ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

結婚式つながりで(その6=結婚式で本当にあった話)

2006-09-09 02:18:13 | 能楽
さて結婚式にお呼ばれする機会の多い ぬえですが、結婚式ではよく思うことがあります。
「うう。。新郎さんの紋付が着崩れてる。。直してあげたい。。」(>_<)

失礼ながら、やっぱり着物ってのは着慣れていないと なかなか身体にフィットしにくいようですね。と言うか、洋服を着た場合と和服を着た場合とでは身体の動かし方がちょっと違う、と言うべきか。あとは。。ときどきビックリするような奇抜な紋付で登場する新郎さんを見る事が。。

さて、ある時 ぬえの親族の結婚式がありました。会場は都内の某ホテル。ぬえは親族なので式から出席しましたが、披露宴では謡を披露する事になっていたので、チャペルでのキリスト教式だったにも関わらず、参列者の中で ぬえだけが紋付袴姿。ちと違和感もあったけど、ま、これは仕方ない、と言うことで。

このような式場には新郎新婦の介添えをしたり、参列者の交通整理をする「仲居さん」みたいな女性の方がおられますね。こういう時、この仲居さん(と呼ぶのか不明だが仮にこう呼んでおきます)は専門家なのでじつに てきぱきと人をさばいていきます。「はい、もうじき新郎新婦が入場しますからねー。みなさん着席してお待ちくださいー。はいそこ!白いカーペットはバージンロードだから踏まない!あ、そこのお子さん。『着席してお待ちください』ですのよー。はいはい、このたびは大変おめでとうございま~す」。。もう慇懃無礼ちうのか、マニュアル通りというのか。。ムチャクチャ。。

で、式は無事に終了しました。新郎新婦を拍手で見送って、この頃はまだフラワーシャワーとかブーケトスのような式のあとのアトラクション(?)はあまり一般的でなかったのか、この仲居さんに連れられて新郎新婦は記念撮影のために写真室に向かって去って。。いやいや、進んで行かれ、残された参列者は、またまた担当の仲居さんのご指示を仰いでから行動しなければなりませぬ。「はい、みなさん、本日は大変おめでとうございま~す。このあと披露宴の会場へご案内させて頂きま~す。はい、それではこちらへどうぞ~。みなさん2列でお並び頂きまして、順のご案内となりま~す。はい並んで。オイッち、にぃ!さん、し!エレベーターはこちら。全体~~右向け~~右っ!」

かくしてエレベーター前まで参列者の行軍は続き、またまたそこで上官の訓辞を拝聴致します。「エレベーターが狭いので、9名様ずつのご案内となりま~す。はいどうぞ!いち、にぃ、さん、しぃ、ごぉ、ろく、しち、はち。。く!はい、ここまで!あとは次のエレベーターをお待ちくださいっ」。。と、仲居さんは我々参列者の顔さえ見ずにテキパキと仕事をこなしてゆきます。いつも決まり切った流れ作業。そして彼女たちはプロ。マニュアルに沿って号令を掛けて案内をしていれば、それで毎日がつつがなく進行してゆきます。ゆく。。はずだったのです。ぬえの姿を見るまでは。

偶然にも ぬえの前の人でエレベーターの定員9人となり、乗り込もうとした ぬえの前に無情にも仲居さんの右手がサッと差し出され、丁寧ながら、反論の余地のないドスの利いた声で仲居さんが言いました。「はいっ、ここまで!あとは次のエレベーターをお待ちくださいましなぁ」(-_-メ)

そして ぬえの前の人までを乗せてエレベーターは動き出します。仲居さんは作り上げられた、非の打ち所のない満面の笑みを浮かべて閉まる扉に向かって最敬礼のお辞儀。当然そのお尻は ぬえに向いて無言の制止の圧力を掛け続けます。。しばしの静寂。。このあと残された参列者は何をされるのか。。誰からなのか「ゴクッ」と生唾を呑み込む音がホールに響き渡ります。そして。。仲居さんは振り向きました。「お待たせしましたわいなぁ」

そのとき! ぬえの目にも、何かが壊れたのが感じられました。何か。。とてつもなく大きな事件が起こっている。。なんだろう。。気づけば仲居さんの両眼は大きく見開かれ、血管が走るのがわかる。彼女の呼吸は大きく乱れ、身体は小刻みに震えている。。そして。。その見開かれた眼は。。たしかに ぬえを見据えているのです。ぬ、ぬ、ぬ、ぬえ。。何かしちゃった?。。゛(ノ><)ノ ヒィ

そして仲居さんは低く、乾いた声を絞り出して、こう言いました。

「あ。。あの。。」(゜_゜;)
「は。。はい。。?」(T.T)
「し。。新郎さん、まだご案内していませんでしたかぁぁぁ??」」(◎-◎;)



いくら ぬえが紋付着てるからって言ったってさ。たった今終わったのは教会式で、ここはチャペルじゃねえか。。マニュアルに頼りすぎるから。。