ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

「狩野川薪能」の稽古(その2)

2006-06-24 23:36:52 | 能楽
昨日は伊豆の国市で「狩野川薪能」の出演者の子どもたちによる「中間発表会」が、県立韮山高校で行われました。会場は高校の大講堂だったのですが、観客は地元・伊豆の国市の小学生高学年およそ1000名(!)。地元の子どもたちによる<子ども創作能>の稽古の成果を、薪能の本番の前にひと足早く、お友達の前で発表する、という企画です。

ぬえたち指導する能楽師から考えれば、未来にこの子ども能を継承するための人材の発掘につながるありがたい催しだし、子どもたちにとっては初めて観客の前で上演するという、ハラハラドキドキの度胸試しの一日だったでしょう。そして実行委員会としても薪能の内容を宣伝することができるし、なんと言っても子どもたちを日本文化に触れさせるまたとない機会。そんなわけでこの催しは実行委員会としては小学生のための「古典芸能鑑賞教室」という位置づけだったのですが、ぬえや出演のこどもたちにとっては「中間発表会」の機会だったのでした。

昨日は金曜日で、学校は平常の授業がある日なのですが、実行委員会の努力によって全市の小学校高学年の児童が、午前中で授業を終えて韮山高校に集結しました。やー、1000人という人数は壮観ですね~~

まず実行委員会より会長さんらのご挨拶から「中間発表会」。。もとい「古典芸能教室」は始まりました。続いて「能」というものをビジュアルで感じさせるために、K君(ぬえらとともに子どもの指導に当たっている観世流シテ方)に天女風に装束を着けて囃子方の「中之舞」の演奏に合わせて舞の実演。初めて見る能装束の姿には子どもたちはビックリしていたようでしたね。

その後、総合プロデュースをしてくださっている大倉正之助氏を中心に、囃子の実演を見せ、それから子どもたちに囃子演奏を体験させました。これは大ウケでしたね~~。いつも思うのだが、こういう小学生を相手にしたような能の体験の企画では、われわれシテ方というのはなんとなく影が薄くなっちゃう。(^^;) やはりお囃子の力はすごいものです。見たこともない楽器から不思議な音が出てくる。それを、およそ音楽の授業では習わないような「掛け声」をかけながら、なんとか打ってみる。。「パスン」。。鳴らない。それでも講師の先生からコツを教えて頂いて、また挑戦。。「ポン!」。。見ていた子どもたちは大歓声。この時間には ぬえらシテ方は、次の演目である<子ども創作能>『江間の小四郎』の装束(?)の着付けに楽屋で大わらわでしたが、この歓声が聞こえてくると、なんとなく ぬえ、いつも羨ましく思ったりします。

続いて『江間の小四郎』の上演に移り、1000人の小学生は再び観客となります。ところが、囃子方の演奏に合わせてそこに登場してきたのは、自分たちと同じ小学生の出演者で。小学生のお客さまは、これまた大歓声になりました。しかも赤頭をつけた大蛇役の子と武士役の子どもたちが舞台せましと(舞台は実際に少し狭かったもので、武士役の子の最後尾は、舞台に立ち並んだときにお笛の先生の座席まで浸食していました。。お笛方は黙って少し座位置を下げてくださいましたが。。すみません~~)大暴れして、しかも ぬえは今回、この悪役の大蛇が退治される場面で、能ではかなり珍しい型だけれども、武士の大将・江間の小四郎が舞台上で本当に矢を射る型を作りました。これも小学生の目には面白く映ったでしょう。

で、最後に薪能でも上演する玄人能『船弁慶・前後之替』を袴能の半能の形式で上演しました。義経役の子方はやはり地元の小学生。後シテの役は ぬえの担当なので、紋付のまま長刀を持って勤めました。この時の子方の目が良かったね。稽古のときは、期待したよりもあまり成果が上がらなくて心配したのですが、やはり観客の前で演じるのが大変な事だ、と舞台の上で身をもって知ることになったのでしょう。あの目なら。大丈夫。

終演後、子方を演じた子は出演した子どもたちからも「カッコよかった~~」と祝福されていました。本人は疲労困憊のご様子でしたが、なに、本番はこの3倍の長さだってば。(^◇^;)

『江間の小四郎』に出演した子どもたちも口々に「怖かった」という感想が出ていました。ね?人前に出て演じる、ってのは大変な事でしょう? こういう経験がかれらに責任感を持たせて、薪能の本番に向かって彼らが意識を高めてゆく役にも立つし、それだけに薪能が成功したら、彼らは達成感も自信も持つことができるでしょう。昨日の催しを企画してくださった実行委員会には、みんなが感謝しなくてはね。

なお、当日の模様が「静岡新聞」のサイトに紹介されています。会員制(無料)のサイトなので、登録しなければ見ることはできないのですが。。

静岡新聞サイト→ 伝統芸能迫力にうっとり 伊豆の国 小学生が能鑑賞

薪能についてはこちら→ PR/第七回 狩野川薪能


【本日のお題】
  表紙画像は韮山に残る「蛭が小島」の跡地です。平治の乱で伊豆に流された頼朝の流刑地で、いまでは田んぼの中に小さな公園となっていますが、かつては狩野川の中州だったと考えられています。頼朝が北条政子と出会ったのがこの地で、公園には「蛭ヶ島の夫婦」という像が建てられていました。ううむ、朝長が青墓で最期を迎えたとき、13歳という幼さで義朝一行からはぐれた少年は、これほど成長しました。。



すみません「古典芸能教室」の画像は。。忙しくてとても撮影などできませんでした。。

狩野川薪能→ 次の記事