今月は古代エジプト神話に登場する鳥、『ベヌウ・Benu』を水彩画で制作した。手漉きの紙に描いた『神話・伝説』シリーズもこれで40点以上となった。シルクロードを行ったり来たりなるべく広範囲にモチーフを選択し描き続けているのだが個展開催まで、じっと辛抱の日々である。
ベヌウの名前はエジプト語の「ウェベン=立ち上がる者」から来ているとされている。主にヘリオポリスで信仰され、太陽信仰と関係する聖なる樹木、『イシェドの木』に留まるとされる聖鳥である。ユーラシア大陸に広く分布するサギ科の水鳥、アオサギの姿で壁画などに描かれることが多い。太陽神ラーの魂とも言われ、毎朝再生を繰り返す太陽と同じく不死の象徴であり、自ら死と再生を繰り返すとされている。ギリシャ神話のフェニックスや中央アジアのポイニクスなど、不死鳥の先祖だが、ベヌウは火の中に飛び込んで死ぬわけではなく、500年ごとに年をとって自然死し、若返って復活するものと伝承されている。
アオサギは日本でも湖沼、河川、干潟などの水辺に他の白鷺類と共に普通に生息するサギ科の野鳥である。名前はアオ(蒼)とつくが灰色の地味で大きな種だ。バーダーとして水辺に出かけるとたいてい出会うことができる。浅瀬にじっと佇んでいたかと思うと、水の中に素早く嘴を突っ込んでコイやボラなど大きめの魚を捕え、丸飲みにしてしまう姿が観察できる。それにしても、こうして作品として描いたアオサギが不死鳥であるとすると、今後水辺で出会った時に神々しく輝いて見えてくるかもしれない。ごく普通に観られるからと言って軽くスルーしてはならない。アオサギ様様である。画像はトップが制作中の水彩画『ベヌウ』。下が向かって左から作品の部分、使用した画材、県内の鳥獣保護区で撮影したアオサギ。