ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

石巻・女川町を訪問して参りました(その19…敬老会。。素晴らしい催しでした)

2012-08-06 00:01:28 | 能楽の心と癒しプロジェクト
石巻の「敬老会」への出演ということで、会場に指定されていた湯殿山神社の剣道場に向かいました。

事前に主催者である民生委員の方からは催しの詳細を伺ってはおりましたが、どうもあまりよくわかりませんでした。対象となるお客さまは石巻市民の高齢者の方で、なんと100名以上のご参加、とのこと。いろいろなイベントが計画されていること。。オカリナ演奏、フラダンス、幼稚園児のお歌の披露。。なんだか能の上演は似合わないような、少々雑然としたイベントの中で、能の出演は10分間とのことでした。う~ん、これはどうなんだろうなあ。。

まあ、石巻のご高齢の方々に能をご覧頂くのは ぬえにとっても本望ではありますし、何よりお招き頂いた催しなので、ありがたくお引き受けし、全体の中で能の位置づけがどのようになるのかよくわかりませんでしたが、能の上演の部分だけは精一杯勤める所存でした。

もう一つ、この前日「石巻かほく」に掲載されたプロジェクトの活動についての記事が反響を呼びまして、前日から上演の詳細についてのお問い合わせを多数頂いておりました。ところが新聞に記事が掲載されたのは女川町での公演の日で、それ以後に残された公演はこの湯殿山神社での敬老会だけしかありませんでした。。が、言うまでもなくこちらの敬老会の催しは ぬえらプロジェクトの主催公演ではなく、民生委員のみなさんが主催者なので、ぬえらの公演のお問い合わせを頂いても、勝手に敬老会にご招待するわけにもいかず。。そこでお問い合わせを頂いた方には、この敬老会の楽屋にお出でをお勧めし、そこで簡単な能楽ワークショップを行うこととし、これは主催の民生委員の方に許可を頂くことができました。

こうして楽屋。。といっても六畳ほどの小さな和室で上演の準備を進め、また何人か楽屋にお出ましくださった市民の方には面や楽器の説明と体験をして頂きました。。じつはこの中に面を打つことを趣味としておられる方があって、ぬえがお話しした感じでは、なかなか面についての造詣も深い方とお見受けしました。次回はぜひこの方の打たれた面を拝見したいと思いますね~。



と言っているうちにこの日の上演の時間が迫ってきました。急いで装束を着けて。。準備もできて、さて楽屋で開演を待っているのがトップ画像。なんだか能の楽屋とは思えない雰囲気ですね~。いや、別に装束を着けて談笑しているわけではありませんが。。でも ぬえも緊張せずに舞台を迎えられた催しでした。

そして敬老会で舞った『羽衣』の画像がトップ画像です。ふだんは剣道場ですから大きな掛け軸や木刀が並ぶ中での演能。。



。。で、この敬老会、なにが驚くべき催しだったのかというと、この日に参加された高齢者の方々。。100名を超えるお客さまのすべてが、お一人住まい。。いわゆる独居老人だ、ということなんです。これを聞いて ぬえは驚いた。。

つまり民生委員さんは、常に地域の住民さんに気を配っていて、お一人住まいの方には、こうして楽しみの1日を過ごして頂く機会を設けていたのですね。送迎、会場の設え、食事や飲み物の用意、イベントの手配。。100名の参加者ともなると気の遠くなるような準備作業が必要だったでしょう。幼稚園児はお歌の披露だけではなくて、おじいちゃん・おばあちゃんとのふれあいの時間もあったようですし、オカリナやフラダンス、そうして能。。一見バラバラに見えるイベントも、大勢のお客さまの、いろいろなご趣味やお好みを考えてバラエティに富んだ催しになさりたかったのですね。

昨年は震災の影響で中止になったこの敬老会。今年はぜひ復活させたい、という意気込みの民生委員さんが「チーム神戸」にイベントの相談に訪れてくださったところから、ぬえらのお手伝いが実現できました。その熱意。そうして毎年 この敬老会のために会場の提供を続けてこられた湯殿山神社さま。素晴らしいことだと思います。お手伝いできた ぬえたちも誇らしく思います。

。。こうして石巻と女川町での活動を終えた ぬえたちは、関係者にご挨拶をして石巻を後にしました。まだ日の高いうちに帰途につくのは珍しいですが、それは東京に戻る前に、原発事故以来 警戒区域に指定されていた福島県の南相馬市が、この4月に区域指定が解除されたことに伴い、この地域を視察しようと考えたからでした。