図書館から借りてきた本の二冊め、吉村昭著『回り灯籠』を読みました。随筆なんだか自作の小説の執筆レポートなんだかわからなくなるような、著者独特の随筆集です。内容的には、「回り灯籠」と「新潟旅日記」の二部に分かれており、それぞれ実に味わいのあるもので、うまいものだなあと感心します。
たとえば「未完の作品」という一編。立原正秋氏が新聞に連載小説を書いていたのだけれど、突然にガンが発見されて入院したとのことで、丹羽文雄氏の紹介で、続きの仕事を依頼されるのです。いわば、作家の指名代打のようなものですが、それがなんと十日ほどしか余裕がないとのこと。一度は断るのですが、一晩再考してほしいと頼まれます。
そこへ、紹介した丹羽文雄氏から電話が入ります。
著者は、その一言で執筆を決意します。同世代の仲間に、後顧の憂いなく治療を受けてもらうべきだ、という判断だったとのこと。入院している立原氏からは、引き受けてくれたことを感謝している旨が伝えられますが、やがて逝去します。祭壇の氏の遺影を見つめながら、著者は、小説を未完で終えざるを得なかった無念を思います。そして、
末尾のこの一行に、思わず頷いてしまうのです。
たとえば「未完の作品」という一編。立原正秋氏が新聞に連載小説を書いていたのだけれど、突然にガンが発見されて入院したとのことで、丹羽文雄氏の紹介で、続きの仕事を依頼されるのです。いわば、作家の指名代打のようなものですが、それがなんと十日ほどしか余裕がないとのこと。一度は断るのですが、一晩再考してほしいと頼まれます。
そこへ、紹介した丹羽文雄氏から電話が入ります。
氏は、ある作家が緊急入院し、わずか五日間しか余裕がなかったが、引き受けたと前置きして、
「作家は生身の人間で、だれでもそのように病気にとりつかれて筆をおかざるを得ないものなのだ。君でもそうだよ。立原君に心安らかに治療を受けてもらうため引き受けてやったらどうか」
と、しんみりした口調で言った。(p.19)
著者は、その一言で執筆を決意します。同世代の仲間に、後顧の憂いなく治療を受けてもらうべきだ、という判断だったとのこと。入院している立原氏からは、引き受けてくれたことを感謝している旨が伝えられますが、やがて逝去します。祭壇の氏の遺影を見つめながら、著者は、小説を未完で終えざるを得なかった無念を思います。そして、
いつかは私も、未完の作品をぽつんと残してこの世を去るにちがいない。
末尾のこの一行に、思わず頷いてしまうのです。