電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

山響第178回定期演奏会を聞く~ベートーヴェンとブルックナーの4番

2007年01月28日 10時14分29秒 | -オーケストラ
全く雪がない、珍しい年の1月最後の土曜日、山形テルサ・ホールで山形交響楽団第178回定期演奏会を聞きました。当日は夕方に歯医者の予約もあり、治療を済ませてすっきりした後で、ホール近くにあるレストランテ「Choji」で夕食。後から来た妻と合流して演奏会へ。週末のためか、かなりの人出。最前列の両サイドを除き、ほぼ満席です。

恒例の指揮者プレトーク。飯森範親さんが登場して作曲家のエピソード、曲目や演奏について語ります。今日は、第1Vnと第2Vnを左右に分けた対向配置であること、ベートーヴェンの時代には今で言うピリオド奏法だったこと、曲の始まりではノン・ヴィヴラートでモノクロームの効果を出し、主部に入ってからカラーになるような効果をねらっていること、などを説明してくれました。
面白かったのはベーさんの第2楽章の説明。心臓の鼓動のようなリズムの中で、1stVnと2ndVnが「テレーゼ」「テレーゼ」と呼びかけるのだそうな。キャンセル魔のカルロス・クライバーが、ウィーンフィルがこのよびかけを充分に表現してくれないのが不満で、演奏会当日の朝にホテルから帰っちゃったエピソードも披露してくれましたが、音楽家とはそういうものかと笑っちゃった。素人は他愛無いと思うけれど、当事者は真剣なのですね。

さて、演奏の開始。コンサートマスターは、客演の高木和弘さん。第1楽章、ノン・ヴィヴラート奏法で開始。モノクローム効果という説明は「なるほど」です。この楽章は、全体に速めのテンポで勢いがあります。
第2楽章、ファゴットの高橋あけみさんのファゴット・ソロ、「タッカタッカタッカタッカ」とお見事!チェロ、コントラバス、ヴィオラのピチカートが実に精密で、ステージ右側に配置されたバロック・ティンパニでしょうか、呟きのようなティンパニのあと盛り上がって終わります。
第3楽章、いつもワクワクする始まり。ティンパニ奏者は出番がないときは皮に耳をあてて張りを調整しているのですね。そしてティンパニを打つときの体の動きの柔らかさに驚きます。こういうのは、LPやCDではわからない楽しみ。
第4楽章、速いテンポで勢いがあります。速さの快感、です。ベートーヴェンの速度表示は演奏不能なほど速すぎて、メトロノームが壊れていたのではないか、などと揶揄する文章を読んだことがありますが、そんなことはありません。速いテンポは、ノン・ヴィヴラート奏法と関係するのでしょうか。いわゆるピリオド奏法が、テンポの速い、いきいきとした活気ある表現を目指しているのだな、と感じられるようになりました。(それに対し、ヴィヴラートをたっぷりかけた演奏は、どうしてもテンポのゆっくりしたものになり、沈潜する陶酔的な方向性の表現を目指していることも理解できます。ベーさんの時代には、そんな表現は下品だと受け止められたかも。)
飯森さんのご指名で、ファゴット(高橋あけみさん)とオーボエ(竹谷さんかな?)が聴衆の拍手を受けていました。ベートーヴェンらしい見事な木管の響きを聞くことができました。

休憩の後で、期待の高まるブルックナーの演奏です。

「動きをもって、速すぎずに」と指定された第1楽章。静かなホルンの音で始まり、弦のトレモロのサワサワの中から強化されたラッパ部隊が咆哮を開始します。ティンパニは向かって左側に配置、こちらはベートーヴェンと違って現代のティンパニのようです。静かな弦の音を背景に管楽群がオルガンのような効果を生むところ、こんなふうにして出しているのかと、初めて理解しました。オルガンと違うのは、fだけでなくpも出せるところ。それから、ヴィオラ・パートが本当に力演です。ヴィオラの魅力的な音色を、充分に堪能できました。
チューニングの後、第2楽章が始まります。「アンダンテ・クワジ・アレグレット」という指示は緩徐楽章に相当するのでしょうか、静かな弦楽セクションの中でチェロが悲しげな旋律を歌い、ホルンが途切れ途切れに答えます。ヴァイオリンとチェロのピチカートの中、ヴィオラの嘆き節(?)、ホルンが1本だけそっと鳴ります。素晴らしいヴィオラ!Ob→Cl→Hrn→Flと受け継がれる音色の妙にゾクゾク!繰り返されるヴィオラの嘆き節。ティンパニが静かにリズムを刻み、終わります。
第3楽章、「動きをもって」と指示されたスケルツォ。いかにもブルックナーらしい金管の咆哮と全休止です。総奏に続く全休止。そしてその後の優しいメロディ。ラッパ部隊の炸裂の場面は多いですが、木管、特にファゴットの出番はそう多くありません。ブルックナーのお気に入りの楽器ではなかったのでしょうか。
第4楽章、「動きをもって、しかし速すぎずに」と指示されたフィナーレです。コントラバスの行進の中で、ホルンからクラリネットに音が受け継がれ、面白い効果を上げているのですね。オルガンのような総奏に次ぐ総奏。そして全休止。ブルックナーの快感です。弦楽による田舎風の暖かい旋律に木管が加わり、優美な音楽になりますが、迫力のチューバを加えたラッパ部隊の迫力に吹き飛ばされそうです。「ダンダンダンダンダンダンダンダン」とティンパニがかっこいい。力強い低弦に大健闘の内声部、力感あふれる大熱演。第1楽章のテーマが高らかに回想されて、力強く輝かしく終わります。うーん、満足!

なお、版は基本的にハース版を採用し、部分的に変更を加えているとのこと。私には詳しいことはわかりませんが、オペラグラスの不要な、よく響くホールで聴くブルックナー。客演奏者を加え総勢55名の編成ですが、これはいいものですね。ぜひまた聴きたいと思いました。「うまいものを食べて温泉に入り、飯森+山響を堪能するツアー」で山形入りした他県の方々も少なくなかったのでは、と思います。写真にあるとおり、先行発売された山響CD第2弾(*)も購入して、良い演奏会でした。

(*):R.シュトラウス 交響的幻想曲「イタリアから」Op16、ビゼー 「アルルの女」第1組曲、第2組曲。飯森範親指揮山形交響楽団、(CD)OVCX-00031、SACDです。
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