長島充-工房通信-THE STUDIO DIARY OF Mitsuru NAGASHIMA

画家・版画家、長島充のブログです。日々の創作活動や工房周辺でのできごとなどを中心に更新していきます。

378. 大判木版画 『草原の家族(シジュウカラガン)』 を彫る日々。 

2019-08-04 16:18:54 | 版画
先月末、梅雨が明けてから毎日のように猛暑日が続いている。7月の間は『野鳥版画』の大判木版画を1点、集中して制作していた。大判とつけているのは僕の版画の中で大きなサイズの作品と言う意味である。タイトルは『草原の家族(シジュウカラガン)』昨年の11月下旬に宮城県の伊豆沼・内沼に雁類の取材を行ったのだがその時に撮影した画像資料を基に制作していたのである。投稿が遅くなってしまったので「彫る日々」というよりも「彫っていた日々」とした方が正しいかも知れない。

昨年の梅雨期もその前の冬に鹿児島県の出水平野で取材したツル類のナベヅルの大判木版画の制作をしていた。特別に意識をしてそうしているというわけでもないのだが、冬の間に取材をして梅雨辺りで木版画として制作する。どうもいつの間にかこのパターンが出来上がりつつある。秋のいい季節には展覧会を入れるし…なんとなくこのあたりから8-9月にかけて制作が集中するのである。それから現地取材をしてすぐに制作に取り掛かるということも少ない。じっくりと腰を据え「どのように素材を料理しようか」という仕込みの時間、なます時間も大切なのである。

彫り始めてから試し摺りを数回繰り返し、完成するのに1カ月弱かかっているのだが、その前段階の下絵を入れるともっと時間はかかっている。今回も下絵に苦労した。それは雁類の冬季の生息状況にも関係している。群れで飛翔する姿というのは今までにも数点マガンという種類で制作しているし画像などでもよく見かけることがある。今回は地上に降りている群れの構図で作品化したかった。ところが秋冬季に雁類が降りている地上と言うのは乾燥した土くれの水田が多いのである。これは採餌をする関係。雁たちの全身を画面の中に入れようと思えばこの土くれを描かなければならない。だが、これがなんとも絵にならないし、ピンと来ないのである。それから背景として利用できる要素も少ない。困った。ラフスケッチを繰り返すが絵にならない。考えに考えた末、雁類の足を絵の中からバッサリ取ってしまった。これならば足元の土くれを入れなくて済むのである。さらに5羽の家族の構成にして水田地帯の一部にあった冬枯れの草むらを鳥と鳥の間に挟んで行った。これならちょっと花鳥画風の構図にもなる。そして家族の絆が強い雁類が休息している雰囲気も出てきた。これで迷いもなくなり、なんとか下絵完成まで持っていった。

ここまで来れば後は版となる板に下絵を逆さにトレースし、彫刻刀など様々な彫版用具を使って彫っては試し摺り、彫っては試し摺りの繰り返し。彫りの仕事の時には特に集中力と時間が必要なので毎日早朝から起きて工房に籠って制作を進めた。一応、手帳の計画表にいつまでに第1回目の試し摺り、いつまでに本摺り、などと書き込んで進めてはいるのだが、なかなか計画通りには事が運ばないこともある。そうこう毎日、集中する時間を繰り返しているうちにようやく完成したのは梅雨開け寸前だった。果たして今回も現場の空気を感じるリアリティーのある写実版画作品となっているだろうか。ブログを購読していただいている方々にはリアルな作品は個展やグループ展でご高覧いただくことになる。



               


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1 コメント

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いつもありがとうございます。 (uccello)
2019-08-10 19:25:17
ブロガーのみなさん、いつもマイブログにお立ち寄りいただきありがとうございます。
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