ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

外面似大蛇内心如天女~『現在七面』の不思議(その1)

2009-07-10 01:11:41 | 能楽
来る8月23日(日)、東京・観世能楽堂で催される師家の月例公演「梅若研能会8月公演」にて ぬえは稀曲『現在七面』(げんざいしちめん)を勤めさせて頂きます。今回勤めるこの曲は「稀曲」というだけの範疇には収まらない。。ときに「珍曲」とさえ呼ばれるほど思い切った演出が採られている能です。というのも、後シテが二つの能面を重ねて掛ける、という掟破りの荒技が繰り出されるから。

『現在七面』は、そのような特殊な演出が採用されているから 能楽ファンの方にとっては有名な曲である一方、謡のお稽古をされておられていても「そんな曲があるんですか?」と言う方があるくらい上演頻度は低い、いわゆる「遠い曲」の筆頭でもあります。

今回 師匠に申しつけられてこの曲を勤めることになった ぬえは大歓喜! そりゃあそうです。こんなに思い切った演出が採られている曲を勤めるのは演者として やり甲斐のようなものが大きいです。曲の情趣などの魅力によって「演じたい曲」というのはたくさんありますが、演出の特殊性、というのも上演する意欲をかき立てるものなのですね~。

ところが上演が珍しい。。ということは不人気な曲は なかなか勤める機会がないわけで。。どうしても演じたいとなると自分で企画する催しで上演することになりますが、そうなると準備にかける労力も大変だし、そうして上演してみても、はたして不人気な曲を上演して採算が取れるのか。。という切実な問題もあります。能楽師個人の主催の催しは自己負担ですから、チケットが売れなければ自分に負担がのし掛かりますから。。

そういうわけで、こういう 所謂「稀曲」。。珍しい曲というのはシテ方の流儀、あるいは家の単位で催される「月例公演」とか「月並能」で、人気曲と抱き合わせのうえで ようやく上演される場合が多いのが現実です。こういう催しでは固定客もあり、そのような能そのものを愛してくださるお客さまに支えられていますから、いわゆる「稀曲」の上演をしやすい、ということもありますですね。

で、今回は師家の月例公演で ぬえが『現在七面』を勤めるチャンスが巡ってきました! ん~、とはいえ、たまたまですがその翌週の8月29日には伊豆の『狩野川能』で ぬえは大曲『望月』を勤めることを すでに決めておりまして、今回の師匠からのご指名は ぬえにとってやや複雑な思いでした。。やはり珍しい曲では その舞台に接した経験も限られていますから(ぬえの場合 地謡を2度勤めたことがあります)、文句も身に付いていないし、演技のコツのようなものも見て覚えた経験値というストックがない。。手探り状態で上演することになるからです。それが『望月』の1週間前。。はたして研究が進められるのか? まさか両曲が 共倒れなんてことには。。(T-T)

ま、ともあれ、例によって上演の内容に即しながら、今回もこのブログで作品研究をしてみたいと思います。今回の作品研究は『望月』と『現在七面』と、どちらにしようかなあ、と迷ったのですが、『望月』はすでに一度勤めたことがあり、一方『現在七面』は もちろん初役。しかもこの曲の研究記事は二度と書く機会がないでしょうから、今回は『現在七面』を取り上げてみることと致しました。

が、この曲。さすがに稀曲だけあって先考も ほとんどありません。ぬえが先行論文に頼らずに独自に調査すのは かなり未熟ですが。。どうぞ悪しからずお付き合い頂けたらと思いますです~(・_・、)

それでは 始まりはじまり~~~