ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

第9次支援活動<雄勝町・気仙沼>(その6…石巻観光協会さんで『松風』)

2012-09-06 01:42:14 | 能楽の心と癒しプロジェクト
さてラジ石でも宣伝したので、観光協会さんに戻って早速『松風』の上演準備。

この上演は今回後見を勤めてくださる石巻市民の相澤さんのリハーサルを兼ねての上演です。。というのも、翌日に予定されている石巻の雄勝町の小学校で『松風』を上演する予定になっていまして、このときに相澤さんに後見を勤めて頂くことになっていました。資料やビデオもあらかじめ送っておいて、そうしてラジ石出演の前に物着の稽古も済ませていましたので、この公演が総仕上げ。

そういえば観光協会さん。。観光物産の総合センターである「ロマン海遊21」さんでの上演も、もう何度目になるでしょうか。思い出すなあ、最初、去年の9月に突然乗り込んで、「ここで能を上演させてくださいっ」なんて言って、か~な~り怪訝な顔をされて。。それこそドン引き状態ながらムリヤリ認めて頂いて。いまではプロジェクトの石巻での最大のご協力を頂いているお相手のひとつです。本当にお世話になっていますね~~

今回の『松風』はちゃあんと物着もある本格的な上演です。この日はかなり省略したけれども、それでも上演時間は30分近くかかったのではないでしょうか。お客さまは通りすがりの石巻市民のみなさん。長い能だけれども、かなりキチンとご覧頂いたようでした。





この公演の前に、いつもプロジェクトの活動を撮影してくださる東京の能楽写真家のYさんや、今回ご希望があってプロジェクトの活動に全面的に同行されたKさん、さらに松島町在住で笛のTさんのお友達。。こちらも何度もプロジェクトの活動におつきあい頂いているMさんも駆けつけてくださり、なんだか初日から賑やかな控室。そうして公演の終了後に控室に戻ると、東松島市の能面作家・木村さんと、石巻で同じく面を打っておられる梶原さんが顔を見せにいらっしゃいました。



木村さんは東松島で震災前から般若面ばかりを趣味で打っておられる方。しかし…震災でお嬢さんとお孫さん3人を同時に失ってしまわれたのです。一時はなにをする気力もなくなってしまわれたそうですが、その後、仕事途中で置きっぱなしになって投げ出されていた面を見ているうちに、これを続けることがひとつの供養とお考えになって、面打ちを再開されたのでした。このお話に驚いた ぬえは、その後東松島で木村さんの能面展との共催という形で仮設住宅を廻って公演をしたこともありました。いまちょっと東松島での活動は停滞気味ですが、いずれは木村さんの打った面で舞うことができればいいな、と思っております。

梶原さんは、つい先日、6月の第8次活動の際に地元紙「石巻かほく」に掲載されたプロジェクトの活動をご覧になって ぬえにコンタクトを取られた方です。その際は公演にも駆けつけて来られたので、控室で ぬえ所蔵の面をお目に掛けたところ、かなり細部まで面についての知識がおありでしたので、次に ぬえたちが石巻に来るときには、自作の面をご持参頂くようご助言申し上げました。このたびはその約束を違えずにお出でになったもので、自作の面を何面かご持参されました。

そうですね。。どちらの方も、基本的な才能はお持ちだけれど、もう少し丁寧に打たれるといいかな、と思います。とくに裏。それと面の厚さとか、彩色の濃淡のつけかたとか、やや違和感もあるのが残念。やはりお手本となる面を身近に置いておいて、常に見ている事は難しいでしょうから、その辺りが課題でしょうか。それでも才能はどちらの方にもあると思います。

…というか、面を打とうと考え、これが長期間続いている方に才能がないわけがないです。基本的なデッサン力というか絵心、みたいなものがなければ、能面のような繊細な彫刻は まったくモノにならないわけで。。それでも趣味であってもずっと能面に向き合う方は、絶対的にそういう絵心の才能がなければ続けられるものではないでしょう。。ぬえですか? もちろん ぬえ自身は面を打とうなどと考えた事は一度もありません! ましてや面を打つことが如何に大変な作業の連続かがわかった現在では。。面を打つなんて、あり得ない。。それほど絵心がない ぬえのような者にとっては、面を打つというのは大変なことで、面打ちをされる。。ぬえも今回の一連の東北地方の支援活動では、ある面打ちさんに絶大なご支援を頂いたのですが、このような面打ちさんの努力や才能というものは羨望と尊敬の思いで見るよりほかありませんね~~

こうしてこの日の催しは終わりました。今回の活動ではこの翌日から本格的な活動が始まる予定になっていたのですが、その前日に現地入りした ぬえと笛のTさんは、これも予め決まっていたラジ石への出演のほか、それじゃ、っていうので、急遽、石巻観光協会さまにお願いして、またまたこちらで上演させて頂いたのでした。まずは初日の活動としては上出来ではないでしょうか。

片づけをして観光協会さまを辞して、夕食は地元ローカルでは有名なお店で名物の釜飯と「陶板焼きハンバーグ」を賞味。こうしているところにワキのNくんもそろそろ到着、と連絡が入りました。ぬえは店から商店街の道路まで出て待ち受け、Nくんの到着とちょうど出会い、駐車場に誘導して、さてNくんも交えて夕食の続き。

こうして長い1日は終わりました。ぬえたち能楽師の宿所の住民ボランティアさん。。石巻の渡波(わたのは)という地区の激甚被災地のただ中のご自宅に戻り、津波で壊れた浴室の代わりに屋外にプレハブで建てられたシャワールームで汗を流して、疲れ果てて就寝。。

。。と言いたいところですが、ぬえだけは一人で夜の渡波。。津波の被害で人家もあまり残っていない中で、なぜか開いていた近所の居酒屋さんに飲みに行きました~