ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

師家蔵・古いSP盤のデジタル化作戦(その1)

2006-09-16 01:14:24 | 能楽
中京に住む ぬえの友人の某研究者が、主に戦前の古い謡のSP盤を入手してはデジタル化する作業をしています。年末には関西方面で能楽学会のフォーラムが開かれて、そのテーマでこの時代の古い謡曲の録音を扱うそうで、そのための準備でもあるらしい。

彼が行っているデジタル化の作業は、それまで家庭などに死蔵されてきた録音盤を文献資料としてまとめる事にもなり、また学会の際には論文としてまとめられるわけで、1ヶ月ほど前に彼からこの話を聞いた ぬえは、彼に協力する事にして、ぬえの師家の家蔵のSP盤を拝借してデジタル化させて頂けないか、師匠にお伺いしてみる事にしました。

師家には古いSP盤やフィルムなども残されているのですが、もう今となっては再生する機械。。つまり蓄音機なんてないですから、こちらでもやっぱり死蔵、になってしまうんですよね。

先日師匠にとりあえずのご承諾を得て、今日の師家での稽古能が終わってから、所蔵品のリストを作るためにSP盤を探しはじめました(師匠も盤そのものがどこに保管されているのか、ハッキリした記憶をお持ちではありませんでした。それほどに死蔵されている、という証左でもあります)。そして装束蔵の隣の部屋の納戸の奥からついにそれらを発見しました。

それにしても。。リストを作ってみて気がついたのですが、SPレコードに限らず、音素材のメディアというのは、そこに記録されてある内容(音源)についての記録がとっても貧弱。。レーベルには曲目やシテの名前ぐらいは書いてあるけれども、それが能なのか、舞囃子か、はたまた素謡や独吟なのかさえわからないものが多いし、それどころか録音の期日はおろか、発売年月日さえどこにも記していないものばかり。文献を調べている感覚では、近代のものであれば書籍では発行所や発行年月日、逐次刊行物では巻号まで必ず明記されているのが当たり前なのに。。もちろんレコードのレーベルの記録スペースは限られているから、自ずと記録できる情報は限られてくるだろうけれど、当時は豪華な函入りで売っていたのですから。。

【注】
ここで、SPレコードどころかLPレコードやシングルレコード、はたまた昔はよく学童雑誌のおまけについてきた薄っぺらなソノシート。。なんていう、いわゆる「アナログ盤」をご存じないお若い読者のために解説をしておきますと。。

「レコード」ってのは円盤型で、プレイヤーに乗っけて針を下ろして再生する、というところまでは若い方もご存じでしょうが、ほんの20年前ぐらいまではCDなんてなかったのでレコードしかありませんでした。LPはLong Play の略で、直径30cm、片面30分、両面で60分程度が記録できて、レコードプレイヤーに乗せて毎分33回転で再生しました。シングルはEPともドーナツ盤とも言って、直径17cm、毎分45回転で片面3分程度を記録できたため、歌謡曲1曲分がちょうど収まり(と言うか歌謡曲がこれに収録できる事を条件に作曲したのですな)安価なため普及しました。いまのシングルCDですな。

これらはどこまで行ってもアナログなものなので、珍現象も起きました。たとえばCDと違って歩きながらなど移動しながらの再生はできないから、友達との貸し借りや車で聞く時はもっぱらカセットテープにダビングするのです。ところが、レコードプレイヤーの回転が個々の機械によってモーターの回転が微妙に違っていて、友達にテープを貸すと、あとで「なんだか演奏が遅いよ~」なんて文句を言われたりしたものです。レコード盤にキズがつくと、演奏に一定の周期で「プチッ。。プチッ。。」と雑音が入ったり、それどころかキズが甚大だとレコード針がそこで隣のミゾに移動してしまうショートカットのルートができてしまって、おんなじ箇所の演奏が無限ループ状態に。。その夜は枕が涙で濡れましたとさ。

それからプログレッシブ・ロックなんていう前衛的な音楽のジャンルではなぜか大作主義が流行った時期があって、LPレコードの片面いっぱいに1曲だけ、両面で2曲だけしか収録しない! なんてレコードがいくつもありました。そう言えばクラシックではどうだったんでしょうね。片面30分、全部で60分という収録時間のリミットとなると、交響曲なんかでは両面への収録の配分が難しかったのではないでしょうか。。?

これらLP・EPはどちらも塩化ビニール製で、音質を犠牲にしてそれを薄く作ったのがソノシート。こちらは雑誌のおまけなどに重宝されました。そんで、それより古い時代に存在したのがSP盤です。