29日午後から東京都美術館で開催中の『第64回 東京芸術大学 卒業・修了制作展』を観に行ってきた。実は長女がこの3月で美術学部デザイン科を無事卒業することとなり卒業制作の作品を出品しているのである。長島家に古くから伝わる家訓の一つに「家族の大切な節目の行事にはどんなに忙しくても出席すること」というものがあることもあり、午前中のカルチャー教室での指導を終え、昼食を済ませるとまっすぐに上野に向かった。
日暮里から谷中の墓地を抜けて速足で歩いて行くと約20分ほどで会場である東京都美術館に到着した。なんの因果かロビー階の展示スペースは僕が秋に出品している版画の公募展と同じ場所となっていた。受付を入ると週末ということもあり来場者が多い。先端芸術科の会場を過ぎて隣が娘の所属するデザイン科のスペースだった。すぐに娘の姿を発見、4年間の集大成の作品を前に説明を受ける。平面作家の子どもなので、美大のデザイン科に進学してからは、てっきりグラフィック的なものやイラストレーションに興味を持つものかと思っていたら、そちらにはほとんど興味を示さずにスペース・デザインに興味を持ち続けていた。この時点で空間系のデザイン会社に就職も決まっている。
ところが、DNAがそうさせるのか卒業制作は立体ではなく平面作品である。但しその内容は「古い建築物の表面のエイジングと色彩をテーマにしている」のだそうだ。30個ほどの小さいパネルに建築物の表面の肌合いや色彩をイメージした作品を一つの壁に並べ構成した作品となっていた。娘とは表現分野も違うし、美術の予備校に通う頃から余計なアドバイスはなるべくしないようにしてきたが、ここで一言、「おまえは色感がいいんだなぁ」と感想をもらした。うれしそうな笑顔を見せて、このフレーズが気に入ったのか「今日のブームだね!」と言うので、会場で他の作品を観ても「これは色感がいい」と繰り返し言い続けてしまった。
家に来たことがあるデザイン科の友人に合わせてくれたり、同級生の作品を一通り観終わったので、他の会場を案内してもらうことにして異なる科ごとに順番に観ていった。先端芸術科、工芸科、建築科、日本画科、油絵科…どれも若いエネルギーに満ち溢れていて見応えがあったが僕の個人的な感想を言えばデザイン科、工芸科と日本画科に完成度が高く充実した作品が揃っていたように感じた。都美館での展示を一巡すると遅れてきた家内と合流し、もう一巡。第二会場である東京芸術大学の学内展示作品を観に行った。こちらは学部の作品以外に修士コースの作品もあり見応えがあった。ここまで観てくると結構疲れた。両足も棒のように硬くなっている。ただ、いやな感じではなく若い表現に触れ、さわやかで心地よい残像が網膜に焼き付いた。時間的にもリミットに近くなったので娘と別れて元来た日暮里駅へと向かった。
毎年多くの美術家希望者が美大を卒業し社会に出て行くがここからは厳しい道のりとなる。今後のフレッシュなアーティストやデザイナーとしての活躍を祈りながら帰路に着いた。画像はトップが長女の卒業制作作品の前でのスナップ。下が向かって左から展覧会受付、長女の作品の全体像、同級生の作品2点、デザイン科会場内風景、同級生の参加型作品の中に入った僕。