電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

有坪民雄『誰も農業を知らない』を読む(2)

2021年03月26日 06時00分41秒 | -ノンフィクション
有坪民雄著『誰も農業を知らない』を読んだ感想の続きです。

「国産米が安い輸入米に変わった」とすると、抑えられる家計の出費はいくらくらいか。途中の議論は省き、結論だけから言えば、年間の米消費量は1人あたり60kgとして、@110円/kg×60kg=6,600円 安くなるので、1世帯4人の家族ならば、1世帯あたり
 6,600円/人×4人=26,400円
の節約になるそうです。一方、自動車の任意保険の1世帯あたりの平均支出額は約10万円とのこと。
これに対する考え方ですね〜。
万が一の自動車事故の保証のために毎年毎年10万円を支出するのに、お米の輸入による3万円弱の節約と引き換えに国内に耕作放棄地が大量に生じてしまってよいのかという問題。
これを重大問題だと考えるセンスは、やはり農業に近い人のものなのかも。広々と広がる水田の保水力が集中豪雨による被害をくいとめているという機能は、失われて初めて頻発する洪水被害として実感することでしょうし、里山の畑や果樹園が荒廃すれば野生動物が市街地に侵入することが日常になるということも、おそらくは身近に現実になってみてはじめて実感することでしょうから。

第4章:農家出身のサラリーマン世代が引退していなくなり、農家経験のない世代が多数派になっている現代。農家を敵視し、田畑で枯れ草を燃やす煙に苦情を言うクレーマーの出現も、そのせいなのかも。
第5章:農薬の否定は難しい。無農薬で長期間に渡り病虫害に対抗するのは困難で、木酢液やニコチン液などは農薬以上に強毒性と指摘します。たしかに、レイチェル・カーソンの「沈黙の春」はインパクトが強かったですが、当方、小学校低学年でノミ・シラミ対策で首や頭にDDTをかけられた記憶を持つ世代です。DDT禁止による残留毒性低減の功績とともに、途上国ではマラリア死者が増加したという別の側面を考えると、見境のない乱用が問題の本質であって一律に禁止すればよいというのは少々違うのではなかろうか、という考え方は成り立ちます。確かに、某ネオニコチノイド系殺虫剤の空中散布をやめたらしばらくして果樹園にマメコバチなど訪花昆虫が戻ってきています。環境ホルモンの観点からも農薬を見直し、害の少ないものを使っていくという方向性は、経験的にも理解できます。



私自身は、他の人にこうすればよいと勧めるコンサルティングのようなことは考えていませんで、自分の農業経営の経験から考えているだけですが、主張の多くは理解でき、共感するものも多いです。たいへん興味深い本でした。


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