラの声、頭上を飛ぶイカルの群れなどが確認できた。林の中に点在する「ステージ」や「ギャラリー」と名付けられた木造の山小屋のような施設などを丁寧に案内していただいた。一周して元来たレストランいに戻ってくるとK氏が、「今日は柳生もおりますから会って行ってください」とのこと。奥の方から聞き覚えのある声がして日本野鳥の会会長の登場。レストランのテーブルに案内され昼食を取りながらの歓談。広いガラス窓の外に設営されたミニサンクチュアリ(冬場の野鳥の給餌台)には入れ替わり立ち代わり小鳥たちが訪れてくる。

シジュウカラ、ヤマガラ、コガラ、ヒガラ、ゴジュウカラなどのカラ類を中心に、エナガ、アトリ、シメ、イカルなどが次々にやって来てはさまざまな餌を食べている。クルクルと忙しく飛び回るさまは、まるで小さなサーカスでも見ているように楽しい。それもオーナー柳生博さんの解説付きという贅沢な状況である。「この給餌場は冬の人気のスポットなんだよ」と嬉しそうに言った後、「この冬は寒さが中途半端でねぇ、オオマシコは来ていないんだ。それどころか例年普通に来ているウソの姿も見ない」ということだった。先ほど駅を降りて山の積雪量を見て「嫌な予感」がすると言ったのはこのことである。「赤い鳥」たちは繁殖地の状況や日本の亜高山、北国の寒さや雪の状況などが影響し年によって渡来数に当たり外れがあるのである。

食事を済ませ、しばらくすると若い女性のスタッフの方が「あちらで柳生が待っています」と奥のサンルーフのようなガラス張りの部屋に通してくれた。そこに柳生さんが一人座っていて「いつもは3時過ぎから飲むんだけど面倒くさいから今から飲んじゃおう!」と言われ3人でワインを飲むことになった。「ここは僕の特等席でね1年に1度この真上をイヌワシが大きくゆっくりと旋回飛行していくんだよ」という話を枕詞に八ヶ岳倶楽部を家族みんなでどのように作ってこられたかという苦労話、野鳥や自然環境のこと、そして役者生活のことなど秋に東京でお話を伺った時より、かなりリラックスして話された。最も愉快だったのはドラマ撮影の楽屋の裏話だった。知っている俳優さんたちの名前がぞろぞろと登場し、撮影のエピソードなどを延々と語られた。そして柳生さんの話は聞く側をグイグイと引きずり込んでしまい飽きることがない。そりゃあ「語るプロ」だからねぇ。時間を見ると夜の7時を過ぎている。閉店時間である。1時ごろから飲み始めたので6時間ぐらい柳生博さんの「語り」を聞きながら飲んでいたことになる。たいへん贅沢な話である。

楽しい時間はいつでもあっという間に過ぎるものだ。お名残惜しいが挨拶もそこそこ、タクシーを呼んでもらい今日の宿である「清泉寮」まで向かった。「赤い鳥さがし」は明日のお預けである。

柳生博会長、八ヶ岳倶楽部スタッフのみなさん、とても楽しい時間をありがとうございました。

画像はトップがオーナーの柳生博さんとツーショット。下が向かって左からクラブ内の施設でスタッフのK氏と、給餌台に来ていたイカル、シメ、コガラ、日暮れ時の八ヶ岳倶楽部風景。