日伊文化交流会

サークル「日伊文化交流会」は板橋区で生まれ、元東都生協登録サークルとしてイタリア好きの人たちが集まり楽しく活動しています

「光源氏 イタリアへの長い道」-「源氏物語」の翻訳物語 -講演会リポート(2014.3.12)@イタリア文化会館

2014年03月13日 | イタリアの本・絵本・雑誌
「光源氏 イタリアへの長い道」-「源氏物語」の翻訳物語 -講演会に行ってきました(2014.3.12)@イタリア文化会館


源氏物語のイタリア語への全訳という偉業を十余年の歳月をかけて成し遂げた マリア・テレーザ・オルシ名誉教授の講演会は衝撃的でした

オルシ氏は私には普通の人の何倍もの濃い時間を生きてこられた方のように感じられ その時間の結晶ともいうべきこの完訳された本について語るというこの講演会に足を運び 彼女のその素晴らしい 日本人よりもきめ細やかな日本語での心のこもった挨拶の中で 若い頃まさにこのイタリア文化会館(改築前の建物)で教鞭を取っていらしたというオルシ氏が やがては今日目の前に座っていらっしゃる現イタリア文化会館館長ジョルジョ・アミトラーノ氏(日本文学博士、翻訳家、ナポリ東洋大学日本文学教授)の導きによって この壮大なるプロジェクトに携わることになったという縁の不思議さを 彼女の初めは穏やかに静かな口調で始まり やがて力強く情熱を込めた語り口によって語られた壮大な翻訳物語とともに感じたのでした...

   *     *     *

オルシ氏が源氏物語と初めて出会ったのは ナポリ東洋大学の学生の頃 アーサー・ウェイリー卿による有名な英訳版(1921年~1933年に6巻に分けて出版された『The Tale of Genji』)からイタリア語への重訳版(1944年に出版)だったそうです

最初に読んだ時は翻訳を手掛けることは考えておらず 自分が理解することで満足していたとのことですが エイナウディ出版社による「ウェイリー卿による英訳からおよそ一世紀を経て新たな一歩が必要となった」その時に満を持しての全訳への取り組みが始まり それはすなわち「困難な旅の始まり」でもあったのです...

原書や様々な資料に埋もれた部屋の中で まだ真っ白な原稿を前にして 突然文章が頭の中に閃いた瞬間の喜び あるいは様々な翻訳の苦労 それは長きにわたり多くの専門家が語り続けてきたことでもあるのですが とどのつまりは「翻訳は不可能だが必要である」もの オリジナルに寄り添うのか できるだけ読者に近づくのか そのぎりぎりの境界線まで挑戦し続けるその中で 「読者もまた努力が要求される」といった様々な見解を 様々な事例や先達の言葉を含めて熱く ボリュームたっぷりに語っていただきました 


平安時代に紫式部によって書かれたこの源氏物語の翻訳にどんなご苦労があったのか...

平安時代の宮廷での言葉を どんなイタリア語を用いて訳したらよいのか 同時代のイタリア語がないため(1世紀ほど遅れてイタリアで神曲やデカメロン等の文学が発表された) 現代イタリア語を用いたこと また 長文を訳すため 今の自由間接話法に近い形となったこと 長文を受け入れて豊かさを伝えるか 区切りや印を入れて読みやすくするのかの選択の中で その折衷案を取ったこと等 苦労は計り知れません

特に作品では「色」が重要な位置を占めており たとえばをどう訳すか イタリア語ではビオラ(viola)と訳しますがそれはスミレの花を表すため 文化的な背景がおのずと違ってきてしまいます また平安時代の色と現在の色も少し違います

紫の上」という登場人物を 固有名詞ではなく 小文字の斜体にする等の工夫をこらし  それらの困難の他にも例えば 当時の部屋の構造や空間 家具 「いざる」等の人の動きをどうイタリア語で表現するかにも悩まれたそうです 

さらに その多くを「和歌」が占めており 和歌の中で読者に間接的に訴えかけられたものを イタリア語でいかに読者に伝えるかにも配慮しなければならず 並大抵の苦労ではなかったそうです 
そしてまた「注釈」に対する見解等も伝えられました 


続く質疑応答では 読者や批評家の圧力をどうナビゲートしていったのか また現代詩については今後取組む予定があるのか そして 源氏物語の中での色の表現と登場人物の性格表現は関係があるのか 宇治十帖の中で「白」の表す意味等についても丁寧に答えてくださいました

会場に詰めかけた多くの聴衆の中には錚々たる著名な方もいらっしゃいました 
こんなに大きなエポックに自分がその場に立ち会えたことの幸運を噛みしめつつ オルシ氏の今後のご健康とご活躍を陰ながら祈らせていただきたいと思います

* * *

『源氏物語のイタリア語訳については アーサー・ウェイリーの英語訳からの重訳(抄訳)が1944年に出版されているが 2012年6月に ローマ大学名誉教授のマリア=テレサ・オルシ(Maria Teresa Orsi)による完訳 La storia di Genji が出版された』(Wikipediaより)

開催のお知らせは こちら

昨年の新聞記事は こちら

素晴らしい講演会を開催してくださいましたイタリア文化会館様にあらためてお礼申し上げます

* 写真はうちにある「源氏物語」です


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