
玉村里之子(佐辺さん)、ジュリマカテー(和佳子さん)
伊良波尹吉の名作歌劇です。辻の界隈に芝居小屋が立ち並び、辻の人間模様が描かれた近代でした。いかに辻がまた芸能の宝庫だったかを如実に示しています。琉球王府時代を描いたのが「音楽家の恋」です。近代の世相が「情無常」ですね。
ジュリが芸能に長けていたことを暗に示している歌劇でもありますね。首里のユカッチュの妻が親族の協議で辻に入り浸っている夫を島流しせんとの強い覚悟を前にして、夫の身を守るためにあえて辻に足を踏み込み、大変な状況を告げて夫を実家に引き戻します。一方で辻が特化していた芸能を女性のユカッチュの彼女がたしなんでいきます。筝曲を弾きながら古典音楽をきわめていくのです。女性芸能者の存在、女性たちもまた古典音楽を極めることが可能だと伊良波は微妙にそれを是認していたことになります。とても優雅な作品ですが、一方で殿内の下男、下女の三枚目的なコメディーを埋め込んでいます。本筋はシンプルだが、脇の二人のしぐさや対応のありようが笑いを誘っています。落差で笑えます。大宜味小太郎と八木政男さんのその三枚目(間の者)役を嘉数道彦と金城真次がうまく演じていました。主役の佐辺良和さん、ジュリの小嶺和佳子さん、とてもよかったですね、安心してみることができるお二人です。
加藤 直さんの演出で斬新な『泊阿嘉』を演じていたころからのお二人ですが、芸能者としての伸びやかさ、芸を磨いて今日に至る舞台は頼もしい限りですね。エールを送ります。
伊良波作品の醍醐味でした。『薬師堂』もそうだが、本筋と脇筋の展開が面白いですね。間の者の存在をきちんと描けた伊良波は組踊を継承した作風を生み出したのですね。
下女マグジャー・嘉数道彦さん
玉村里之子の妻チルーからの文を読む二人