長島充-工房通信-THE STUDIO DIARY OF Mitsuru NAGASHIMA

画家・版画家、長島充のブログです。日々の創作活動や工房周辺でのできごとなどを中心に更新していきます。

268.木口木版画の蔵書票を制作する日々。

2016-11-21 18:52:59 | 版画
10月を過ぎ、11月に入ると都会の街並みにキラキラとクリスマスの気配がやってくる。慌ただしい師走はもうそこまで来ている。「今年も、もう一年経ってしまうんだなぁ…年々、時間が経つのが早く感じてくる」と、仕事机で、手のひらをしみじみ眺めながら、毎年この時期のセレモニーとして同じ呟きを繰り返すのだった。

今月に入って、昨年からオーダーされていた「蔵書票」を木口木版画で彫っている。ひさびさである。今回の「票主・ひょうしゅ」(コレクターのこと)となっているのは、僕の普段の版画作品をコレクションいただいているN氏。医師であり俳人でもある。昨年、俳句の世界で大きな賞を受賞された。コレクションのお礼と受賞への細やかな、お祝いという意味でお引き受けした仕事でもある。

蔵書票はラテン語で”EX LIBRIS(エクスリブリス)”と呼ばれ、日本語では「私の愛する書物」といった意味だと聞いている。本来は愛書家が自分の高価な愛書に版画家にオーダーして摺らせ、本の裏表紙などに糊で張り付ける習慣があったが、今日ではトレーディング・カードのようにコレクションする愛好家が増えている。版画の中でも取り分けマニアックな世界なので一般的にはあまり知られていないかも知れないが、西洋などではとても人気のある版画のジャンルであり、専門の版画家や愛好家が多い。オーダーものなので、当然「お題・テーマ」をいただいてからの制作となる。今回のN氏のお題は「巨石文明と昆虫」という、ちょっと難しいものだった。巨石とはイギリスのストーン・ヘンジのような石遺跡を指している。昆虫はおそらくN氏が好きな生き物なのだろう。そして巨石をテーマとした句集も出版されている。

制作は版木(10×7,5㎝という小さなもの)と同寸のラフな下絵を2パターン制作。画像添付のメールでコレクターに送信し、確認してもらう。内容の承諾後、下絵をさらにつめて版木にトレースし、ビュランという彫刻刀で彫り始めるといった手順。後は、彫っては試し摺りをし、彫っては試し摺りを繰り返す作業。版木は小さな画面に細密な絵柄が想定されたので、特別に故意にしている材木屋さんに特注で作ってもらった「本ツゲ」の上物である。こうした版木も最近ではなかなか入手し難くなった。

さあ、準備ができたところで硬いツゲの面に細かいビュランの刃を縦横無尽に走らせて行く。文字などもあるので、少しの油断も許されない。ちょっとビュランを握る手の力を緩ませようものなら必要でない場所を彫ってしまう。小さい作品だが、とても神経を使うものである。当然、ルーペなどで手元や刃物の切っ先を拡大して慎重に作業を進めるのだ。今日の午前中にようやく第一回目の試し摺りが取れた。しげしげと眺めながら「まだまだ、調子が硬いな…線も細かすぎる」 試し摺りが取れると少しほっとするのだが、ここからが長い。秋も深まり、寒さもきつくなってくる中、作業机にへばり付き、細かい彫版作業をする日々がしばらく続きそうだ。そして彫りが完成したら「見本摺り」をコレクターに送り、最終確認をとらなければならない。そしてGOサインが出たら、年明けから今回、地獄の300枚摺りが待っている。ふーっ…。

画像はトップがルーペ越しに観た制作途中の今回の版木と手元。下が向かって左から版木を彫っている手元をもう一枚と今回制作に使用しているビュランの画像2カット。


        


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1 コメント

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ありがとうございました。 (uccello)
2016-11-29 21:38:31
ブロガーのみなさん、たくさんのいいね!をいただきありがとうございました。感謝します。
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