このところ野鳥のネタが続いている。理由の一つとして、実は今年、僕が野鳥観察を始めてからちょうど40周年の節目の年なのである。版画制作を始めてから36年なので野鳥観察歴の方が古いということである。40周年のことは別の機会に更新するとして、このところ強く感じているのは「長く野鳥観察を続けてきた者の義務として伝えていかなければならないことがある」ということである。それにはSNSはちょうどいいメディアなのである。
今回の話は里山などに生息するフクロウ類のアオバズクのことである。工房のある、ここ千葉北東部では毎年4月の下旬になるとアオバズクが渡って来る。日没とともに、どこからともなく「ホッホー、ホッホー」と繰り返し、よく通る声で鳴きながら里山を巡回するようすは、この季節の里山の自然風物の一つである…というか、あったという方が正しいかもしれない。
アオバズクはフクロウ科のハトよりやや小さい野鳥で、インド、ヒマラヤ、東南アジア、中国東部、朝鮮半島、ウスリーに分布し北方のものは冬季は南下する。日本ではほぼ全国に分布し、九州以北では夏鳥として渡来し、南西諸島では留鳥である。平地から低山の林で繁殖する。同じ科のフクロウなどと同様大木の洞などに営巣する。青葉の季節に渡って来るので漢字名は「緑葉木菟」と書き、英語名はその濃褐色の羽色とタカに似た横顔から「Brown Hawk Owl」と呼ばれている。
アオバズクは以前ブログで紹介したタカの仲間のサシバやシギ・チドリ類などと同様、近年とても生息数が減少している種である。どうも越冬地に森林開発の進む東南アジア地域がからむ野鳥の個体数の減少が著しいようだ。この工房のある住宅地の周囲の里山には大木のある社寺林や雑木林などアオバズクが好む環境がそろっていて、少なくとも3~5ペアは観察していた。初夏の夕刻から夜にかけてよく見かけることがあり、テレビアンテナに止まって鳴く姿や公園などの街灯にやってくる好物のカブトムシやオオミズアオ(大型の蛾の1種)をブンブン飛び回って捕える姿も観察することができた。それが、30年近い年月の中で徐々に徐々に見かけなくなり、とうとうその声すらもなかなか聴くことができなくなっていった。今年は先月の25日の深夜に一度だけ声を聴いた。その後、聴いていないので通過個体なのだろうか。季節的には一番盛んに鳴いているはずなのだが。
あのクリクリとした坊主頭と黄色に輝く眼、そして長閑な気持ちにさせてくれる声が日常から失われてしまったのがとても寂しい。いつか環境が改善されて戻って来てはくれないだろうか。アオバズクを始め夏鳥たちのおかれている状況は、もはや我が国だけの環境改善の問題に収まらず国際的な保護対策が必要な時代に入ってきたのだと思う。
音もなく静かに絶滅していく野生生物たち。長い年月、野鳥観察を続けてきて、ふと気が付いたら周り中が絶滅危惧種か、その予備軍に指定されていた。人間の日常生活に直接関係していないので、多くの人々がこのことを知らない。そして近年、そのスピードに加速度がついてきているように感じている、いったいこのまま行くと地球環境はどうなっていくのだろうか?微々たる歩みではあるがSNSを通してこの事実を発信して行こうと思っている。
画像は過去の在庫から転載した。トップが日中青葉の繁る大木で休む成鳥。下が向って左から営巣していた洞のある大木、同じくアオバズク成鳥、巣立ち雛3カット、好物のオオミズアオ。