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少々前のことになりますが、NHK特集でアルツハイマー病を取り上げたことがありました。年齢とともに心配になる病気を考えるうえで参考になるもので、メモを取りながら興味深く観ました。
これによれば、家族性アルツハイマー病の研究からいろいろなことが分かってきたそうで、25年くらいかけて徐々にアミロイドベータが蓄積し、発症に至るのだそうです。このアミロイドベータは、脳の活動により産生し、夜の睡眠時に髄液を通じて脳外に排出されます。したがって、睡眠不足が続くと充分に排出されず、蓄積していくのだそうな。そして、アミロイドベータが蓄積してくると、タウという物質を生成し、これが神経細胞を破壊していくため、記憶に重要な役割を果たす海馬の働きも徐々に低下していくのだそうです。
治療薬の研究もさることながら、興味深かったのは「良質の睡眠の重要性」と、頭を使いながら運動することの効果でした。たしか、どこかの進学校で、「四当五落」などという戦前の「B29に竹槍」のような精神主義的言葉で鼓舞された受験生が、それを真に受けて受験勉強に勤しんだら、うつ病になってしまったという話を聞いたことがあります。睡眠時間を削って受験勉強をしても効果は上がらないことは自分の経験で知っていましたが、まさか睡眠不足の生活がアルツハイマー病を引き起こすとは知りませんでした。
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よくわからない分野を手っ取り早く知るには、子ども向けの本が良い、という経験則に基づき、手に取ったのが岩波ジュニア新書の中の一冊、『脳科学の教科書~こころ編』です。理化学研究所脳科学総合研究センター編というお堅い著者名がついていますが、内容は比較的わかりやすいものでした。本書の構成は次のとおり。
はじめに
第1章:ヒトの脳の構造と機能
第2章:脳を見る
第3章:言語思考のしくみ
第4章:情動と感情
第5章:脳の病気
おわりに
第1章は、海馬や下垂体、視床下部など、大脳や小脳以外の重要な部位についての説明が興味深かった。
- 海馬は記憶に重要な役割を果たしている。
- となりの扁桃体は、恐怖などの情動に関係している。
- 帯状回は扁桃体を抑制するはたらきがある。
- 視床下部には脳血液関門がなく、血中の物質濃度を監視する役割を持つとともに、白血球が出す免疫反応に関係する物質サイトカインに反応してストレス反応を引き起こす。
- 下垂体は、副腎や卵巣などに働く種々のホルモンを出して、からだ全体のコントロールに関わっている。
- 視床上部の松果体は夜にメラトニンというホルモンをつくり、夜の長さを感知して年間のリズムを作り、生殖行動に関与している。
- 視床上部には手綱核というものがあり、光のリズムを検出し行動を制御するとともに、悪い予測によって活動し、ドーパミン神経の働きを抑制する。
植物の光周性などは、わりに知識がありましたが、動物の概日リズムや光周性、ストレス反応などのあたりは、意外に知らない分野です。(以下、続く)
>よくわからない分野を手っ取り早く知るには、子ども向けの本が良い、という経験則
なるほど!
逆に言うと、「難しいことをいかにわかりやすく説明するか」ということがどれだけ大切で困難なことか、ということか、と思います。?
難しいことを難しく説明したり、簡単なことを難しく説明したりするのは実は簡単で、難しいことをやさしく説明できたら、その人の実力は本物だと思います。